親への報告


 さて。私は、帰宅してから夕飯の載せられた食卓で腕組みをしている。


「問題は、どうやって切り出すかだよね……」


 第二の難関。親へ退職意思を伝えて、今後どうするのかの展望も伝えなくちゃならない。まぁ、とりあえずは辞めることにした事実だけでも伝えておかないと。


 そもそも私の帰りが遅いもんだから、両親は先に寝ていることが多い。だから、話すのはほぼ休日のみ。しかし、次の休日っていつだっけ。


 私が首をひねっていると、後ろからのんびりした声がかかった。


「あら、帰ってたの。どうしたの、夕飯の前で腕組みなんかしちゃって。高カロリーのものばっかり食べて太っちゃうとか考えてた?」


 私は飛び上がりながら後ろを振り返る。そこには、不思議そな顔をした母親が立っていた。


「アンタが考えごとなんて、珍しいじゃない。頭でも打ったの」


 失礼な。昔から確かに『悩みごとなんて一つもなさそう』なんて、よく言われてたけどさ。人並みに悩みだってあったし、人生いろいろあるもんなんだから。


 私はそう言葉にしかけて口を開く。そこで一瞬固まる。そうだ、今なら言えるんじゃない?


「あのさ。寝てるところ悪いんだけど、一つ報告があって」

「えー、何」

「私、仕事辞めることにした」


 私は一息に言った。お母さんは、一度驚いた顔をしたけれど、すぐに頭をかきながら言った。


「あー、そっか。ついに限界が来たか。上司が苦手って言ってたもんね」


 眠たそうな目をこすりながらお母さんは私の向かい側に腰かけた。


「反対しないの」

「別に? だってアンタの人生でしょ。一緒に住んでるんだし、衣食住には困らないだろうし。ちゃんと今後の人生の設計をしていくんなら、いいんじゃない」


 よかった。肩から力が抜ける。


「ずーっと、辞める辞めるとは言ってたもんね。いつかはそうなるとは思ってたよ」


 そんなところで働き続けなきゃいけないほど、困窮してないからねぇ。お母さんが再びのんびりした声で言う。


「いいんじゃない? 一応3年働いたし。少しくらいゆっくりしても」


 でも、何かしら仕事は続けなきゃいけないよ。そうお母さんは言った。私はそれに対しては強く頷ける。


「もちろん。何かしらの仕事はするつもり。それがアルバイトなのか正社員なのかは分からないけれど」

「あと、あれは? 小説家になる夢は」


 そう言われて、また私は固まる。そう、そのことについても考えようと思っていたところだったんだ。正社員、アルバイト。それ以外の雇用形態といってもいい、職業。


 心のどこかで、小説家にもなりたいと思ってたんだ。


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