第60話 王女様の留学初日

 シャルの一件があった翌日、ミアの学院留学の初日となった。


「おはよう」


 魔術学院の制服に身を包んだミアが階段を駆け下りて来た。


「おい、階段は静かに降りろよ」

「うっさいわね。お父様と同じような事言わないでよ!」


 この様子だと、オリエンス王国にいた時からこんな調子なのだろう。


「王女様に怪我でもされたら困るからな」

「そ、それより、これを見て何か言うことないの?」


 ミアはそう言って手を広げた。


「ああ、凄く似合ってる。可愛いよ」

「か、かかか可愛い!? 何言ってんのよバカ!」


 そう言うと樹を突き飛ばして、リビングへ走って行ってしまった。


「え、素直な感想を言っただけなんだけどな。何かマズかったか?」


 相変わらず樹はこういう所は鈍い。


 朝食を取り終わると樹はミアとアリアと共に学院に向かった。

ミアはまだクラスが分からない為、職員室へと登校するようだ。


「学長、副学長、おはようございます」


 学院の門の前でエドモンが待っていた。


「おはよう」

「おはようございます」

「こちら、今日から留学するミア姫だ。よろしく頼む」


 そう言って樹はミアの背中を押した。


「ミアと申します」


 ミアは丁寧に頭を下げた。


「これはこれは、自己紹介が送れました。私、事務長のエドモンと申します。どうぞこちらへ」


 エドモンに促され、ミアは学院の中に入って行った。


「じゃあ、また後でね」


 そう言ってミアが振り返った。


「ああ、頑張って来いよ」

「いってらっしゃいませ」


 樹とアリアはミアの後ろ姿を見送った。


 ミアは1年Cクラスとなった。

担任の先生に促され、教室に入ると空気が変わった。


「オリエンス王国から留学生として参りました、ミアと申します。王族ですが、気軽に接して頂けたら嬉しいです」


 黒板の前に立ち、自己紹介をした。

クラスに馴染めるか不安だったが、それは杞憂に終わった。

休み時間となれば人に囲まれ、クラスの人気者への仲間入りをするのだった。



「ミアさま大丈夫でしょうか?」


 その頃、学長室でアリアが樹に不安そうに尋ねた。


「大丈夫だろ。あいつ、俺以外には割と人当たりいいお嬢様って感じだし」

「そうなのかもしれませんが……」

「てか、なんであいつは俺にだけあんなに当たり強いんだ?」


 樹は疑問をアリアにぶつけた。


「そ、それは、いつか分かる日が来るかと……」


 アリアは気付いていたが、あくまで樹に気づかせようとしていた。


「なんじゃそりゃ。まあ、いいわ。仕事しようぜ」


 樹とアリアは溜まっていた書類に目を通し、一通りの仕事を終える頃には下校時間となっていた。


「おーい、ミア。迎えにきたぞ。帰りますよー!」


 樹がミアのクラスまで行くとちょっとした騒ぎになってしまった。


「もう、何で来るのよ!!」

「なんでって同じ家に住んでるんだから一緒に帰るだろ」


 その言葉で周りはざわめいた。


「いいわ! 一緒に帰ってあげる!!」


 ミアは顔を真紅に染めながらも、樹の三歩前をズカズカと歩いて、学院を後にするのであった。

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