スキルの使い方
特殊スキルを持つ者は現実世界に何らかの不満を持っている、変えたいと思っている。シュウさんに言われた言葉を思い出す。
「……つまり、あなたも現実世界の自分に対する評価を変えたいと思っているんですね」
私の言葉に、相手が立ち止まる気配を感じた。それで私は追手を背中越しに確認する。確かに、立ち止まっている。それで私もゆっくりと速度を落として、相手との距離を空けて立ち止まって、男性に向き直った。
「何を言ってる」
「私は、現実世界での自分の生活に不満がありました。そのことがあったから、この特殊なスキルを手に入れることができました。あなたも、そうなんじゃないですか」
私の言葉に、男性は鼻をならす。
「自分に対する評価。そうだね。ぼくは、世間の自分に対する評価は気に入らない」
「だから、この世界でだけでも、周りの評価を変えたい」
「まぁ、それもあるかもしれないね」
男性が少しだけ同調してくれる。
「せっかく、憧れてた会社に入ることができたのにね、思った部署に入ることができなかったんだ」
「でもそれは、これから変わることもあるのでは」
私の言葉に、男性は首を横に振る。
「いや、それはないね。ぼくは、あの部署から出ることはできない。なんたってあの部署は、ゴミ箱っていうあだ名がついてるから。一度配属されたら、もう上には上がれない」
男性は肩をすくめる。
「ほんと、口は災いの元だよね。こんなことなら、あんなこと言うんじゃなかったよ。でも、会社に見捨てられたことでこの能力が与えられたのかもしれない。それならゲームに感謝しなきゃ」
男性は言うと、声高らかに宣言する。
「ぼくは、このゲーム世界でぼくのやり方で、復讐をとげる」
「復讐って……」
「ぼくに協力をするつもりがないんなら、きみのその能力を譲り受ける!」
そういうが早いが、彼は一気に私との距離を詰めて私の手首をつかんだ。その瞬間、風をきる音がした。
小さな悲鳴と、私との距離を空けようとする男性。彼の腕には、一本の矢が刺さっている。しかし、飛び上がった男性は着地体制をとれずに、地面にころがる。
やった、成功だ。間髪入れず私は、ゲームにログインした初日に手に入れたリボンを取り出す。スキルを付与したリボンの先には、ボールがついている。
私が小さいころ、リストバンドとゴムひもでつながったボールを投げる遊びが流行った。これなら一人でもキャッチボールしてるみたいに遊べるから。
これは、それを応用したもの。ボールを私は男性に向けて投げる。命中!
『敵のアイテム使用、およびスキル使用を封じました』
ポップアップ画面が立ち上がったことで、私は安心する。私は男性に言った。
「今のあなたは、矢のせいでマヒ状態になってます。またアイテム使用、スキル使用も封じました。あなたの負けです。元の場所に戻して頂けないのなら、あなたのHPを削り取って強制的に帰還しますが、どうしますか」
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