焼肉
本部管理部最重要封印庫。
そこは、全部で10ある封印庫の中で、最も厳重、最も危険な中身を持つ封印庫。
その他9つの封印庫は、各隊の宿舎と併設され各地に散らばっているにも関わらず、唯一京都総能本部の敷地内にある封印庫。
白い人に、1番近い封印庫。
「最重要封印庫の中身ってん、何が入ってると思うん?」
「酒呑童子とかですか?」
今回封印庫を開ける理由はソイツだ。他にも、俺が消しきれなかった茨木童子の片腕や、九尾の首、ハルが倒した大天狗の残り物など、聞くだけでげっそりしそうな物だらけだ。
「そうねん! 大正解よん!」
クイズに正確した俺は、杉原さんから最強の投げキッスをプレゼントされた。これ物理的攻撃力あるんじゃないか。
「.......でもねん。最重要封印庫には、妖怪だけが封印されてる訳じゃないのよん」
「?」
「和臣隊長。
「有給消化率ですか」
「やっだぁ! それは花田だけよん!」
めちゃくちゃ爆笑している杉原さん。笑い事じゃないんですよ。
「うーん、じゃあ総能の罰則規定ですか?」
「そうねん。アタシ達はその規定に則って生きてるわん。.......総能罰則規定第9条第1項!」
「「呪い」に関する知識の所持」
思わず答えてしまった。なんだなんだ急に。抜き打ちテストか。
「第9条第2項!」
「「呪い」に関する物品の所持、及び製造」
「第9条第3項!」
「「呪い」の使用」
「第1条第2項!」
「公に露出する可能性のある能力、術、及び怪異の使用」
「やっだん完璧! 惚れちゃうわん和臣隊長ったらん!」
逆に罰則規定覚えてない隊長って嫌じゃないですか。
また最強の投げキッスをもらって、俺のヒットポイントは限りなくゼロに近くなったものの話を続ける。
「.......えっと、つまりどういうことですか?」
「最重要封印庫の中身には、
うふっと艶やかな唇から笑いが漏れた。いや、笑い事じゃないと思います杉原さん。
「.......つまり「呪い」関連の物ってことですか?」
「乙女にそんな怖い言葉言わせないでぇん!」
帰ったら好きな物好きなだけ食べよう。美味しい物食べよう。
「和臣隊長。アナタは12月12日、酒呑童子と直接対峙するわん。それも、“タブー”の詰まった箱の中でねん」
「.......管理部長が酒呑童子の封印解けてるって言っちゃダメなんじゃないですか?」
「そんなモノ解けてるかゆるゆるに決まってるじゃないのん。無駄な体裁を気にするのは幹部のジジイ共だけよん」
口悪いな急に。どうしたんだ杉原さん。
「やっだん、アタシったらつい本音が出ちゃったわん! ごめんなさいねん! で、さっきの話の続きなんだけどん!」
杉原さんは、すっと顔から笑顔を消して。まっすぐ俺の目を見て、こう言った。
「和臣隊長。アナタは、この箱の中に足を踏み入れる勇気があるかしらん?」
知っただけ、興味を持ったで首が飛ぶと言われる「呪い」の詰まった封印庫。夏、俺が絶対有利な山でボロボロにされた名付きの鬼、その頂点との対峙。
正直、手に余る。荷が重い。
だが。
「呪いも、酒呑童子も。実はちょっと放っておけないんですよ」
「どういう事かしらん?」
「変態な友達がいるんです。その2つに関わってた」
杉原さんの目が鋭く光った、それを真正面から見据えて。
「余裕だな。そんな箱、この俺がビビる訳がない。最高の弁当箱に蓋をするのは、
ぱちんっと、自分の顔の横で指を鳴らした。
杉原さんは、ぽかんと口を開けて瞬きした後に。
「これは花田がついてくわん.......」
「なんで花田さん?」
「まあ、そのお友達の事は後で聞くとしてん! 封印庫に入るなら和臣隊長には知っておいてもらうわよん!」
「はあ」
杉原さんは、ニコニコ笑って。
「.......千年前、酒呑童子に飲ませた毒酒はねん。まだ残ってるのよん、このタブーの箱の中に」
それは。
「杉原ああああああ!!!!」
ばこんっと襖が吹っ飛び、はられていた札が破り捨てられる。七三分けをぐしゃりとかきあげたメガネの男は、信じられない目付きで杉原さんを睨みつけた。
信じたくないんですけどもしかして花田さんですか。
「貴様、未成年の隊長と2人きりで何をしていた? 防音と人払いの札まで貼って」
「やっだんもう! 勘違いしないでよん! アタシ和臣隊長には母乳が出そうな感情しか抱いてないんだからん! 恋愛とは別よん!」
わーお。
「貴様.......!! 表に出ろ!! 隊長に近づくな!!」
「落ち着きなさいよん! アンタが人払いの札取っちゃったからあんまりうるさくすると騒ぎになるわよん?」
「それで貴様を葬れるなら安いものだ」
花田さんが拳を握りしめ、肘を引く。
待って待ってストップ。お願い暴力沙汰はやめて。
「は、花田さん! 俺本当に何もされてません!」
「隊長.......! 本当に申し訳ございません!! 隊長の精神と肉体に、とんでもない苦痛を.......!!」
「失礼ねん。何もしてないって言ってるじゃないのん」
「黙れ貴様!!」
花田さんの振り上げた拳に半泣きで縋る。やめてくれ本当に。俺は今ボヤ騒ぎにパワハラとツーアウトなんだ。暴力沙汰なんて起こしたらスリーアウト、チェンジだ。永遠にな。
「花田さん、花田さんやめてください! 俺もう帰るんで車まで一緒に来てください!」
「隊長、ですが.......」
「あら、もうお帰りなのん? じゃあ、この火蜥蜴ちゃんは返すわん!」
やけに小さく見えるランプを、杉原さんから受け取る。死んだフリをしていたトカゲは、杉原さんがランプから手を離した瞬間飛び起きて俺に擦り寄ってきた。お前、露骨だぞ態度が。杉原さんいい人だろうが。確かにお前から見たら巨人過ぎるのは分かるけれども。
「杉原、覚えておけよ」
「やっだん負け犬みたいなセリフ! そうだ、アンタ今幹部どもになんて呼ばれてるのか知ってるのん? 牙をむく番犬ですってん! ピッタリねん!」
あはは、と杉原さんが笑う。俺は天に祈った。どうか世界に平和を。
「.......」
黙りこくった花田さんを気にせず、杉原さんは笑いながら続ける。
「アンタ本部に来たばっかりのころは狂犬って呼ばれてたのよん! 知らないでしょうけどん!」
「.......」
「それでアンタが大人しくなってからは牙を折った狂犬ですってん! で、今が番犬! 全部犬じゃないのん! うふふふふ!」
みんな花田さんに謝った方がいいよ。いくらなんでも怒るよ花田さん。
「おい、杉原.......」
花田さんは、ふらっと部屋の入り口へ歩いて。
「俺はお前のセクハラを予想して人を呼んでおいた。その大声はお前の大嫌いな幹部にも筒抜けだぞ」
ビキッと杉原さんが固まる。花田さんは、さっと七三分けを直して。
「では隊長! お車ご用意いたしますのでね! 門までお送りいたします!」
「.......あ、はい.......」
「そこの筋肉は放っておきましょう。幹部の前で被っていた猫も今日でおわりましたね」
「花田ぁああ!!」
「黙れ自爆筋肉。.......ちっ。本当は人なんて呼んでないし、幹部はこんな所に来ないから安心しろ」
「花田ああ!! 焼肉奢るわあん!」
「叙々苑だろうな」
この2人本当に仲良いな。よかったよかった。
俺はそっと2人から離れ、静かに帰ろうとして。
やっぱり道に迷って、慌てて走ってきた花田さんに助けられた。
ーーーーーーー
総能の幹部は、2系統あります。
1つ目は、9つの家の当主達。
この人たちは零様の意見に頷く係。あとは実働部隊である第一隊〜第九隊の予算や任務などアレコレを最終決定(形式上)しているのがこの人たちです。
2つ目の幹部の人達。
これは、総能設立時から集められた人達。
総能という巨大組織をまとめるために割と血も涙もない決断をする人たちです。当主が表の幹部なら、こっちは裏の幹部といった感じです。術者じゃない人もいます。
茨木童子の時和臣に7時間質問責めをしたのは、この幹部直属の調査委員会です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます