方針を決める。

 それを聞いて、私は今までやったことのある、ナイトメア・ソフトウェアのゲームを思い出す。


 確かに、負けイベントをこなさないと、先に進めないパターンもあった。だけど、本来は負けイベントなんだけど、特定の条件をクリアした時のみ、勝ちイベントにできて、別のストーリーを見ることができることもあった。


 さらに負けイベントは負けイベントなんだけど、別のムービーを見せてもらってから、負けイベントと同じストーリーが進行するパターンがあったな。


「問題は、そのどちらなのか、ということですね」

『ああ』

「いやいやいや!? どっちでもない可能性ありません!? あの敵に倒されたら、現実世界でもゲームオーバーになるとかっていう可能性も考えられますよっ」


 ずんだ餅さんがヒステリックな声を上げる。確かに、その可能性もありうるよね。ゲームに取り込まれるライトノベルとかだと、ゲーム世界での死が、現実世界の死に直結する設定とかもあったような……。


『現状、ゲーム内の死が現実の世界の死に直結しているという報告は上がっていない』

「いや、本当に死んでたらそりゃ、報告できないでしょうよ!?」


 ずんだ餅さんが叫ぶ。確かに、もしゲーム内の死が現実世界の死と繋がってしまうのなら、当分、報告は上がってこないだろう。だって本人が死んでるから、他の誰かが気づくしかないわけだし。


『……確かにそうだな……。もし報告が上がってきたとしても、もう少し先の話か』


 シュウさんが納得した声で言う。


「とにかく、攻撃が通らない以上、逃げるしかないでしょうっ」


 私は言いながら、走り始めた。


「え、サランさん、どこへ行くんですっ!?」


 ずんだ餅さんが、情けない声が後ろから聞こえる。私は振り返らずに言う。


「とにかくあちこちでたらめに、走り回ってみるんです。どちらにせよ、攻撃が通らない以上、逃げ回るしかないじゃないですかっ」

「それもそうだっ。アタシもサンセー」


 後ろから、シュウカさんの声も聞こえた。そして、もう一つの足音が、走り始める気配がしてくる。


「え、え、ちょっと待ってくださいよぉ」


 ずんだ餅さんの声と、プラスチックを叩く、カチカチという音が連続で響く。


「嘘だぁ、エレベーターのボタン、ききませんっ」


 どうやら、ボタンが言うことをきかなくなってしまったらしい。


『……あー』

「じゃあやっぱり、何か突破口を見つけるつもりで、このフロアを逃げ回るしかありませんねっ」

「そのとーりっ!!」


 シュウカさんが私の一つ隣のデスク列を通りながら言う。ずんだ餅さんも、ついに後ろで覚悟を決めたみたい。


「……仕方ありません。鬼ごっこですね!!!」

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