目玉商品を作りたいのに


 さて、とりあえず当初の目標は達成できたし、通常ののんびり生活に戻ろう。なんだか、わくわくしてきたな。


 最初は、抽選販売の応募すら忘れていたけれど、いざゲームにログインしてからは、当選して本当によかったって思ってる。


 現実世界では、自分の今の生活が充実してるなんて思ったことは少ないけれど、こっちの世界では、非常に楽しく有意義な仕事を過ごせていると思う。


 それもこれも、言霊・物語付与のスキルのおかげだ。このスキルがあったからこそ、たくさんの人と縁が結べたんだもの。


 だからこそ、現実世界ではできないことをしたい。現実世界での仕事では、誰かの役に立ってるなんてあまり感じられないけれど、こっちの世界なら、人の役に立ってるはず。だから、もっともっと人の役に立ちたい。


 そうなると。私は腕組みをする。まずは、カンナさんのお店の商売繁盛を願って、新たな目玉商品を考えないと。


 うちの会社の社長が言っていた。同じ商品を出し続けて胡坐をかいていてはだめだ。どんどん新しいものを作り出していかないと、消費者は飽きて、離れていってしまうって。


 なんでもその通りだと思う。一度うまく行ったからってそれを改善もせずにそのままのクオリティで出し続けていたら、いつかお客さんがいなくなってしまう。それを回避するためには、商品を提供する際のサービスに工夫を加えるなど、新たな「刺激」が常に必要。


 カンナさんのお店も、今は私の『初心者が作った傷薬』で人は集められているみたいだけど、あくまでこれは、一時しのぎにすぎない。そもそも、傷薬の売り上げだけじゃ、人は集まってもそれほど売り上げに貢献できるわけじゃないからね。


 だとすると。次は、どんな手で人を集めよう? 販売アイテムに力を入れるべきか、それとももっと別のものに力を入れるべきか。


 私が頭を悩ませていると、近くから、いつもの街の喧騒とは違った、言い合いが聞こえてきた。そっと声のする方に視線を向けると、そこには2人の女性がいて、何やら言い争いをしている。悪いとは思いつつ、私は会話の内容に耳を傾ける。


「ほんとだもん。これは、ドラゴンのうろこでできた装備だもん!」

「またまたぁ、そんな装備が簡単に手に入るわけがないし、そもそも本物のドラゴンのうろこでできた装備なら、あんたの所持金で買えるようなアイテムなわけないでしょ」


 私はそれを聞いて、うーむと1人うなった。これは、人の役に立てそうな匂いがする。でも、関わったらのんびりライフはまたお預けかも。でもなぁ。


 私は、大きくためいきをつくと、言い争いの現場に一歩ずつ近づいて行った。

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