クエスト発注とアイテム作成の狭間で


 私はフジヤさんにメールを出した。


『こんばんは。夜分遅くに失礼いたします。今日、ゲームにログインしてみたら、最近新しいダンジョンが生まれたという噂を耳にしました。フジヤさんは、そういった噂をお聞きになりましたか』


 すると、すぐに返信があった。


『こんばんは! そうだね、ダンジョンが増えたって話は聞いたことがあるかも。でも、私は全然ダンジョンには入らないもんだから、詳しくは聞いてないんだ』


 ですよねー。私は心の中でそう思った。すぐに返事を書く。


『そうですか。突然なのですが、自分探しの旅をするために、どこか初心者用のダンジョンに潜ってみようかと思っているんです。場所など決定したらお知らせしますので、よかったら一緒に行きませんか』


 そう書いて送信。そして、今度はシュウさんにメールしようとする。最終ログインは、数時間前になっている。今日はもう、ログインしてこないかもしれないね。


 そう、私達はゲームの世界だけで生きてるわけじゃない。ゲームをしている人全てが、ゲーム世界ではなく現実世界でも生きている。だから当然こちらの世界にいない時間が存在するのは、当たり前だよね。


 メールを作りかけて、私ははたと手を止める。いやいや。シュウさんに聞くんじゃなくて、公式から何かアナウンスが出てないか見た方がいいよね。公式から何も情報が出てないのに、社員さんであるシュウさんから聞き出すのは、よくない。


 私は一人で納得して、後で調べることにする。でもまぁ、その辺はフリントさんが調べてくれるか。それなら今私にできることは、今日のスキル使用上限までスキルを使ってアイテムを作成することだね。


 じゃあ今日はこの前シュウさんと出かけたときに知ったバクハツの実を安くで仕入れてみようか。それから、アイテム作成に取り掛かろう。


 私はそう思って、店の外へと出た。そしてふと気づく。お店で買ったら当たり前だけど、高くつくよね。本当なら、それこそクエスト受注所でバクハツの実の採集クエストを依頼しておいて、そこで得たアイテムで作成した方が安上がりなんじゃないかな。報酬を、バクハツの実で作ったアイテムにしたら、なお安上がり。ただ問題がある。


 問題は、私のスキルの使用回数だ。今私が言霊・物語付与のスキルを使用できるのは、1日につき3回まで。だとすると、クエスト達成報酬にこっちが作ったアイテムを渡してしまっては、店で売る分が少なくなってしまう。これは、難しい問題。


 いくらでも作成可能なんだったら、お店とアイテムの広告を兼ねてクエスト達成報酬をバクハツの実で作成するアイテムにすると、すごくいいと思ったんだけど。残念ながら、今の私にはそんな力はない。


 これは、ますます私のスキル強化が必要になってきたなぁ。

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