第3話

「うへぇぇぇぇ。

 運が悪いねぇ、ねえちゃん。

 俺たちに見つかるなんてよぉ!」


「抵抗するんじゃねえぞ。

 抵抗すれば抵抗するだけ痛い思いをするぞ。

 おとなしくしてりゃあ、直ぐに天国に連れて行ってやらぁ」


「ふぇふぇふぇふぇ。

 最初はちょっとだけ痛いかもしれないが、直ぐによくなるよ」


 山賊に囲まれてしまいました。

 今までは愛馬ティシュトリヤが危険を避けてくれていましたが、今回は避けきれなかったようです。

 私の護身術程度で対抗できるでしょうか?

 恥をかかされる前に自害しなければいけません!

 拘束される前に、身動きできるうちに、死を決断しなければいけません!


「ちぃ!

 いいか、上玉だから絶対に傷つけるなよ!

 恐らく貴族令嬢のお忍びだ。

 身代金を手に入れるにしても、密かに金持ちに売るにしても、傷物じゃあ買い叩かれちまうぞ」


「そんなぁ、俺らが黙ってりゃ分かりませんよ」


「じゃかましいぃわ!

 逆らうなら殺すぞ!」


「ヒィィィィイ!

 ゆるしてください、お頭!」


 仲間割れですか。

 今の会話から、少なくとも直ぐに恥をかかされることはなさそうですね。

 ですが、捕まってから逃げるのは、ほぼ不可能です。

 山賊がもめているうちに包囲を突破すべきだと思うのですが、今までは軽々と盗賊や山賊の罠を突破してくれていた愛馬ティシュトリヤが、全く動いてくれません。


「ギャァァァァ!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ヒィィィィイ!」

「たすけてくれぇぇぇぇぇ!」

「探せ! 

 敵の居場所を探せぇ!

 ウギャァアァアァアァ!」


 不意に、山賊団が攻撃を受けました!

 山賊団にどこからともなく矢と石礫が降りそそいだのです。

 なんと、魔法の攻撃まで含まれています!

 火炎弾が山賊の頭を斃したのです。

 板金鎧で完全武装していた山賊の頭ですが、私を脅かすために面貌をあげていたのが弱点になったのでしょう。

 そこに火炎弾が叩きつけられ、地に伏してピクリとも動かなくなっています。


「ウォォォォォ!」

「しねぇぇぇぇぇ!」


 ひと目で訓練された軍馬だと分かる馬にまたがった二人の騎士が、生き残っている山賊団に突撃してきました。

 奇襲と頭目の死で混乱していた山賊団は、ろくに抵抗せずに逃げ出そうとしましたが、騎士二人が見逃しはしませんでした。

 馬上から槍をふるって次々と刺し殺していきます。


 周囲からの矢と石礫もやみません。

 ですが矢の数は一気に数を減らしました。

 最初の矢による攻撃には、二人の騎士も加わっていたのでしょう。

 私は、山賊にも後から攻撃してきた者たちにも気づかれないように、密かに逃げ出そうとしましたが、私の合図をティシュトリヤが無視します。

 これは?

 いったいどういうことなのでしょうか?

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