王国の秘密
コルトが無事に捕縛され、ソフィアの安否が確認された後、ノエルの部屋に移動したシドラスとセリスは、ウルカヌス王国に到着してからの経緯を二人に説明していた。ソフィアが命を狙われており、その犯人探しをシドラス達も手伝っていたと聞き、ノエルとガイウスは驚いた顔をする。
「お二人が王城内を移動していたのにはそのような理由が?」
ノエルの問いにシドラスとガイウスが頷くと、二人は驚いた表情のまま、顔を見合っていた。実際に目の前でソフィアが襲撃されたことで、話の信憑性は高まっているはずだが、それでも、いくつか納得できないポイントがあるはずだ。特にシドラスとセリスは重大な秘密を隠したまま説明した。その部分を突っ込まれたら、どのように説明しようかとシドラスが悩んでいると、ノエルがゆっくりと頭を下げた。
「まず、ソフィア殿下を御守りいただき、ありがとうございました」
そう口にしてから、ノエルはゆっくりと頭を上げて、そこで急に鋭い視線をシドラス達に向けてきた。
「ですが、どうしてお二人は協力を?そもそも、その話を私達に教えていただければ、今回のような事態にはならなかったはずです」
シドラス達を明確に非難する視線と言葉に、シドラスは話すべきかと迷った。軽くセリスに目を向けると、セリスもシドラスの様子を窺おうとしていたのか目が合い、そこで何かを悟ったらしいセリスが小さく頷いてくる。
それから、真剣な表情のセリスがノエル達に顔を向けた。
「実は、ソフィア殿下が自分の命を狙っている人物として挙げたのが、ハムレット殿下だったのです」
セリスの一言に強く反応したのが、ガイウスだった。驚きと共に怒りも見える表情で立ち上がり、掴みかかりかねない勢いでセリスに抗議の言葉を向けてくる。
「殿下がそのようなことをするはずがない!」
その怒りは全うな怒りだとシドラスは思った。アスマに同じような疑いがかかれば、自分も同じ行動を取ったはずだ。セリスもその気持ちは理解できたのか、軽く手を出して、ガイウスを落ちつかせるように優しい言葉を向けた。
「もちろん、それはソフィア殿下がお考えになった可能性です。私達も信じたわけではありません。少なくとも、王国の内部事情を把握していない部外者が、そこを判断することはできませんでした」
セリスの言葉に我を失っていたことに気づいたのか、ガイウスが少し長めに息を吐き出し、再び腰を下ろした。その様子を確認してから、今度はセリスがノエルに鋭い視線を送り出した。
「ですので、王国内の情報を少し得ようと調べている中で、御二方の行動に不可解な点が見られることに気づいたのです。明らかに何かを隠している。それがソフィア殿下の暗殺に関与していないかと、私達は調べていたのです」
自分達に話せなかったのは、自分達の行動が怪しいからだと指摘され、再びガイウスが立ち上がって、抗議の言葉を向けてくるのかと思ったが、今度はそうならなかった。ノエルとガイウスは互いに顔を見合い、何かを考えている様子だ。それはハムレットが犯人候補だとセリスが言い出す前の、シドラス達の行動に似ている。
「なるほど。そういうことですか。誰が敵であるか分からないから、外部の人間である貴方達にソフィア殿下は協力を求め、怪しい行動を取っていた私達を疑ったと?」
「そういうことです」
「でしたら、誤解させた私達が問題でした。すみません」
謝罪の意を込めて頭を下げるノエルに、セリスは怪訝な目を向けた。
「誤解?」
「はい。私達はソフィア殿下の命を狙って行動していたわけではなく、実は極秘に調べていることがあったのです」
「極秘に調べていること?」
セリスの呟きにノエルは頷き、隣に座ったガイウスを手で示した。
「事の発端は、こちらにいるガイウスからの報告でした。彼の姉であるラキアという騎士が、王国に対して反逆行為を画策しているという情報です」
ノエルからの告白にシドラスは隠すことなく、驚きを表情に出していた。王国に対する反逆という部分もそうだが、それ以上に驚いたのが、ガイウスの姉として出てきた名前を聞いた覚えがあったからだ。
ラキア。それはソフィアの騎士だった人物の名前だ。
「私達は極秘にラキアを逮捕し、同様の反乱分子が王国内にいないか、私やガイウスを含む一部の人間で調査を始めました。その過程で見つかったのが、セリスさんもご覧になられた武器の数々です」
シドラスは知らないことだが、セリスは王城内にある建物付近で、王城の物ではない剣を発見していた。それのことを言っていると分かったセリスが「あれか」と小さく呟いている。
「あれは王国内での流通が許可されていない違法な武器でした。どこから流れているのか、誰が所有しているのか、本来は武器屋が管理している情報があれらの武器には全くありません」
「それを反乱分子が所持していたと?」
「はい。このままだと内乱に繋がると判断し、武器の流通経路を含む全ての反乱分子を特定するために動いていました」
そこまで説明を聞いたことで、シドラスはガイウスがシドラスを疑っていたことについて、一つ思い当たる節があった。それは明らかに勘違いなのだが、身から出た錆とも言える結果なので、シドラスは非難することができない。
「分かりました…それを調べている最中にギルバート卿が来たことで、私達を疑っていたのですね?」
頭を抱えながら聞いたシドラスの質問に、ノエルとガイウスは頷いた。その返答にセリスは納得した顔をしてから、その原因を作り出したシドラスに冷めた目を向けてくる。
ギルバートはエアリエル王国内外を問わず、有名な武器商人だ。その人物が出自不明の違法武器が流通している国に来れば、その出自に関わっているのではないかと疑われるに決まっている。知らなかったとはいえ、やはり浅はかだったとシドラスは反省した。
「手続きのための書類の作成が遅れたのも、それが原因ですか?」
セリスの問いにノエルは申し訳なさそうに頷いた。もちろん、普段の外交なら、ともすれば問題に発展することだったが、今回はソフィアの一件もあったので、シドラス達からしたら都合が良かったと言える。理由も分かったことなので、それを非難するつもりはない。
「この話はどれくらいの人間が把握しているのですか?」
「王城内の人間はほとんど把握していません。私とガイウス、後は国王陛下くらいです」
「そうなると、調査はどのように?」
「最初は私の妹が中心になって調べていましたが、違法武器の流通が判明したことから、マーズの貴族の当主であるエンブ卿とコンタクトを取り、そちらにも調査を依頼しています」
「その二人が反乱分子と関わっている可能性はないのですか?」
「もちろん、身内だからと言って、何も調べずに頼みませんよ。どちらも関与していないと判断できる程度に調べてから依頼しました」
いくつか質問を重ねながら、セリスは話の信憑性を確認しているようだった。筋が通る上に滞りない返答があれば、作り話とは考えづらくなる。
これは信じても問題なさそうだと判断したようで、セリスがシドラスにアイコンタクトを送ってきた直後、ガイウスが疑問に思っていたのか口を開いた。
「ところで質問なのですが、あのギルバート卿は本当にソフィア殿下をお助けになったことで、この国を訪れたということですか?違法武器に関与している可能性は全くないと?」
確かにそこのところは何も言っていなかったと気づき、シドラスは困惑と迷いの籠った視線をセリスに送った。セリスも話すべきか逡巡しているようで、同じように困った笑みを浮かべている。
その二人の反応にノエルとガイウスの視線が、次第に鋭さを増していく中、唐突に部屋の扉がノックされた。
「騎士団長。少しいいかな?」
扉の向こうから聞こえてきた声は、シドラスも聞いたことのある声だった。確か、さっきの話にも合ったエンブという貴族だと思い出した直後、ノエルがエンブに用件を聞く。
「少し大事な話があるんだ。例の客人に関して」
その答えにノエルがシドラス達に怪訝な目を向けてきた。シドラス達も、エンブの用件が何であるのかは分からず、不思議そうな顔をすることしかできない。
「分かりました。お入りください」
ノエルが確認するべきと判断したのか、エンブを部屋の中に招き入れると、エンブと従者のテンキと一緒にシドラスが予想していなかった人物まで、部屋の中に入ってきた。
「で…」
そこまで口に出し、シドラスは慌てて口を噤む。エンブ達の後ろに立つ二人は、明らかに申し訳なさそうに苦笑するアスマと、一瞥もすることなく悲しそうな表情をするベルだった。
「それで何でしょうか?」
「そのことなんだけど…」
ノエルに用件を聞かれたエンブが、ノエル達ではなくシドラス達に目を向けてきた。
「君達、エアリエル王国の騎士だよね?一つ聞きたいんだけど」
この時点で、シドラスもセリスもエンブが何を言い出すのか、何となく察していた。二人はいつもの呆れた笑みを浮かべ、エンブとその後ろのアスマを見る。
「このギルバート卿…流石にギルバート卿にしたら怪しいと思って正体を聞いたら、エアリエル王国の王子であるアスマ殿下の名前を名乗り出したんだけど、本当?」
その言葉を聞いたノエルとガイウスがまさかと思ったのか、驚いた顔でシドラスとセリスを見てきた直後、二人は呆れ返った表情のまま、ゆっくりと首を縦に振った。
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