大事
「ゆかりん.......もう取っていい?」
「もうちょい我慢して。今どきのカメラ舐めんじゃないわよ」
涙が出た。葉月が見たらどう思うだろうか。とりあえず嫌われる気がする。涙が止まらない。
「.......それ、何」
俺が持っている札だらけの腕。はやく管理部に渡したい。
「んー。なんだろうなー?」
「.......。葉月ー!! あんたの彼氏やばいわよーー!!」
「え!? え、ゆかりん突然過ぎない!? 裏切り!?」
走り出したゆかりんを追いかける。カツラは剥ぎ取った。
ぎゃあぎゃあ騒ぎながら集合場所へ戻ると、葉月がムスッとして待っていた。
「あれ? 葉月どうしたんだ? 何かあった?」
「.......花田さんが」
「花田さんが!?」
花田さんを見ても、ニコニコしているだけだ。メガネも七三分けもきっちりしている。
「妖怪全部退治しちゃったの。一発だけって言ったの。だから、見てたら.......全部倒しちゃったの」
それで拗ねてる葉月さんが心配です。
「いやぁ! すみませんね水瀬さん! 最近どうもなまったようで、鍛え直してみたんですよ! 」
「私は初めからわかってましたよ。部長が全部やる気なのは」
「.......今日、私来た意味ないじゃない」
思わず葉月の頭を撫でた。悲し可愛い。隣りでゆかりんも葉月の肩を撫でていた。
「葉月、高いケーキ屋行きましょ。隊長と副隊長の奢りで」
「「.......」」
花田さんが苦笑いで頷いた。俺は涙目で頷く。女子の知ってる高い店はシャレにならない。
「2人とも、私ちょっと大人なお店知ってますよ」
しまった中田さんが出てきた。絶対容赦ない店だ。
「さ、私の運転で行きましょう! 都会のやけに小さい駐車場に勢い殺さず駐車したいんです」
中田さんは一体どうしたんだ。
車に乗ろうとした時。
首に、ちいさな手がかかった。
『ダメよ』
ぞわっと背筋が凍る。全身で、これはまずいと感じていた。
段々首を締める力が強くなる。ちいさな冷たい手が、ゆっくり俺の首を締めていく。
『ダメよ。ダメよ』
やけにゆっくりに感じる時の中。車に乗った皆は、楽しそうに話している。
『ダメよ。ダメなの。ダメなのよ』
声が出ない。出せない。視線が固定されたように動かない。ただ、車の中を見つめる。
「ぁ.......」
『ダメよ』
ぐっと喉がしまった。ゆっくり、ゆっくり車の中の皆の視線が移る。一番初めに目を見開いたのは、葉月。
「和臣!!」
目の前で、がじゃあぁん。と音がした。
『ダメよ。だって、いい子だもの。あなた、いい子だもの』
目の前に落ちてきたのは、大きな看板。古びたそれは、落ちた衝撃でひしゃげていた。
『ダメよ。あたし、綺麗にしてもらったの。可愛いって言ってもらったの』
車から全員飛び出してくる。
首にかかったちいさな手が、ゆっくり俺の頬を撫でた。
『ダメよ。連れていかせないわ。そんな萎びた腕、放ってしまいなさいな』
「君.......」
『ダメよ。着物を褒めてもらったの。髪を結ってもらったの。大事にしてもらったの。だから、大事にするのよ』
最後にふふっと笑い声がして。
『可愛い子。気をつけなさいな。あの部屋の女は、見といてあげる』
ちいさな手が消えた。急いで振り返っても、誰もいなかった。
「和臣! 和臣!」
「隊長!!」
「ちょっと救急車!!」
「意識ありますか!?」
「あ、大丈夫です! 掠ってもいません」
全員転んだ。膝から。
「えっ、痛そう.......。あ、救急箱ありますよ! ちょっと待っててください!」
看板を避けて車へ入る。救急箱を持って、皆の前に座った。
「膝見せてください。消毒.......痛いけど.......泣く? ハンカチいる?」
「「「「バカ!!」」」」
「えぇ.......。いや、確かに俺が悪いんだけど.......」
いつの間にか十字架を握りしめていた干からびた腕から、十字架を取り上げる。やっぱり西洋とは相性が悪いらしい。
「......もう大丈夫です。すいません油断して」
これは管理部へ持って行かなければならないので、消し飛ばせない。糸を使えば確実に消してしまうので、札を張ってしっかり見ておかなければいけなかった。
「皆さんどうします? ちょっと休みましょうか」
皆膝は血も出ていなかったので、とりあえず消毒液をかけるだけにしておいた。
地べたに座って空を見た。あの子は見ていてくれると言ったが、桃川くるみは大丈夫だろうか。
「.......なんで毎回毎回こんなに怖いのよ.......ばかずおみぃ.......」
「なんでだろうなぁ.......」
殴られた。
「ひぃん」
色々注意されて、防犯ブザーを買わされた。防犯ブザーで落ちてくる看板からは守られないと思う。その後は中田さんの運転でケーキ屋に行った。シャレにならなかった。
そして、全員で本部へ呼び出しをくらった。
さらば給料日。
ーーーーーーー
女優M
「何度髪を切ってもどんな紐で結んでもボサボサに伸び続けていた呪いの人形が! 可愛くなってます〜!」
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