第94話 出港
出港の準備は整ったことから、魔の森の世界樹教の本社の前に広がる湖の対岸にあるドックで武装豪華貨客船や護衛戦艦の船の引き渡し式、艦旗授与式と推進式を実施することにした。
保秘もあるが式典は重要で必要なことだ。・・・意識の高揚に繋がる。
造船用のドック内には造船を終えた武装豪華貨客船や護衛戦艦がインドラ連合国内の国々や地方領主の小旗で飾られている。
ドック内では軍楽隊がインドラ連合国歌を奏でる。
軍楽隊の楽器は以前聞いた時より、さらに管楽器や弦楽器等が発展している。
技術的には時々不協和音が聞こえるが、何とか音楽として聞こえる。
それでも軍楽隊を指揮する女性軍楽隊長は不満そうだ。・・・これから軍楽隊を使う機会が増える。武装豪華貨客船の中で演奏会や舞踏会を常に行うことにしているので実力もあがるだろう。
国造りには自国の足元、生産力や経済力を固めることも重要ではあるが、文化の育成も重要なのだ。
音楽も美術も毒苔の影響でほとんど廃れている。
焚書坑儒で文化の中心の書籍が焼かれ、伝統工芸等は毒苔の影響で後継者が育たない。
行きつく先は人類の滅亡しか見えてこない。
このような世界を創った元凶は蜘蛛型生物とヤマト帝国なのだ。
その帝国に鉄鎚を喰らわせるべく武装豪華貨客船や護衛戦艦を造船したと言っても良いのだ。・・・蜘蛛型生物と戦うにはもっと力を付けなければならない。
ドック内に鎮座する武装豪華貨客船と護衛戦艦の引き渡し式が終わると、船首に真正カンザク王国とプロバイダル王国、ヒアリ国やオーマン国の四つの紋章が重なったインドラ連合国の紋章が彫り付けられた大きな金属製のプレートを俺が備え付ける。
船首に紋章のプレートを備え付けると、紋章の力が発動して明るく輝きながら船体全体を包み込んだ。
これで滅多の事では船が沈むことは無い。
次に艦旗授与式には、武装豪華貨客船の船長の白愛虎や護衛戦艦の艦長のモンにそれぞれインドラ連合国の紋章の描かれた艦旗が与えられる。
その艦旗が武装豪華貨客船や護衛戦艦に掲げられてたなびいている。
船体全体に船首の紋章と旗の紋章が船体全体をさらに明るく輝き照らす。
俺の赤子の子供達もアリサ公爵令嬢や豪商の双子の兄妹も、これからこの船に乗り込む船長見習いの子供達も喜んで、それを見ていた。
最後の進水式だ。
『ピー』
と甲高い笛の音を合図に湖に面した扉が開かれる。
ドックに湖の水が入れられて武装豪華貨客船や護衛戦艦の二艘の船が同時に浮き上がる。
この湖は真正カンザク王国の中を流れるカンザク大河や魔の森の中を流れるデビル・フォーレスト大河の源流の一つであることから広くて深い。
軍楽隊の演奏するインドラ連合国の行進曲が流れる中ドック内に入って来た二頭の湖竜によって武装豪華貨客船や護衛戦艦が引き出されていく、二艘はドック横の船着き場に横付けされる。
乗船だ。
船着き場には、黒い士官服を着た将校を先頭に乗船する真白の水兵(セーラー)服をきた水兵が何組も並ぶ。
白い将官服を着た将校を先頭に、真赤な服を着た海兵隊員が幾人も並んでいる。
海兵隊員の肩には、この世界で初めてお披露目するボトルアクションのライフルが担がれている。
最初だから火縄銃でも良かったのだが、今後激しい戦いも予想される。
それに火縄銃のような先込め方式にしたら銃口を覗き込みながら弾丸を入れてみたり、下に向けると弾丸が転がり出たりして取り扱いを注意するのが大変だったのだ。
精度も悪く操作の遅い火縄銃よりもボトルアクション方式のライフルを渡した。
このように、作れる武器は作って慣らしていく事にしたのだ。
ボルトアクションよりも当然現在の軍隊に使われているアサルトライフルのようなものでも良かったのだが、まだ銃器について理解が追い付いていないのでボルトアクションのライフルにしたのだ。
この時代の人は目がいいので現在でも狙撃銃として使われているボルトアクション方式のライフルとは相性は良い様だ。
居並ぶ水兵や海兵隊員の検閲式を行った。
まだ貫頭衣から抜け出せていない者も多い。
アイロンがかかっておらず、靴も磨かれていない。
兵だけでなく将校もだらしがない、海の上での訓練で徹底させるか。
検閲式が終わる頃、軍楽隊もドックから船着き場に現われた。
インドラ連合国の国歌が流れる、その中を無事に式典を終えた武装豪華貨客船や護衛戦艦に船着き場から皆がアンリケ公国に向かう為に乗船をはじめた。
馬車や馬も下層部に造られた馬小屋に入っていく。
前世の蒸気機関の機関部やその燃料、それに水の神殿のおかげで大きな貯水タンクも必要が無いので、かなりの物量を積み込む事が出来るのだ。・・・湖竜はお腹がすけば勝手に自分の食糧を取ってくるという。
俺は艦隊司令官として
『ピ~』
という甲高く一定のリズムを踏んだ笛の音を合図に護衛戦艦に乗り込んだ。
艦長のモンが俺を出迎えた。
武装豪華貨客船の船長である白愛虎も乗り込んだ。
インドラ連合国の外交使節団の随行員は俺の妻達が勤める。
俺の妻の一人プロバイダル王国の女王セレスは勿論の事、俺の妻になったルウはヒアリ国の女王として、白神虎とヨウコさんがオーマン国の国王と王女として参加している。・・・セレスとルウは勿論の事、白神虎やヨウコさんまでもがアンドロイドを影武者として自国の国王として働いているのだ。就任したばかりの国であり出来たばかりの連合国なのだ隙を見せるわけにはいかない。
当然アリサ公爵令嬢の護衛としてヤシキさんも乗り込んでいる。
俺の子供達もアリサ公爵令嬢や豪商の双子の兄妹にしがみついて離れなかったことから連れて行く事になってしまった。
それで孫達の面倒を見ると言って宰相の奥さんが武装豪華貨客船に乗り込んできた。
皇后様と宰相、近衛の団長、息子さん達、ベックさん一家はインドラ連合国の首都で留守番をすることになった。・・・豪商の双子の兄妹の護衛任務の傭兵さんは留守番だが番頭さんの義理の兄は豪商の仕事として乗船してきた。
残った人は、とても恨めし気に宰相の奥さんを見ていた。
モンに説得された二頭の湖竜が武装豪華貨客船や護衛戦艦を引張り、湖からデビル・フォーレスト大河を河口に向かって進みはじめたのだ。
武装豪華貨客船の船上に移動した軍楽隊のもう何度目になるか分からないがインドラ連合国の国歌や行進曲が流れる。
舫い綱が港のビット(舫い綱をかける構造物、調べるとクリートなど幾つか名称が出ますがビットにしました・・・ビットきたなんちゃって!)から外された。
錨がガラガラと巻き上げられていく。
軍楽隊のインドラ連合国の行進曲に乗って武装豪華貨客船や護衛戦艦がアンリケ公国に向かってついに出港したのだ。
真正カンザク王国の中を流れるカンザク大河を使うか魔の森の中を流れるデビル・フォーレスト大河を使うかで何度か議論が行われた。
湖から流れ出るカンザク大河は魔の森の中では湖の延長のように対岸が良く見えないほど河幅が広く、水深は深い。
それでも魔の森を抜けたカナサキ村等の付近から川幅が狭くなり、運河を航行する貨客船の様子が手に取るようにわかる。
これでは他国からの諜報員が真正カンザク王国内に暗躍している今、武装豪華貨客船や護衛戦艦の情報が漏れてしまう。
保秘の関係からも両艦を見せるわけにはいかない。
かと言って川の状況が良く分からないデビル・フォーレスト大河を危険を冒してまで航行する必要があるかでもめたのだ。
デビル・フォーレスト大河を航行できないようでは、はるかに危険な外洋は航海できないということでデビル・フォーレスト大河を使うことが決定された。
最初の内は、水深は深いと言っても湖竜がやはり武装豪華貨客船や護衛戦艦の船底に潜り込んで背負うようにして行く程の深さはない。
二頭の湖竜が、それぞれ二艘を引っ張っていく。
湖竜はインドラ大陸のカンザク大河では食物連鎖の頂点に立つので、他の水生魔獣が襲ってくることはない。
ただ未開の大地を流れるデビル・フォーレスト大河には何が棲んでいるかわからないのだ慎重に船を進める。
このデビル・フォーレスト大河は両岸の魔の森もまた深い緑に覆われた未開の大地が広がっているのだった。
アンリケ公国にインドラ連合国参加の承認を与えるべく、ペンキの匂いも残る新造された武装豪華貨客船や護衛戦艦による航海が開始された。
外海へ出るためにデビル・フォーレスト大河を下る。
俺のステータス画面では、このデビル・フォーレスト大河はカンザク山脈で丸く囲まれた魔の森の中を流れ、この流れに乗って下っていけば直接海に出ることが出来るようになっている。
ただデビル・フォーレスト大河が流れているのがわかるだけだ。
真黒な大陸の地図に白い大河の流れが表示されているだけなのだ。
デビル・フォーレスト大河の流域は船が進まないと明瞭に表示されていかない。
それも俺を中心に百メートルの限定的な範囲だけだ。・・・魔力量は無限大だがこれが限界で少ないが仕方がないことだ。
魔力量が無限大になってもステータス画面のこの能力は広がらなかった。
俺はデビル・フォーレスト大河の流域調査の為に時々風魔法で空の散歩と洒落込む。
これによって、ステータス画面の地図表示では付近には幾つか有力なダンジョンを発見することができた。
流石に未開の大地というだけはあるのだ、その中でも目を引いたのが、前世のピラミッドのようなダンジョンだ。
空を飛んでいる時に見つけたものだ。
不思議なことに、地図表示でも四角い人工の建造物のように見えるのだが、ダンジョン表示もされているのだ。・・・ダンジョンはこの世界の神様が与えて恵みでダンジョン自体が生き物だ。心臓部であるダンジョン主が討伐されると長い眠りにつき復活する。
だから人工の建造物はダンジョンになりえないと言われてきた。・・・と冒険者予備校では言われてきているのだ、これは興味をそそる!
このダンジョンを見て、俺の子供達がダンジョン踏破でステータスを上げることが出来るのだから、アリサ公爵令嬢や豪商の双子の兄妹、それに船長見習いの子供達もどうなるだろうと思って、このピラミッドの探索に行く事にしたのだ。
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