動機
「ムトウさんが作り出したシステム……」
『……ムトウが彼しか知りえないシステムやダンジョン、その他を仕込んでいるのかは、ほぼ間違いなくこちらや、会社側では全部は把握しきれないと思う。とりあえず現在、いくつかあるうちの一つが、今【出現した】という表現が正しいと思われる』
「出現した……」
『ああ、マップ上に、新しくダンジョンが【出現した】』
「それは、あくまで開発側が隠しマップ、またはアップデート後に導入する予定だったものではないのですか」
ずんだ餅さんの言葉に、私もうんうん頷く。ゲームをクリアしたプレイヤーを飽きさせないために、後から追加される要素があるゲーム、あるもんね。追加コンテンツ、とか大型アップデートを用意しておいて、後から発表してくるタイプ。
『……いや、その可能性は、どうやらないらしい。開発チームも、把握していないダンジョンだったらしい。社内共有メールでそれは確認済みだ』
開発側が作っていない、把握していないダンジョン、かぁ……。それは確かに、ムトウさんが関わっている可能性があるね。しかも、ゲーム内にプレイヤーが閉じ込められるという出来事が起きてすぐのこのタイミングだし。
『ゲーム内にプレイヤーが閉じ込められるという事案、そして、開発側が把握していないダンジョンの突然の出現。……この一連の事案に、ムトウが一枚かんでいることはほぼ確実だろう。ただ、動機が分からない』
「動機、ですか……」
「そりゃあ、自分のゲームを人にとられたからじゃないですか? 自分が考えたゲームを、会社にとられて、挙句の果てには自分は追い出された。ゲームを自分のものにするために、一連の行動を起こしたのではないでしょうか」
ずんだ餅さんの言葉に、私は首をかしげた。
「でもそれなら、他のプレイヤーを閉じ込める必要性がない気がします。本当に、ゲームを自分のものにしたいだけなら、自分以外のプレイヤー全員を強制ログアウトさせればよかったはずです」
同時刻にゲームにログインしていた人たちの中でも、強制ログアウトをさせられた人たちと、そうでない人たちがいる。それはつまり、本来、この出来事を起こした人は、やろうと思ったらゲームにログインしていた人全員を強制ログアウトさせる力を持っていた、ということだと思う。
でも、その人はそうせずに、なぜか強制ログアウトさせた人と、ゲーム内に閉じ込める人を分けている。ということは、その人は二種類の人間を分けることを想定したことになる。
「でも、全員はログアウトさせられていない。ということは、強制ログアウトさせられた人とそうでない人に明確な違いが、あったのではないでしょうか」
少なくとも、この出来事を起こした人には、明確な仕分けの基準があった可能性が高そうだよね。
『もしそれが狙いだったとしたら、強制ログアウトさせられた人とそうでない人の違いを探る必要があるな』
「はい。その違いが分かれば、なぜこんなことをしたのか、その理由も見えてくるかもしれません」
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