受付嬢さんの視線の先に


 受付嬢さんは私たちを見るなり、深々と頭を下げた。そしてすごくすまなさそうに言う。


「申し訳ありません。只今、ご案内できるクエストがないのです」

「心配せんでええで。オレら、クエスト欲しくて来たわけじゃないねん」


 カズアキさんの言葉に、受付嬢さんは困った顔をする。


「そんなことより、お姉さんの連絡先を……」


 笑顔で詰め寄るカズアキさんを押しのけて、私は営業スマイルを浮かべながら言う。


「近頃、クエストを独占している輩がいるという噂を耳にしまして。管理者側がそれを憂いているということで事情を伺いたく参りました」


 その言葉に、受付嬢さんの顔が少しこわばる。そしてその目は、彼女の斜め後ろに一瞬向けられる。受付嬢さんはすぐに視線をこちらへ戻したけれど、私はその視線の先を見た。


 視線の先にいたのは、クエストカウンターの上で寝転がっているオジさん。手入れの行き届いていない髪と無精ひげ。それだけで、なんとなくオジさんの性格が少し見えたような、そんな気がした。その人の傍らには、酒瓶と思われるもの。


 カズアキさんは私の様子を知ってか知らずか、受付嬢さんを口説いている。これ幸いと私は受付嬢さんが一瞬見た人を凝視する。


 すると、私の後ろに立っていたシュウさんの声が降ってくる。


「……あれは……。ここのクエストマスターだ」


 私が思わずシュウさんの方を振り返ると、彼もまた私が気になっていた人の方を見ていた。シュウさんもあの一瞬の受付嬢さんの動きに気づいてたんだね。


「あれが……このゲームのクエストマスター……」


 クエストマスター。クエストという概念があるゲームなら、大概いそうな役職。もちろん役職名が違うことはあると思うけれど。


 この職種は、クエスト受注を取りまとめるクエスト受注所のトップという認識でいいと思う。ゲームによってはこの人からしか受注できないクエストが発生する場合がある。


 そしてこの人から受注できないクエストは、基本的にとても重要なクエストであり、プレイヤーのランクを上げるためのクエストなどがあてはまることが多い。いわゆる、キークエストと呼ばれるものだ。


 キークエストを受注できるようになるためにはゲームによって条件があったりする。特定のクエストをこなしたり、プレイヤーの知名度を上げたり。そういった定められた条件をクリアすることで発生するクエストを受注できる権利をプレイヤーに与え、そのクエストを達成したプレイヤーに次なる指針を示す、それがクエストマスターの役割であると私は認識していた。


 しかし、私が見ている男性はそのような人には見えなかった。

 

「あれは……確実に、酔っぱらってますね……」

「ああ、気持ちよさそうに寝ているな。業務時間内だと思うが」


 シュウさんがため息をつく。


「あとで、彼にも話を聞く必要がありそうですね」

「素直に話をしてくれそうにはないが」

「性格だけでも分かれば、何か掴めるかもしれません」


 私の言葉に、シュウさんはそれもそうだなと同意してくれる。私達は、未だ調子に乗って受付嬢さんを口説き続けているカズアキさんを再び押しのけると、受付嬢さんに言った。


「そういうわけなので、お話伺ってもよろしいでしょうか」




 


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