仕事のターン


 次の日の朝。受付を通って出勤しようとした私は、受付にいる大藤さんと目が合った。


「おはよう、紗蘭ちゃん」

「おはようございます、大藤さん」


 お互いにあいさつをする。大藤さんは、小さく首をかしげて言う。


「今日の休憩、合わせられそうかな? こっちはいつでも大丈夫なんだけど」

「それなら、昼の1時でどうでしょう? 休憩取れるようにします」


 私が言うと、大藤さんは笑って言う。


「よかった。じゃあ待ってる」

「はい」


 私の仕事は、好きな時間帯に休憩を取ることができるんだ。嫌な上司はいるけれど、まぁ一応一時間ほどちゃんと休憩をとってもそこまで睨まれない部分は、恵まれているとは思う。


 少しだけ、仕事に行く嫌な気持ちが軽くなったような気がしながら、私は職場の自分のデスクへと向かったのだった。


 ああ、そういえばこの前の休日出勤の日、上司と約束したという別会社の人が来た。あれも報告しとかなきゃなぁ。


 私は一度自分のデスクに荷物を置き、一度深く椅子に腰かけた。そこで大きくため息を一つつくと、すぐに上司のデスクへと赴く。ああ、気が重い。


「金本部長、おはようございます」

「……何」


 ああ、機嫌が悪いのかなんなのか。基本的に、向こうから頼み事してくるとき以外は、挨拶すら返さない人だし。それに、私が休日出勤をして片づけた仕事に対するねぎらいの言葉とかもない。いつも通りだ。


「私が休日出勤いたしました昨日、金本部長とお約束されておりました営業の方が来られました」


 そして私は、その営業の方に平謝りして、また後日お約束の電話とお詫びの連絡を入れることをお伝えしてお帰り頂いたことを伝えた。


 しかし、そこまで聞いても部長の顔は一切変わらない。これ、本当に伝わってるのかな。いや、伝わってる。そしてこれは嫌なパターンだ。


 全部伝えたいことを伝え終わった後、パソコンから顔を上げずに部長は言った。


「それ、そっちで片づけといて。あとで、資料はメールで送っておくから」

「……」


 私は絶句した。けれど同時に思った、やっぱり。私は重い足取りで自分のデスクに戻り、自分の仕事を片付け始めた。返事をしなかったのは、せめてもの私の抵抗だ。あくまで、これは私のせいじゃない。部長が勝手に仕事をすっぽかしたのが悪い。ついでに言うと、スケジュール入れてたのに忘れてた部長が悪い。


 昼の一時になった。私は時間になった瞬間、飛び出すように職場を後にしていた。大藤さんに愚痴を聞いてもらおう。

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