オリヴィアさんの考え

「オリヴィアさん、お聞きしたいことがあります」

『何かしらァ?』

 画面の向こうで、オリヴィアさんが首をかしげている。

「3日以内に、ゲーム内で設定された条件をクリアしないと、条件をクリアしていない人たちがゲームにログインできなくなることは、ご存じですよね?」

『ええ、知ってるわァ』

「オリヴィアさんは、条件をクリアされたりしてます?」

『そっか、あと3日以内に条件を見つけてクリアしなきゃいけないのよねェ。まったく考えてなかったわァ』

 オリヴィアさんののんきな声は、なんだか安心する。

『……オリヴィアは、ゲームから強制ログアウトさせられてもいいのか』

 シュウさんの声に、オリヴィアさんはうーん、とうなる。

『そうねェ。まぁ、もう少し遊びたいって気持ちはあるけどォ。わざわざ、そんな条件をクリアして、それをクリアした人たちだけ遊べますっていう世界に、わざわざ残らなくてもいいかなァって思うところもあるのよねェ』

 顔をしかめるオリヴィアさん。

『だって、誰でも違う自分になれる、なりたい自分を見つけられるのが、このゲームの良さだったわけじゃない? それを、何かをクリアしてまで得るって言うのは……、うまく言えないけど、なんだか違うような気がするのよねェ』

『……意外と、ちゃんと考えての行動だったのか』

『何よォ、シュウちゃん。バカにしてェ。アタシだって、ちゃんと考えて生きてるわよォ。考えることを辞めちゃったら、頭がぼけていくだけじゃない』

 プイッ、とすねたように顔をそむけるオリヴィアさん。なんだかいつまででも、この人のことを見てられる。コロコロと表情が変わって、楽しい人だ。

「でも、そのシステム自体を変えられるとしたら、どうでしょう」

 私の言葉に、オリヴィアさんがきょとんとした顔で私に向き直る。

「条件をクリアしなくても、今まで通り好きなように、リアルの自分とは違う人生を生きられるゲーム。好きな時にログインして好きな時にログアウトできるゲームだったら」

『ええ、それなら、このゲームに居続ける価値があると、アタシも思うわァ』

 オリヴィアさんがうなずいてくれる。

「元々のこのゲームのアイデアを思い付いたであろうムトウさんとは相反する形になるとしても、私は今のこのゲームが大好きだから。条件なんかクリアしなくても、特別スキルを持っていなくても持っていても、誰でも望めばこの世界にログインできる状態にしたいのです。そのために、力を貸して頂けないでしょうか」


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言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい 工藤 流優空 @ruku_sousaku

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