第108話 開戦

 インドラ連合国にアンリケ公国が参加する承認を与える調印式後、ヤマト帝国の

この地方盟主の泥鰌髭どじょうひげ子爵が兵を集めてアンリケ公国に攻撃を仕掛けてきた。

 合戦予定地を泥鰌髭子爵が進軍する途中に存在するアンリケ公国の同盟国カボサン王国とした。


 合戦が行われることからアリサ公爵令嬢には武装豪華貨客船に戻るように勧めたが、アリサ公爵令嬢は母親と城を守ると言って、剣道着に胴垂をつけた腰に俺が打った日本刀を差した姿になっている。・・・なかなか凛々しい姿だ。彼女も出会った最初の内はお嬢様で、運動など見向きもしていなかったが、俺達と暮らしているうちに、朝夕の剣道、居合道、弓道の稽古や馬術を楽しむようになっているのだ。

 白銀の髪に赤いリボンが映えている。

 当然胴にはアンリケ公国の紋章が描かれている。


 母親は危ないから船に乗ったらと諭していたが、アリサ公爵令嬢は胴垂を外すと居合の全日本制定居合の一本目「前」を抜いて見せる。

 凄い気迫と技の切れで、母親や馬鹿にして見ていた女官達も魅了されたらしい。

 アリサ公爵令嬢に強請られて大量に打って置いた日本刀が瞬く間に無くなった。

 鉄製の武器があまりないこの地方では、この日本刀一振りで豪邸どころか小国が買える程の値打ちがあるそうだ。・・・豪邸は売ってくれても国は売ってくれないだろうに・・・ところがそうでもない。

 この地方は赤字続きの小国が多く、経営が破綻しており身売りして、その国の貴族にでもなっていた方が楽だそうだ。

 ヤマト帝国の属国になっていても上納金を取られるだけで見返りは無いのだ。

 それもあって日の出の勢いのあるインドラ連合国に鞍替えしようと近隣の40もの国がさっきまで集まって来ていたのだ。


 亜人国家のオーマン国がインドラ連合国に参加する前は赤字国で世界的豪商のおかげで何とかなっていたが、青息吐息の状態は同じだった。

 それがインドラ連合国に参加したとたん赤字国から脱却して、経済大国の仲間入りをしようとしている。・・・一段も二段も下に見ていた亜人国家に経済的に抜かれたのだ。・・・これが近隣国家の状況だ。

 いかんアリサ公爵令嬢の居合の話から話がそれた。

 日本刀を与えたことで、今回の戦争の間中、気を紛らわせるためにアリサ公爵令嬢が母親や女官達の居合の指導をしていたそうだ。


 合戦予定地のカボサン王国に連れて来たヤシキさんの部下50人は土魔法を使える者を厳選したのだ。

 彼等には開戦の予定戦場になるカボサン王国王城の強化と王城から離れた場所に現場の状況の監視と艦砲射撃の着弾地点観測所を兼ねた出城を築いてもらう。

 カボサン王国の王城強化は王城の手前に空掘りを掘って、掘った土石で城の周りを二重の塀を造るのだ。

 カボサン王国の王城に俺が入るのを自領に逃げ帰る泥鰌髭が恨みをこめた目で見ていた。・・・これで決戦の場はカボサン王国に決定だな。

 泥鰌髭がこの王城まで攻め込めたらめっけものだ。

 そのカボサン王国の城に向かって応援部隊が集結し始めた。


 応援部隊の指揮官は鉄製の剣や槍を持っているが、ついて来た部下は青銅の武器を持っているのがやっとの状態だ。・・・酷いのになると石器時代の石槍だ!

 そのうえ、お鍋の蓋のような盾と、薄汚い皮の鎧をお仕着せのように着ているのだ。

 大体他国の軍備などはこの程度で、真正カンザク王国やプロバイダル王国が特別なのだ。

 転生した最初から天帝が打ったとされる1振りの『雷神』などと言う名刀を与えられ、長ずるに連れて生活していた地域が文明文化が高く鉄製の武器や防具を装備していた者ばかりなので失念する事が多い。

 巨大なヤマト帝国でも地方へ行くほど武器等の装備が落ちていくのだ。

 俺はダンジョン探索で得た武器を集まった応援部隊に渡していった。

 これで少しはまともになった。


 指揮官の鉄製の剣や槍も手入れを怠って剣などは酷いのになると赤鰯と言う奴になっている。・・・これもダンジョン探索で得た剣を磨いたのと取り替える。

 どうもヤマト帝国に囲まれた地方で戦いも無く、平和ボケで武器類の装備の手入れを怠っていたのだ。・・・集まった兵士の練度も低ければ士気も低い。

 そのうえ集まって来た応援部隊の兵数が極端に少ない。・・・衆寡敵せずと思ってヤマト帝国に寝返ったようだ。これでは益々士気も下がる。

 今回攻め込んできたヤマト帝国軍も似たような装備である。・・・ただ攻め込んできた将兵の数が10万人とやたらに多いのだ。


 アンリケ公国が俺が率いるインドラ連合国に参加する事を聞きつけたヤマト帝国は、ヤマト帝国の最大地方領主の泥鰌髭どじょうひげ子爵を総大将としてアンリケ公国に攻め込んできた。

 そのヤマト帝国軍の大軍を打ち破るべく、ヤマト帝国軍の進軍経路上のカボサン王国王城に陣を引いた。

 俺がカボサン王国で戦闘の準備に入っている間に、残っている妻達にはカボサン王国やアンリケ公国内の住民等の避難を考えさせた。


 両国ともインドラ連合国のように住民基本台帳を整備整理していないため国民の総数がはっきりわからない。

 今回の戦いで、健気にもインドラ連合国に参加表明した国々の国民を助けてやりたいとの思いからだ。

 護衛戦艦や武装豪華貨客船の二隻の船に乗せるには、乗客定員の関係で全員を乗せるのは無理だ。・・・王族だけでも武装豪華貨客船に乗せておけばよかった。

 それに既に戦闘行動にはいり二隻とも洋上にいるため到底無理だ。

 海の巨大生物を恐れて沿岸部でしか漁業が出来ない筏に毛が生えたような小舟ではその小舟を使って外洋には漕ぎ出せない。

 その小舟同士を繋げたとしても、海の巨大生物の餌になりに行くようなものだ。

 それに洋上に出たとしても何処へ行くのだ。

  

 それについては、インドラ連合国に参入すると残っていた、アンリケ公国の後方にあるヤマト帝国のおとなし気な地方領主が、この戦闘で難民が出た場合は受け入れると言ってくれたのだ。・・・そうは言ってもこの戦いでアンリケ公国が灰燼と帰せばそんな話も反故になるのだ。

「前門の虎後門の狼」

といったところか。

 それに、ヤマト帝国の地方領主だスパイの為に残っているのかもしれない。


 アンリケ公国内の住民やカボサン王国国民の避難の準備という名目で、まずは住民の基本台帳の作成から始めることにした。

 逃げ出すと言っても何処に住んでいる誰なのか分からなければ、避難の受け入れ先も大変なうえに、戦争が終わって国に戻ってきても元住んでいた所にも戻れないかもしれない。

 それで何処に誰が住んでいるのかが分かるようにするためにも、受付の際に住民基本台帳も記載していく事にした。・・・税収入がいい加減で地方の代官が住民の数を誤魔化していれば、地方の代官が肥え太り、中央の王族がその分疲弊する。これでは国を売りに出して、自分は貴族になった方がましだと言う話はまんざら嘘では無いのかもしれない。

 しかし地方に行けば行くほど識字率が低いためその作業もままならないのだ。


 羊皮紙や木簡に氏名を書いていく、紙の文化や印刷の技術もない。・・・武装豪華貨客船や護衛戦艦にも、大量の紙は積んではあるがすでに洋上に漕ぎ出しているので、時間がない今は無理だ!羊皮紙は高価で数も無い。木簡はかさばる上にこれも用意がされていない。

 無いない尽くしだ。

 これを機会に紙の文化の普及、そしてインドラ連合国に参加を希望してきたアンリケ公国等の小国家群に対する住民の教育は喫緊きっきんの課題だ。

 最初の基本台帳作りも無理だった。・・・作戦会議に出席していた国々はそれでも国民の実数の把握の重要性には気が付いたようだ。

 避難計画は頓挫した。・・・まあ当然なのだが、俺がヤマト帝国軍を打ち破るしかなくなった。


 逃げ場がない、教養も技術も無いと分からせるのもこの作戦会議における議題の重要性だ。

 為政者と住民の関係を気付かせることも重要なのだ。

 言い方は悪いが、このままでは為政者、貴族は住民に寄生するダニのような存在でしかない。

 為政者は民を守り、国を豊にしなければいけないのだ。


 押し寄せるヤマト帝国軍は10万弱、かたやインドラ連合国に参加を表明した各国は1万有余しか集まらず、戦闘意欲もわかないようだ。

 これでは、籠城戦しかないようだ。

 籠城戦は悪手だ、他に応援があるからこそ籠城戦が成立するのだ。・・・乾坤一擲、前世の織田信長の桶狭間の戦いのようにヤマト帝国軍の今回の総大将、泥鰌髭の首を取る方法もあるが、今回はカボサン王国王城に集まった者達に歴史の証言者になってもらう、科学の力を見せつけ、学問の重要性を知らしめる戦いでもあるのだ。


 そうは言っても多勢に無勢、打ち漏らしたヤマト帝国軍がカボサン王城に攻め寄せるかもしれない。

 その時は何の気やすめにもならないかもしれないが、俺はカボサン王国の王都を守る城壁の外側に、空掘りを掘った土砂を利用して更に土魔法使い達が築いた新たに出来上がった城壁を確認していく。


 急遽築城したため、もろい部分や城攻めの弱点になる個所に出城を土魔法を使って築城したり強化していく。

 王都を守る王城の城壁に許可を受けてインドラ連合国の紋章の上にアンリケ公国とカボサン王国の紋章を重ねて描く。・・・何が何やら良く分からないが凄い力を感じる。

 六か国もの紋章が重なった事から城壁が光って見えるのだ。

 それでも、集まった将兵の戦闘意欲、士気は高まらないのだ。・・・別にいいのだ彼等が勝利の目撃者になってもらえれば!


 気になったのは、毒苔をこぞって将兵に食べさせている事だ!・・・感覚を麻痺させ知能を衰えさせれば突撃など怖くない。

 それでも、毒苔を食べさせる事を禁止した!

 突撃だけの脳筋集団が出来るはずだ!


 艦砲射撃の着弾地点観測所を二ヶ所の出城のように建築したが、これは特に念入りに補強を行った。・・・敵軍の攻撃の為の集結地点にも近く真先に攻め込まれるためだ。


 俺と魔銃の修理のため来ていた俺とクリスが一方の観測所に入る。

 魔銃も一丁土産にもらった。・・・このままでは有効に使えない。威力はあるが魔石1個で1発の単発銃だ。改良をしなければ。


 もう一方にはヤシキさんと三名の部下が観測所に詰める。・・・相互の連絡手段はランタンを利用したモールス信号だ。魔素の世界では電波は減衰しやすい。魔素を使ったステータス画面以外の通信手段を研究中だ。

 ヤシキさん達は転移魔法が使えないので、いざという時の為に武装豪華貨客船にいけるように転移装置を渡してある。・・・転移装置の回収は俺がする予定だ。

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