まずは、オンライン上で

 私と月島部長は、まず自分の端末に届いたメッセージを確認する。私が顔を上げると、月島部長が静かに頷く。なんとなく、月島部長の言いたいことは分かった。


 自分が先ほどまで見ていたメッセージ画面を表示したまま、月島部長の方へ画面を反転させる。月島部長も、同様に私の方へタブレット端末を滑らせて、画面を反転させてくれる。


『シュウさん。初めまして。この度は、ご連絡くださりありがとうございます。サランさんとお知り合いということで、安心いたしました。私が遭遇しました謎の男性についてのお話を聞きたいとのこと、確認しました。ゲーム内でお話させて頂けたらと思います。文面ではやりとりがしづらい部分があるかと思いますので』


 その文章を見て、私は思わず両手を握りしめる。やった! さっそく、仕事成功への一歩を踏み出せそう!


 月島部長を見ると、彼も少しだけ嬉しそうな顔をしているのが分かった。ちなみに私の方に届いていたのは、『シュウさんがこちらの知り合いと分かってよかった』という内容だった。私が送っておいたメッセージも必要な駒になったんだね。


「……そちらが送っておいたメッセージがなければ、この話は進まなかっただろう。感謝する」


 月島部長の言葉に、私は照れくさい気持ちになる。


「そんな。……大したことはしてませんよ」

「いや、その『大したことではないこと』がいかにこなせるかが重要なんだ。その小さな心配りが、大きな前進を生み出すこともある」


 月島部長は言った。私は、自分が少しだけ認めてもらえた気がして、心がぽかぽかしてくる。ああ、こうやって肯定してくれる人が身近にいてくれるのは、嬉しいと。


「……では、日程を調整しよう。とりあえず、こちらと朝宮さんの都合のいい日程を擦り合わせてから送るのが得策だろうな」

「そうですね」


 私と月島部長はお互いに手帳を取り出す。会社のスケジュールや自分のスケジュールは、パソコン、スマートフォン、どんな端末からでも確認できるサーバー上のスケジュール帳にも記入してるけど、やっぱりアナログ派の私はどちらにも記載するようにしてるんだ。それはどうやら、月島部長も同じみたい。だって、インターネットにつながらない環境になったり、データが飛んだりしたら怖いから。


 数分後、お互いのスケジュールの中で都合がつく日時を相手に送付する。返事はすぐに返ってきた。相手も返事がすぐ来ることを見越して気にしてくれてたみたいだ。


 こうして、ゲーム上で落ち合う日時が決定した。

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