第25話:特訓の成果




「さあて……、じゃあかかって来いよ、コウッ!」

「ああ、今日は勝たせて貰うからね……、レンッ!」


 王宮内にある修練場の武舞台にて。何処か挑発するようなレンに対峙しながら僕は決意も込めてそう答える。各人との模擬戦は1日1戦という事になっているから、もう20戦目くらいにはなると思われるレンとの対戦……。

 自分の無力さを痛感し、強さを身に着けようと決意したあの日より、王城ギルドの依頼クエストをこなしながら修練を重ね、この世界について色々と知識を深めてきた。レンだけでなくヒョウやハリード達、そしてたまに交流の為にやってくる冒険者ギルド『天啓の導き』所属の顔見知りとなった、ジーニス、ウォートルとも模擬戦を行い、それぞれがどのような戦い方をするのか、どんな能力スキル、魔法を使うのかが大分把握出来ている。

 ヒョウやジーニスたちには勝ったり負けたりしているが、流石というべきかレンには一度しか勝つことが出来ていない……。その一度の勝利も、彼があえて重力魔法グラヴィティを受けてみての勝利なので、正式には勝ててはいないともいえる。

 ……因みにユイリとグランとも一度だけ模擬戦をして貰ったのだが……、あっさりと勝負がついてしまい、もう少し戦えるようになるまでは再戦は控えている……。


「じゃあ、2人とも準備はいい?……それでは、はじめっ!」


 審判役のユイリがそう宣言して、僕とレンはお互いに戦闘態勢に入る……!


「……我が身に流れる時の流れを研ぎ澄まし給え……『加速魔法アクセラレート』!!」

「チッ……、早速使ってきたか……!」


 舌打ちするレンを余所に、僕は加速効果をその身に付与させる。最近覚えた新しい魔法だ。以前、シェリルが掛けてくれた『全体加速魔法アーリータイム』の個人バージョンといったところだろうか。既に自身に掛け続けている重力は解除しており、こうすることで敏捷性に関してはレンよりも素早く行動できるようになる。


「行くぞ、レンっ!」


 その掛け声とともに僕は剣を構えたレンの元へ疾走する。重力魔法から解き放たれ、加速効果を受けた僕のスピードは元の世界の100m世界王者のそれよりも遥かに早く、それゆえに目にも止まらぬ速さで彼に迫っているのにも関わらず、レンには僕の動きが捉えられているようで、


「そこだっ、『地烈閃斬アーススラッシャー』!!」

「うわっ、と……!」


 レンより放たれた地を這うような斬撃に何とか跳躍して躱すも、


「……前に言わなかったか?空中に避けたらただの的だとよ……!」

「や、やばっ!」


 空中に躱した刹那、彼から忠告じみた言葉が聞こえ……、そして剣を振りかぶるとレンはトドメとばかりに僕に向かって斬撃を放つ。


「今日はあっけなかったな……『弧月閃斬ムーンスクレイパー』!!」


 三日月の弧を描くような綺麗な袈裟切りが僕に迫り、切り裂いた……かに見えた。


「な、なんだとっ!?」


 僕に当たったように見えた剣閃が空をきり……、驚愕しているレンの隙をつくような形で、僕は地を蹴り、レンに向けて突進しながら剣技、『疾風突きチャージスラスト』を繰り出す。


「うおっ!?あぶねっ!!」

「!躱されたかっ」


 レンは疾風突きチャージスラストを紙一重で躱すと、同時に僕から距離をとるように離れた。


「……まさか残像を作り出すなんてな……やるじゃねえか!」

「くっそー……、今のは決まったと思ったのに……」


 再び剣を構えながら感心したように言ってくるレンに僕は悔しさを滲ませる。重力を解き放ち、加速の有利効果バフを得た僕の敏捷性ならば、一瞬だけ残像を作り出す事が出来る旨をユイリから教えられ、試してみて成功したところまでは良かったのだが、レンから一本とるまでは至らなかったようだ……。

 あれで勝てないとなると……。僕は少し考え、ある魔法の詠唱に入る……。


「おっと、『重力魔法グラヴィティ』は唱えさせねえぜ……!レイヴンソードっ!!」


 レンはそう言うと自らの手にする魔法剣、『レイヴンソード』の力で衝撃波のようなものを飛ばしてくる。今の僕がレンから一本をとれる恐らく唯一の手段、重力魔法グラヴィティを使うとみてその妨害に動いたのだ。


「……大地よ、我が呼び掛けに応じ彼の者への礫とかさん……!『石礫魔法ストーンショット』!」


 僕はレンから放たれた衝撃波を避けつつ、魔法を完成させる。『重力魔法グラヴィティ』よりも詠唱時間の少ないその魔法は、修練場内の小石や破片に干渉して浮き上がらせると、四方よりレンへと殺到するように襲い掛かった。


石礫いしつぶてかっ!?くそっ……!『円空陣』!!」


 襲い来る石の礫から身を守るべく彼は防御技と思しきものを発動させる。レンへと殺到した小石や破片が、見えない刃のようなもので斬り払われ、無効化されてゆく……。しかし、僕はその間に本命の魔法、重力魔法グラヴィティの詠唱を完成させた。


「……此の地に宿りし引き合う力、その強弱を知れ……『重力魔法グラヴィティ』!!」

「グッ……しまった……!」


 円空陣を使用した反動なのか、僕の詠唱を妨害する事が出来ずになす術もなく重力魔法グラヴィティを受けるレン。今その身体には、強い重力が掛かり身動きもままならないだろう。




 NAME:レン

 RACE:ヒューマン

 Rank:108


 HP:303/329

 MP:32/37


 状態コンディション戦闘時自動回復バトルヒーリング、重力結界




 念のため評定判断魔法ステートスカウターで必要な情報だけを確認すると、やはり重力に苛まれている事がわかる。この機を逃す手はない!僕はミスリルソードを握り締めるとレンの背後へと回り込み、攻撃を再開する。それでもレンは僕の剣撃を防いでいたが、やはり動きが鈍く隙が生まれて、その喉元に剣を突き付けられる形となった。


「そこまでっ!この勝負、コウの勝ちっ!!」

「やっ、たぁーっ!!ついに、レンから一本とったぞっ!!」

「ちっ……くしょおーっ!負けたぁ……っ!!」


 審判をしていたユイリが判定を下し、僕とレンの声が修練場に響き渡る。僕の重力魔法グラヴィティを警戒し、それを使わせないようにしたレンを抑えての勝利……。事実上の初勝利であり、漸くレンに勝てたという喜びが抑えきれないっ!


「おー、ついにレンから一本とっちまったか……!」

「まだひと月も経っていないというのに……、随分と優秀ですね……」


 レンとの模擬戦を見守っていたポルナーレたちが話している言葉が聴こえる。それを聞いたレンが、


「いや!また明日からは俺が勝つぜっ!今日のはたまたまだ、た・ま・た・まっ!!」

「……大人げないのう、お主も認めておるだろうに……、あやつの成長は……」


 それとこれとは話は別だ、と喚くレン。1日1試合の為、再戦は明日となるが……、この分だと明日からはまた一段と厳しい試合となるだろうな……。

 因みに1日1試合というのはユイリやガーディアス隊長の決定である。そうした方が一戦一戦に身が入りやすくなり、成長効率も良いとの事で……、実際に体験してみてその通りだと思った。1日1試合しか出来ないからこそ、勝つために知恵を絞り、最善を尽くすようになって……、それが飛躍的な成長につながっていくのだ……。


「お疲れ様です、コウ様……。レン様もどうぞお使い下さい」


 そこに控えていたシェリルがやって来て、僕らにタオルを渡してくれる。


「ありがとう、シェリル……」

「ああ、助かるぜシェリルさん……!コウ、明日は覚悟しておけよ、今日のようにはいかねえぜっ!」


 闘志をむき出しにするレンに僕も負けじとそれに応え、


「負けないよ、レン!折角勝ちパターンが掴めたんだっ!そんな簡単にやられてたまるもんかっ!!」

「言ったな!?俺だってお前がどういう風に攻撃してくるか掴めたぜっ!明日勝つのは俺だっ!!」

「フフッ、勝気なのは大変結構ですけれども……、お二人とも、それくらいになさって下さいな。ユイリが困っておりますわよ?」


 小さく笑いながらそう言ってくるシェリルの言葉にユイリの方を伺ってみると、いつまでも武舞台から立ち去らない僕たちにイライラしている様子が見て取れた。


「貴方達ねえ……いい加減そこから降りてくれないと片付かないでしょうが!!この後も模擬戦は控えているのよ!?」

「あ、ああ……すまねぇ、ユイリ……」

「す、すぐに降りるよ……」


 彼女の剣幕に、僕たちは慌てて武舞台から降りる。それを見てユイリは全く子供みたいなんだから……、と文句を言いつつ、生活魔法の中の『再現魔法リアピアランス』を詠唱して、武舞台を元の綺麗な状態に戻してゆく……。確かにレンの剣圧で抉れた地面や、小石やら破片やらが散乱したあの武舞台では、次の試合は行えなかっただろう……。


 そんな時、修練場の扉が開いて誰かが入ってきた。


「……へぇ、レンを破る、か……」


 そう言ってやって来たのは銀髪に薄い水色の瞳をした美青年……、同じ王城ギルド『王宮の饗宴ロイヤルガーデン』のメンバーでもあるグランだ。


「あら、グラン……、今日は飛翔部隊での演習訓練があるって聞いていたけど……」

「その筈だったんだけどね……、それぞれに任務が入って、結局明日に延期する事になったんだ。それでちょうど任務も終わって、折角だからレンとでも模擬戦をしようと思ってここに来たんだけど……」


 武舞台を整備していたユイリからの質問に答えると、グランは僕の方を見る。


「……前に模擬戦をした時よりもかなり腕を上げたようだね、コウ……。どうだい?また僕と戦ってみないかい?」

「グランがそう言うのなら……お願いしたいな。前回は全く歯が立たなかったけど……今度はそうはいかない……!」


 僕の意気込みにお手柔らかに頼むよ、と苦笑しつつ武舞台へ上がってくるグラン。


「……もう少しお休みされた方がいいのではありませんか?レン様と戦われたばかりなのですよ」

「大丈夫さ、シェリル。あんまり疲れてもいないし、どちらかというと興奮の方が勝ってる。この勢いのまま、彼と戦った方がいいと思うし……」


 心配するシェリルにそう言って、僕も再びグランの待つ武舞台へ上がる。……コウ様の大丈夫はあまり信用できませんのに……、そんなシェリルの呟きが聴こえたような気もするけれど、取り合えず気にしない事にしてグランの前に対峙すると、


「シェリル嬢のおっしゃる通り……、少し休んでからでいいんじゃないかい?別にそれくらいは待つよ?」

「いや、大丈夫さ。早速始めよう……、ユイリッ!」

「……全く、貴方は……。まぁいいわ、2人とも準備はいいかしら?」


 僕とグランの様子を確認し、ユイリは模擬戦開始を宣言する。弾かれたように僕はグランから距離を取ると、


「……之を知るを知ると為し、之を知らざるを知らざると為せ……即ちこれ知れる也……『評定判断魔法ステートスカウター』!」




 NAME:グラン・アレクシア

 AGE :22

 HAIR:銀

 EYE :ライトブルー


 RACE:ヒューマン

 Rank:132


 身長:180.4

 体重:72.5


 JBジョブ:竜騎士

 JB Lvジョブ・レベル:38


 JBジョブ変更可能:槍術士 Lv30(MAX)

        魔術士 Lv30(MAX)

        天空騎士 Lv50(MAX)


 HP:285

 MP:174


 状態コンディション戦闘時自動回復バトルヒーリング

 耐性レジスト:氷属性耐性、混乱耐性、幻覚耐性、魅了耐性、ストレス耐性


 力   :123

 敏捷性 :112

 身の守り:108

 賢さ  :140

 魔力  :157

 運のよさ:56

 魅力  :189




 取り合えず彼の情報を知りたくて、あまり調整せずに評定判断魔法ステートスカウターを発動したところ、何やら異次元のステイタスが表示された。


(な、なんだこれ!?レンも強かったけれど……、グランもまた輪を掛けて化け物みたいなステータスを……!)


 ステイタスの数値だけでいったら、いつか見た勇者であるトウヤの数値に匹敵するんじゃないのか……!?彼のステイタスを見て恐れおののいていると、


「慎重だね、何時ぞやのように突っ込んでくるのかと思っていたんだけど……」

「……前にそれであっさりと終わってしまったからね。そりゃあ慎重にもなるさ……!」


 余裕綽々といった様子で話し掛けてくるグランに僕はミスリルソードを正眼に構えながらそう答える。

 ……以前に模擬戦で戦った際に、あっさりと終わってしまったグラン戦とユイリ戦。ユイリは開始の合図とともに背後を取られて武器を喉元に突き付けられる形となってあっさりギブアップしたのに対し、グランに関しては先手必勝とばかりに向かって行って……、気が付けば彼に槍を突き付けられていたのだ。


(とりあえず迂闊には近づけない……、それならばっ!)


 シェリルやレイアが見てくれた魔法の特訓の末、身に着けた新たな魔法……、石礫魔法ストーンショットに続く、初級攻撃魔法をグランにぶつけるべく詠唱してゆき、


「……燃え盛る炎よ、我が力となりてこの手に集え……『火球魔法ファイアボール』!」


 火属性の古代魔法にして、基本の初級魔法。元の世界においてもゲームをやっている者にとっては知らぬ者はいない火球魔法ファイアボールが、佇んでいるグランを飲み込むべく接近していく。


「……凍てつく氷よ、この手に集まりて氷塊とかさん……『氷塊魔法アイスロック』」


 冷静に言霊を詠唱し、僕の火球魔法ファイアボールに自身の作り出した氷塊をぶつけるグラン。火球が氷塊を飲み込むものの……、炎の勢いは収まってゆき、やがて消滅してしまう。

 というよりも……氷属性の魔法で炎属性魔法を相殺する時点で、魔法の威力はグランに軍配があがる、という事でもある。


「……遠距離から攻めようとしても駄目か……」


 それならとばかりに、レンとの模擬戦でも使用した加速魔法アクセラレートを詠唱し、自身のスピードアップを図る。……この間にもグランは様子を見ているだけで、一向に仕掛けて来る気配がない。


「……随分と余裕そうだね、僕相手なら問題ない……、そう思っているのかい?」

「まさか……、折角の模擬戦なんだし、君の力を見てみたいと思っているだけさ。……まぁ、何をしてきたとしても対応してみせようとも思っているけど、ね……」


 ……要するに僕相手なら対応できるって思っているって事だろうに。最もステイタスを見た限り、彼との間には大きな実力差があるからそう思われても仕方ないけれども……。


(それでも、レンと僕とだってかなりの差があるのに何とか一本取る事が出来たんだ。グランにだって、勝ってみせる……っ!)


 そう思いなおし、僕はグランを翻弄すべく彼の周りを駆け回っていった。速度の緩急をつけ、残像を残せるように動き回り……、某人気漫画のように幾重にも残像を作って、自分の位置を悟らせないようにしようと考える。しかし……、


「……そこだよ、『昇り飛竜』!」


 グランは動き回っている僕の位置を完全に把握しているようで、構えた槍を正確に僕に向けて何やら技を放つ。竜を象ったオーラのようなものが僕に迫ってくる……!


「くぅ……っ!」


 何とか躱したかと思ったが、そのオーラに掠ったらしく僕の身体に衝撃が走る……!それに耐えて立ち上がると、グランは悠然と構えていた。


(……駄目だ、崩せない……っ!やっぱり重力魔法グラヴィティを掛けて隙をつくしか……)


 幸い今ならばグランはこちらの出方を伺っているように見える。それならばと僕は魔法を詠唱し始めると、


「すぐに詠唱の終わる魔法なら兎も角、そんな魔法を大人しく唱えさせると思う?……『流星群』!!」


 グランがそう呟くと同時に流れるように魔力の塊が次から次へと襲い掛かってきた。そ、そんなのアリか!?


「うわっと……、わわっ!」


 次々と流れてくるソレを僕は何とか躱していくが……、とても魔法を詠唱している余裕はない。それどころかこのままだといずれ直撃してしまう……!


「……サラマンダー!」


 そこで僕は、この間使えるようになったばかりの火の精霊に呼び掛ける。……清涼亭で料理を作っていた際に、感じる事が出来たサラマンダー……。その力を借りるべく呼び掛けると、


(……ナンダ、コンナトキニ、オレヲヨビカケルナド……)

(サラマンダー、力を貸してくれっ。グランの周りに小さな炎をおこして牽制して欲しいんだけど……)


 やって欲しい内容をサラマンダーに伝えると、彼から返ってきた言葉は……、


(……コトワル。ナニモナイトコロニ、ヒヲオコスコトガドレダケタイヘンカ、オマエハワカッテ……)

(やってくれたら、後で好きなだけ火をおこさせてあげるから)

(マカセロ、チイサナヒデ、イインダナ?)


 最初は面倒くさがって断ったサラマンダーだったが、僕の買収じみた提案に、手のひらを返したように了承してくれる。とりあえず、仕切り直さないと話にならない……。


「ん……?詠唱した様子は無かったようだけど……。ああ、精霊魔法か……」


 グランの周りにポツポツと小さな炎が発生し、少し驚いたような様子を見せる。そこで彼は『流星群』の効果を解除し、新たな魔法を詠唱し始めた。それを見てタイミングを見計らい、僕も魔法を詠唱する。


「武舞台の空間ごと凍って貰うよ……全てを凍らせる地獄の冷気よ、流れる風をも凍らせて選ばれし者たちを凍り付かせよ……!『吹雪魔法ブリザード』!!」

「そう上手くいくかな……魔法を打ち消ししものは魔法のみ……!『対抗魔法カウンタースペル』!!」


 グランの魔法の完成に合わせて、それにぶつける形で僕の魔法を完成させる。そして、その効果はすぐに表れた。


「なっ、魔法がっ!?くっ……!」


 自分の完成した魔法が、目の前でかき消され、軽い衝撃がグランを襲う。驚愕したグランは、その衝撃をまともに受けて、今まで付け入る事も出来なかった彼に初めて隙が出来る。


 ……この世界の魔法において、それを中断、妨害する方法は大きく分けて3つある。

 1つ目は先程グランがやったように、物理的に相手の詠唱を中断させる方法。相手の魔法を使う為の言霊を唱え魔力素粒子マナに働きかけるのを妨害するやり方で、一番ポピュラーな方法かもしれない。

 2つ目は魔法を完成させる為に必要な言霊を封じるやり方……、相手を沈黙させてしまう方法。相手が沈黙する事に耐性があれば難しいが、決まってしまえば相手は解除しない限り魔法を唱える事が出来なくなってしまう。

 最後3つ目は相手の言霊、もしくは魔力素粒子マナの変換の一部を干渉、妨害し魔法自体を完成させなくする方法だ。『妨害魔法ジャミング』とも呼ばれ、これも成功すればその魔法は完成する事なく不発に終わる事になる……。

 それぞれ利、不利があり、物理的に妨害する方法は、相手に上手く躱されて魔法を完成させてしまったら意味が無いし、沈黙させる方法も相手に通じなければそのまま魔法を受ける事になる。妨害魔法ジャミングを使う方法は一見隙がなさそうであるが、相手の魔法に干渉するのは中々難しく、それを使う前に相手に魔法を完成させてしまうという欠点がある。


 僕のグランに掛けた対抗魔法カウンタースペルは、それらとは別の種類の妨害方法で、相手の魔法の完成に合わせて放ち、その魔法自体を打ち消してしまうというものだ。さらに魔法を打ち消された反動とばかりに軽い衝撃を与えて物理的にも精神的にもダメージを負わせる……。相手のタイミングさえ掴めれば、ある種万能な魔法殺しマジックキラーであり、元の世界のあるカードゲームを参考にしたものが、僕の独創魔法としてこの世界で使えるようになった、という事だ……。


(この機を逃す訳にはいかない……、喰らえ、グランッ!)


 グランに生まれた隙をつくような形で、重力魔法グラヴィティを完成させ、彼に対し重力の枷を負わせる事に成功する。




 NAME:グラン

 RACE:ヒューマン

 Rank:132


 HP:270/285

 MP:139/174


 状態コンディション戦闘時自動回復バトルヒーリング、重力結界




 先程のレンと同じように重力結界に掛った事を確認して、僕はグランに対し疾風突きチャージスラストを繰り出した。一陣の風のように、グランに接近する中で、勝ったと確認したその時、僕は確かにその呟きを聞いたような気がした。


「…………『絶対空間』」






「はっ……!?」


 気が付いたら僕は倒れ……、その喉元に槍を突き付けられていた。


「それまでっ、この勝負……グランの勝ちよ!」

「ええっ!?そ、そんな馬鹿な……っ!いったい、何が……」


 僕は動きが遅くなったグランに疾走していた筈だ。彼に突きを入れようとしたところで……気が付いたら逆に負けていたって……!ははっ……頭が如何にかなりそうだ……。


「訳が分からないといった感じね。でも、気にしない方がいいわ。今の相手がグランでなければ、貴方の勝ちだったでしょうけど……」

「ああ……、まさか奥の手まで使わされる事になるとは思わなかったよ……」


 混乱している僕に言い聞かせるように話し掛けてくるユイリに続き、やや呆然とした様子でグランが呟くような声で答える。


「……今のは一体何……?絶対空間って言っていたような気がするけど……。それに、奥の手って……」

「流石にアレについて話す事は出来ないけれどね……。だけどコウ、今の勝負は君の勝ちと言っていいよ。こんな僅かな期間で、ここまで君が成長しているなんてね……」


 これは追い抜かれるのも時間の問題かな?……そんな事を苦笑いを浮かべつつ言うとグランは武舞台から降りて修練場を出て行こうとする。


「おいおいグラン、俺とは戦らないのか?」

「ええ、ちょうど部下たちも任務から戻ってきたと連絡も入りましたしね……。レン、君との模擬戦はまた後日にしましょう。それではまた……」

 

 そう答えるとグランは修練場の扉を開いて出て行った……。それをぼんやり見ていたら、


「お怪我はありませんか?……少し失礼致します……『癒しの奇跡ヒールウォーター』」


 座り込んだ僕にシェリルが駆け寄ると、そっと癒しの魔法を掛けてくれる。特に怪我した訳ではなかったものの、彼女の魔法により立ち上がる事が出来るくらいまで回復したのがわかり、


「有難うシェリル……、何かお礼を言ってばかりだけど……」

「……お礼を言って頂くような事ではありませんが……そんな事よりコウ様、わたくしはお伝えした筈ですよ、ご無理はなさらないようにと……」


 何処か怒っているようなシェリル。そんな彼女の様子に僅かに目を見張るものの、シェリルの抗議は続く。


「レン様と模擬戦を終えられたばかりで、すぐにグラン様と戦われるなんて……無茶にも程があります!」

「…………ごめん」


 自分としては疲れていなかったつもりだったけれど、精神的にはかなり疲弊していたのかもしれない……。何と言ってもレンは自分より格上の相手なのだ。とはいえ、それを言い出したらヒョウたちも僕よりも豊富な経験があり、自分より強い人ばかりという事になるが、毎日対戦している中で殆ど勝てなかった相手はレンだけである。そんなレンとの戦いは、知らず知らずの内に疲労を溜め込んでいたのだろう……。


「……どうか自身の事をもっとご自愛下さいませ……、コウ様の『大丈夫』は、わたくしからすると全く『大丈夫』ではないのですから……」

「……ごめん、本当に気を付けるよ」


 シェリルの言葉にぐうの音も出ず、謝る事しか出来ない……。それを見ていたユイリは、


「今日はここまでにしておきましょうか。それにしても、本当に強くなったわね。まだひと月も経っていないというのに……」


 珍しく感嘆するように言ってくるユイリに、彼女の方を見ると、


「今戦ったら、私も負けちゃうかもしれないし……、少なくとも前回みたいにはいかないでしょうね」

「そうだといいんだけどね……」


 確かに前回ユイリと戦った時よりは強くなったと思うけど……。彼女にそう言われて、僕は自身のステイタスを確認してみると……、




 RACE:ヒューマン

 Rank:40


 JBジョブ:剣士

 JB Lvジョブ・レベル:16


 JBジョブ変更可能:見習い戦士 Lv20(MAX)

        ラッキーマン Lv50(MAX)


 HP:125/139

 MP:47/95


 状態コンディション鋼の意思アイアン・ウィル、重力結界(調整)

 耐性レジスト:病耐性(一部)、睡眠耐性、ストレス耐性


 力   :82

 敏捷性 :94

 身の守り:70

 賢さ  :163

 魔力  :53

 運のよさ:137

 魅力  :46


 常時発動能力パッシブスキル:自然体、薬学の基礎、商才、値段交渉、滑舌の良さ、早口言葉、宝箱発見率UP、取得経験値UP、消費MP軽減(小)、約束された幸運、絶対強運、運命神の祝福、鋼の意思アイアン・ウィル、一般教養、礼儀作法、社交


 選択型能力アクティブスキル:生活魔法、精霊魔法、古代魔法、独創魔法、基本技、運命技、固有技、料理のレシピ、調合のレシピ、研究成果、戦闘の心得、剣の取り扱い、初級魔法入門、中級魔法特集、学問のすゝめ、研究分野の選択、料理の基礎、目指せ調合マスター、農業白書、物品保管庫、???からの呼び声≪1≫


 資格系能力ライセンススキル:研究資格者、商人の証、ダンジョン探索、幸運の女神の寵愛


 生活魔法:確認魔法ステイタス通信魔法コンスポンデンス収納魔法アイテムボックス貨幣出納魔法コインバンキング輝石操作魔法パイラキシーン点火魔法イグナイト水温調整魔法アジャストシャワー


 精霊魔法:サラマンダー、シルフ


 古代魔法:火球魔法ファイアボール風刃魔法ウインドブレイド石礫魔法ストーンショット加速魔法アクセラレート評定判断魔法ステートスカウター看破魔法インサイト知覚魔法プレイスラーン不可思議魔法ワンダードリーム


 独創魔法:重力魔法グラヴィティ対抗魔法カウンタースペル


 基本技:気合い溜め、ディフレクト、投石、応急処置、精神統一


 剣技:パリィ、二段斬りダブルスラッシュ十字斬りクロススラッシャー疾風突きチャージスラスト


 運命技:イチかバチか、神頼みオラクル、ハイ&ロー


 固有技:残像★(敏捷性130以上必要)




 重力を解除した状態だと、敏捷性も90を越え、他のステイタスもかなり上昇した。特に、賢さについては、この世界の事がわかってくるのに従って大幅に上昇し、新たに『一般教養』、『礼儀作法』、『社交』といった能力スキルも発現したのだ。

 また他の職業ジョブも色々レベルを上げた結果、剣士や魔術士、料理人に調合士、研究者といった新しい職業ジョブにも転職出来るようになり、確実に強くなっていっている実感はあるものの……、それでもグランのような異次元の強さを目の当たりにすると、まだまだ未熟だとも思ってしまう。

 ……結局、何かの呼び声みたいな能力スキルは試してもいない。何時かは試してみなければならないだろうけど……。


「うん?通信魔法コンスポンデンス……?レイアからか……」


 そんな時、僕に通信魔法コンスポンデンスが送られてきて、それが大賢者の弟子であるレイアからのものだとわかり、開いてみたところ、


<コウ、元の世界への帰還について判明した事があるから、今ボクのいる『天啓の導き』まで来られないか?>


 元の世界への帰還!?ついに帰れる方法がわかったのか!?僕は一気にテンションが上がり、ユイリに向き直ると、


「この後、冒険者ギルドの方へ行っていいかな!?レイアより通信魔法コンスポンデンスが来て、話したい事があるって事なんだけど……」

「話したい事?それって何時もの魔法の勉強とかそういう事ではないって事かしら?」

「帰還の事についてらしい。今日の模擬戦は終わりなんだろ?それとも行く前にフローリアさんに断った方がいいかな?」


 僕が尋ねるとユイリは口元に片手をやり考え込んでいたようだったが、


「……いえ、彼女がそう言うのであれば大丈夫でしょう。私の方からフローリアさんには通信魔法コンスポンデンスでお伝えするからいいわよ。……でも、どうして冒険者ギルドなのかしら?」

「さぁ?その辺の事はわからないけど……。まぁ、何時もの大賢者様の館でなく『天啓の導き』で待ち合わせというのは直接聞いてみたらいいんじゃないかな?」


 ……貴方は気楽でいいわよね、なんて溜息まじりに答えるユイリに怪訝に怪訝に思うも、今ここで問答していても仕方がない。

 シェリルは勿論、ユイリはお目付け役で付いてくるとして、レンも丁度冒険者ギルドに顔を出す予定があるという事で、まだこちらで訓練を続けるというヒョウたちを残し、後片付け等は彼らに任せて、僕たち4人は通信魔法コンスポンデンスを送ってきたレイアの元へ向かうのであった……。

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