ギルドへ


 カンナさんに用意してもらったお茶菓子を一通り食した後、私はシュウさんの案内で彼が所属するギルドの場所へと向かった。


 街の大通りの一歩裏通りを入り、静かな路地裏へと向かう。石畳を歩く足音は二人分だけ。数歩先を歩くシュウさんがこちらを振り返りながら声をかけてくる。


「ギルドマスターが大通りに拠点を置くのを嫌がってな」

「私は静かなところが好きなので、特に気になりません」


 私の言葉に、シュウさんは安堵のため息を一つ。


「そう言ってもらえると安心する」


 そしてその路地の一番奥の建物の前でシュウさんは立ち止まった。そして正面に見えていた小さな扉をコンコンとリズミカルに叩く。あ、これもしかして、秘密の合言葉みたいなやつなんだろうか。


 すると、扉が開いた。シュウさんが身を屈めながら中へ入る。私もそれに続く。中は思ったより広くて、吹き抜けになっていた。


 そして室内には長テーブルにいくつもの椅子が中心に置かれている。そしてその周りにはいくつものディスプレイ。首をかしげる私に、シュウさんが教えてくれる。


「あのディスプレイは、集会やミーティングに参加したくない人のためのディスプレイだ。直接参加はしないが、チャットのみなどの参加者の意見が映る仕組みだ」


 ああ、なるほど。それぞれの発言を各ディスプレイに反映してリアルタイムで見ることができるようになっているってわけだね。ハイテク。


 長テーブルのこちらから見て一番奥に、一人の男の人が座っていた。天然パーマのような髪質に癖のある茶髪の男の人。その人は、私と目が合うと座っていた椅子から立ち上がって、こちらに歩いてきた。そして、にかっと笑った。


「あんたがシュウが言ってた特殊スキル持ちさんかいな? オレは、カズアキ。シュウとは古い仲でな。一緒にギルドのツートップを張ってます」

「腐れ縁なんだ」


 シュウさんが目を細める。カズアキさんは私の手を取ると、ぶんぶんと握手する。


「いやー、シュウは詳しいことは何も話さんとただ、ギルドに引き入れてやってくれ、きっとオレらを助けてくれるとだけ言うもんやから何事か思たけど。こちとら、猫の手も借りたい状態やからな。ほんま、おおきに」


 関西弁でまくしたてられながら、私はただ頷く。


「ここのギルドは入ってても入ってへんのと、そう自由度は変わらへん。それは保障するで。なにせオレが、束縛されるのが一番嫌いやからな」


 カズアキさんはにししと笑う。それからふと真顔になる。


「いつも世話になってる常連さんが困っとったから、この前はシュウに詐欺師の動向を探ってもろててんけど、その時にあんたの話を聞いてな。今度は詐欺師よりは幾分面倒くさい相手かもしれへんけど、手伝ってくれるか」


 あ、この前シュウさんがカフェにいたのは、カズアキさんから頼まれてギルドとして詐欺師さんを追ってたからだったんだね、納得。


「これが、うちのギルドカードや。これを持っとればあんたは、ここのギルドの仲間や」


 カズアキさんが差し出してきたカードを受け取ると、ポップアップ画面が立ち上がる。


『ギルドマスターからギルドへ誘われました。承諾しますか』


 私は、はいのボタンにカーソルを合わせる。カズアキさんは、椅子の一つを指し示すと言った。


「ほな、早速本題といこか。茶くらい出すさかいに、まぁ座りいな」

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