開錠
図書館の飲食スペースで、葉月と昼飯を食べているところに山田と田中がやってきた。やっぱり居たか。
「おー? 夏休みもイチャコラしてんのか! 受験生としてどうなんだー?!」
「うるさい田中。イチャコラしてるように見えるなら間違いだ。ズタズタにされてんだよ」
心をな。
「和臣、大丈夫だったか?」
「ん? 何が?」
「昨日誰か訪ねてきたりとか.......俺の父さん警察官なんだ。最近そういうストーカーとかの話が多いらしくてな」
山田が真面目な理由が分かった気がした。と言うかもしかして駅前の交番のお巡りさんか。そうだったらとてつもなくお世話になっている。
「和臣、あなたストーカーされてるの? また変なのに付けまわされて.......潰しに行きましょうか?」
「思考がアグレッシブ.......」
あと変態をストーカー枠に入れないでくれ。ストーカーに失礼だ。
「あんな綺麗なお姉さんならストーカーされてぇーなー!」
「うわー、川田に言おー! 田中クズー!」
「嘘嘘冗談! そ、そうだお前着物着るんだな! 嫌いとか言っときながらやっぱり呉服屋だな!」
「あぁ? そんなに着ねぇよ」
仕事感があってげんなりするから。
「あぁ。昨日見せられた写真着物着てたな。黒いやつ」
葉月の指がぴくりと動く。
「.......黒い着物? 俺が? 紺の浴衣とかじゃなくて?」
「黒かったと思うけどな。なんか模様ついてたぞ。白い円が胸のところに」
仕事中の写真か。でもそんなものを持っているならなぜ俺の家を知らないんだ。
「和臣大丈夫か? もし何かあったら警察に電話しろよ」
「おう。あ、俺用事思い出したから帰るわ」
「和臣受験生失格ー!」
「うるせえお前なんて寝に来てるだけだろ」
「睡眠学習だ!!」
葉月も帰ると言って、2人で俺の家に行く。葉月は今日の夜から百鬼夜行の手伝いに行くらしいが、その前に夕飯に誘った。明恵さんはめちゃくちゃ張り切って天ぷらを揚げていた。ナスは俺が揚げた。
明恵さんが帰って。
「和臣、どうするの? 写真撮られてるって.......」
「うーん。管理部に連絡.......まあでも着物着てるってだけなら問題ないか」
「連絡した方がいいわ。それから、戸締りはちゃんとしてちょうだい。私、そこの公園にいるの。何かあったらすぐ教えて」
「うん」
管理部に連絡した所、事実確認中との事だった。なんでも他の隊長の写真も撮られたという話があるらしい。熱烈なファンがいたものだ。
葉月が百鬼夜行に行ってしばらく。まあ万が一もないだろうが隠れて式神を飛ばしておいた。第七隊の隊員も一緒らしいので億が一もないだろうが落ち着かない。せっかく暇な夜なのに、なぜ俺は札を書いてるんだ。
「!?」
携帯が鳴って慌てて掴む。大丈夫か不審者か。
「もしもし大丈夫か!?」
「おい! 戸締りしてるか!?」
「はぁ? なんだ兄貴かよ.......」
テンション急降下だ。
「おい! 大丈夫なんだな!? 絶対家から出るな! わかったか!?」
「へいへい。戸締りしてるし.......何焦ってんの? 大丈夫? 手伝おうか?」
「出るな!!」
大声で怒鳴られて、少し驚く。
「お、怒った.......? なんだよ、俺なんかした?」
電話からはガサガサと音がして、怒鳴り声が聞こえた。兄貴の声も、たしか兄貴の副隊長さんの声も。
「おい! 兄貴何してんだよ! 俺行こうか!? なあ!」
雑音ばかり聞こえて、返事がない。机の上の物を引っ掴んで走った。
「兄貴! なあ、どうしたんだよ! 何してんだよ!」
ガツン、と音がした。焦った声で、「隊長」と聞こえた。運動靴を引っ掛けて、玄関の戸に手をかけて。1度大きく息を吸った。
「兄貴、聞いてる? 俺、行くけど」
電話は切れていた。
鍵は開けない。まだ開けない。
姉に電話をかけても、父に電話をかけても出なかった。もう一度大きく息を吸う。
「葉月、聞こえるか? 何かあったか?」
「何もないわ。あなたこそちゃんと家にいるんでしょうね?」
「了解。俺ちょっと行ってくるから、何かあったら式神捕まえろ。滑り台の下にいる」
「はぁ? .......何よ、本当にいるじゃない」
「兄貴か姉貴に電話してくれ。出たら連絡くれ」
「あ、ちょっと!」
鍵を開けた。
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