価値観のあう人、あわない人
店の外に出てみると、そこには大藤さんが立っていた。そういえば、大藤さんのこちらの世界での名前を聞いてなかったな。
私を見ると、大藤さんは安心したような笑みを浮かべる。
「よかった、このお店であってたんだね。この辺、いっぱいお店があるもんだから、心配になっちゃった」
大藤さんの明るい声に、こちらまで明るくなってしまう。
「そういえば、こっちの世界ではなんて呼べばいいのかな」
大藤さんが首をかしげて聞いてくる。あ、よかった。私が聞く前に向こうから聞いてきてくれた。私は、答える。
「こちらの世界では、サランと名乗っています」
私が答えると、大藤さんは頷く。
「サランちゃんね。私は、フジヤって名乗ってるの。男か女か分からない感じが気に入っててね」
大藤さん……――、いやこちらの世界ではフジヤさんが私に笑いかける。
「早速なんだけど、お店の中を見させてもらってもいいかな。お店の雰囲気とかをチラシのデザインに反映させたいからさ」
フジヤさん、さすが。仕事に取り掛かるのが早い。私とは大違いだ。彼女は紙とペンを用意して、店の中を興味深げに見て回る。そして出会ったカンナさんに軽く挨拶をして、店内をさらに見て回っていく。
「やっぱり異世界のお店ってわくわくするよね。現実世界ではありえないものがたくさんあって。こういうのを自分の部屋に飾るのって、憧れるんだよなぁ」
フジヤさんがうっとりした口調で言う。確かに、私も憧れている。だから、それこそうまく、ゲームの世界で売られているアイテムを現実世界に持ち込むことができるようになったら、自分の部屋は異世界アイテム一色にしようと決めてるんだ。
「そうですよね。私も異世界アイテムで自分の部屋を飾りたいって常々考えてます」
私の言葉に、フジヤさんは嬉しそうに頷く。
「そうだよね、そうだよね。いやー、分かってくれる人がいて嬉しい! この感覚、普通の人にはなかなか分かってもらえなくってさ。だから口に出すのも憚られるというか」
その気持ちも、分かる。自分の好きなもの、やりたいことを否定されて幸せな人はいないんだけど、自分の理解できないことを言われた時、つい否定しちゃう人っていて。私がふと気を抜いて、ちょっと一般受けしなさそうな趣味を口走ったとき、すごく嫌な顔をされた経験がある。あなた、そんなものが好きなの。理解できない、みたいな表情。あれは割と傷つく。
「そうなんですよね、下手に自分の趣味をさらけ出すと、バカにされたり理解できないって離れていかれたりしますし」
「そうなんだよねー。ホント、困ったもんだよ」
フジヤさんは言いながら、紙とペンで様々なイラストを描きつけていく。私はそれを見て、声をかけた。
「それでスケッチして、後で清書する感じですか」
「うん。ま、今はメモ程度だし」
そう答えるフジヤさんを横目に、私は考えた。そうだ、フジヤさんの紙とペンも私のスキルで改造してあげたら、きっとチラシ作りの時も便利だ。それに、フジヤさんにはこれからもお世話になることがきっとあると思う。これは、私のスキルを使う時だ。
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