持久戦

 毒薬で満たされた空瓶。私はそれを、とぽとぽと、落とし穴の中のネズミ将軍にかかるように、流し込んでいく。


 ネズミ将軍に初めの一滴がかかった瞬間、ポップアップ画面が立ち上がる。これは、ネズミ将軍のHPゲージ。


 そっか、戦闘に入ったりダメージを与えたりしたら、相手のHPゲージが表示されるようになるんだね。


 HPゲージの上には、毒っぽいマークと、『小・遅』の文字。きっとこれが、敵がかかっている悪い効果の一覧だ。体が小さくなって、動きが遅くなって、毒にかかったってことだと思う。


 そして、その満タンだったHPのゲージが少しずつ減ってきているのが見える。毒のダメージが徐々に入ってるんだ。でも、これだけだと時間がかかりすぎる。


「ちょっとこれだと時間がかかりすぎますね……」


 私が言うと、隣にいたシュウさんがゆったりとした口調で言う。


「……焦るな。ここからは持久戦だ」

「いやいやいや! ここは早く片付けてもらいましょうよ!!」


 フリントさんがわめく。


「……フリント、嫌なら先にあの、光の奥へ進めばいい」

「えええええ!? 一人で進むなんて嫌ですよっ」

「はいはい、じゃあここでだまーって、一緒にいるしかないね」


 フジヤさんが笑ってフリントさんを説き伏せる。


「……こういうのは、焦って行動した方が危険だ。時間はかかるが、このまま毒でダメージを与えきることができるのなら、それに越したことはない」


 シュウさんの言葉に、私は頷いた。


「そうですね、今の私にできることはそのくらいですし。下手に何か別のアイテムを投入して、ネズミ将軍のサイズが元に戻ったり、行動の遅延がなくなっても嫌ですもんね」


 その間も、毒液を注ぐ手は休めない。ちょっとずつネズミ将軍も動き回るから、それに合わせて私も立ち位置を変えながら、毒液を注ぎ続ける。なんとしても、このまま倒しきりたい。すっごく地味な絵にはなってるけど、関係ない。ついでに、瓶の中の液体が足りるかも心配だけど、気にしない。だって、落とし穴の中には液体が溜まっていってるからね。


 とはいえ、少しずつ土の中に毒液が吸収されちゃってるから、ずっとネズミ将軍に毒で攻撃するのは難しいかもしれない。


 そう思っていた時だった。ついに、瓶の中の毒液が切れた。


「……毒液が切れても、少しの間はダメージが入るはずだ。毒はすぐには効果は切れないし、土に残った毒液を踏めば多少は効果が続くはずだ」


 シュウさんの冷静な声。現在のネズミ将軍のHPゲージはというと、半分より少し減ったと思われるところ。あとは、継続ダメージでどこまで削れるか。毒液が切れたってことは、他のデバフも切れる。どこかのタイミングでネズミ将軍は元のサイズに戻るし、行動スピードも元に戻る。


 その時だった。ポップアップ画面が立ち上がる。


『特別スキルのレベルが上がりました。確認しますか』

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