ユージニア・ロンダー?

 おいおいホームズ、「覆面の下宿人」の事件のことを忘れたのか?

 サウス・ブリクストンのメリロウ夫人のところの下宿人さ。

 アッバス・バルヴァの悲劇だよ。

 これまで君は何人もの人を救いだしてきたが、あの騒動は最大級の成功とみなしてよいんじゃないかね。

 え? ほとんどなにもしていない?

 いいじゃないか、それでも。




【ネタばらしコラム】


注 この先、「覆面の下宿人」の内容に触れます。未読のかたはご注意ください。




 この「覆面の下宿人」も後期の作品。

 当コラムで後期の作品というワードが出てくると、たいがいポジティブな作品評価にはならない傾向があるのですが、本作もホームズの名推理炸裂とは違う味わいのもの。


 覆面で顔を隠したロンダー夫人の過去の悲劇の聞き役がメインで、直接的には事件に関わらないのです。


 ホームズシリーズは「知性と行動で弱い人間を過去から救う物語」だと感じています。

 今回はホームズの知性が獲得した名声が、メリロウ夫人を介してロンダー夫人と我らが名探偵を結びつけ、結果としてホームズがロンダー夫人を救ったと解釈できるでしょう。

 自ら死を選ぶことを考えていたロンダー夫人から過去の悲劇を聞き、生きるという未来を選択させたのですから。

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