収束

「どうもー。ゆかりの父の町田とおるですー。とおるおじさんでいいからねー」


「ハキハキ喋ってーー!!」


「ははー、頑張ってるんだけどねー」


「なんでこんな.......なんでこんななのよー!」


 俺と葉月は目の前の事実を受け止めきれず、黙って立ち尽くしていた。ゆかりんのファザーがとおるおじさん? ワァイジャパニーズピーポー。


「ま、町田さん.......」


「葉月.......ごめん! 迎えに行こうと思ったらもう行ったって言うから.......まさかこの人が行ってるなんて!」


「ゆ、ゆかりん.......お父さんなんだよね?」


「.......私のお父さんは熱血刑事よ」


「それこの間のドラマの役じゃん.......」


「あのドラマは良かったよねー、おじさんもう3回は見たよー」


「シャキッとしてよボケ父ー!!」


 ゆかりんがとおるおじさんの胸ぐらを掴んで揺する。


「ま、町田さん.......あんまり、その.......アホとかボケとか.......お父様なのだし.......」


「そ、そうだよゆかりん.......とおるおじさんジュースくれたし.......いいじゃん優しそうで.......」


「やあ、照れるねー」


「て、れ、る、なー!! ああ、なんでこんなゆる父が.......!!」


 門の中からぞろぞろと人が集まってくる。皆門の中からこちらを見ていた。俺と目が合った人はぶっ倒れた。ごめんなさい。


三条門下ウチで負け無しなのよーー!!」


「あははー、ゆかりは万年2位だしねー」


「だ、れ、が!! 誰が1位かっさらってると思ってんのよ!!」


「僕だねー。ゆかりが産まれる前から僕が1位だよー」


「きいいい!!」


 完全に置いてけぼり感。葉月さん、帰りましょうよ。だって俺歓迎されてないし。門の中の人達は、俺を睨むか倒れるかのどちらか。申し訳ないので帰ります、見たい映画もあるんで。


「なんでこんな競争心の欠けらも無いのがーー!」


「皆ピリピリしてるねー。毎年すごいよー」


「三条の精神の欠けらも無いじゃないのー!!!」


 お腹空いたな。


「.......葉月、帰ろうよ」


「.......」


 不思議な光景に目を背けて、来た道を戻ろうとした時。


「七条さん! お待ちしてました!」


「お兄さーん! サッカーしに来たのー?」


 しまった見つかった。恐る恐る振り返ると、素晴らしい格好の鞠華さんと、蹴三さんが居た。

 ふっ.......。やっとここに来た意味が見られたよ。なんで他の人は普通の袴着てるんだ。話が違うだろう。だが、もういい。三条、やはり君が平和を作るんだね。俺にも手伝わせてくれないか。

 とりあえず総能の指定服を短くしよう。腰についた後ろの布も無くそう。いや、待て.......。透ける布、レースの布ならどうだ!? 素晴らしい.......自分の才能が怖いぜ。隠しているのに見えているという背徳感。これが宇宙の真理か。


「.......あなた、今最低な顔してるわ」


「ふっ.......。平和を作るのは、いつだって悪者なのさ」


「馬鹿じゃないの」


 革新に批判は付き物だ。だが、それを乗り越えなければ何もなし得ない。泥を啜ってでも前に進むのだ。


「.......馬鹿」


「すいません皆興奮してしまって.......。こちらへどうぞ。準備はこちらで済ませています」


「お兄さんサッカーしようよ」


「いいよ。今日サッカーしに来たんだ」


「.......蹴鞠よ」


 すいません実は違いが分かりません。ゆかりんに誘われたから来ただけなんです。最近あの袴見てないな、っと思ったんです。


「ああ、お弟子さんですね。聞いてますよ、あなたの準備はゆかりがやりますから」


 そのあと、何故か俺も短パン地味た袴を着せられ、げんなりしながら広い庭に通された。


「わ」


 目の前に現れたのは、素晴らしいゆかりん。そして素晴らしい葉月。おいおい.......理解が追いつかないぜ。


「.......町田さんがこれを着なきゃダメって言ったの」


「.......」


 もうダメだ。訳が分からない。目は釘付けだし、雷に打たれたような衝撃が抜けない。

 そう、衝撃が。


「和臣!!」


「きゃあっ! ちょっと、え、担架ー!!」


 一瞬見えた楽園を脳裏に焼き付ける。おそらくぶっ飛んだ顔面全てのパーツは、誰か拾ってくれ。

 いきなり目の前に飛んできたボールが俺の顔面に吸い込まれ、痛いのか熱いのか冷たいのか分からない。ただ、そこで記憶は切れた。







「はっ」


 目が覚めて、顔面に当てられた保冷剤を取って起き上がる。うつ伏せで鼻が詰まっていると思ったら血に濡れた脱脂綿が。しかも両鼻。あと額が痛い。唇の裏も痛い。とりあえず顔面が痛い。


「あ、お兄さん起きた! 姉上ー!!」


「.......ずいまぜん。ディっジュぐだざい」


 起き上がったら鼻血が出てきた。どうすんだこれ。


「あぁ! 七条さん! 大丈夫ですか!?」


「.......俺顔のパーツ足りてますか?」


 下を向かされ鼻を押さえられる。痛い。


「はい、それは足りてます.......。すいません、ウォーミングアップのボールが飛んできたらしく.......」


 恐ろしいよ。何がってウォーミングアップって所だよ。しかも鞠じゃないのかよ。あんな殺人級の威力で? 嘘でしょ三条怖い。


「.......あの.......七条さん.......」


「はい.......あ、止まった.......いや止まってない.......」


 また鼻を押さえられる。痛い。


「.......じ、実は.......」


「?」


「.......大会終わりました.......」


 涙も出ないよ。

 葉月は中々の順位だったらしく、賞品として図書カードを貰っていた。

 ゆかりんは2位だったらしく、めちゃくちゃに荒れていた。そして優勝した緩いお父さんは、ゆるーく記念写真を撮っていた。


 俺は菓子折りを持たされ、一門全員に頭を下げられ帰った。




 俺の、口から豆を吐き片手で鬼を捻り潰した最強術者という噂は、収束した。

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