第57話 二人の赤子の誕生

 真正カンザク王国とプロバイダル王国が内政的にも落ち着きを取り戻したので、湖畔の館でプロバイダル王国のセレスの戴冠式用の陶器や土産用の陶器を造っている。

 戴冠式の後の園遊会で他国からの招待客は、毒殺を恐れて自国の料理人や女官を連れてきて、食材どころか料理を盛る皿までも自国の物を使うそうなのだ。

 それでそれ程の数の陶器を造る必要は無いが、プロバイダル王国や真正カンザク王国の参加関係者と、一応園遊会の謁見の間に食材を飾る大皿等をプロバイダル王国の紋章などが入った陶器を造らなければならない。


 形状はプロバイダル王国の紋章を掴むように、プロバイダル王国の守護龍この場合赤龍が縁取りを飾り中央にプロバイダル王国の国の花、百合のような花を描くのが一般的だそうだ。

 王国の紋章は紋章師が描くのが普通なのだそうだ。


 俺はプロバイダル王国や真正カンザク王国の紋章師を呼び出して、陶器の製造の手伝いをするように命じようとしたところ、二人ともいずれも高齢であり、紋章の描かれた図鑑を差し出して


「本来は聖魔法を使える者が代々紋章師として国に仕えていた。

 聖魔法を使える者は知ってのとおり治癒魔法使いとして医師や薬師として高い能力を持っていることもあり、医師や薬師になってしまい紋章師になる者は稀なのです。

 今は聖魔法も使えぬ老いぼれが紋章師等と言う大役についているのが現状です。

 我々では紋章の図鑑を参考に紋章を描くだけで、紋章が持っている本来の力が発揮されていないのです。

 王は聖魔法を使えると言う、この本の紋章どうりに描くと護符になるはずだ。」


と言われて、手近な紙に紋章を描くと、光輝きながら紋章が浮かび上がり落ち着いた。

 不思議なことに紋章の描かれた紙は破る事も燃やすことも出来なかった。

 記録として残す以外は、紙で文章を書くときは時間が経てば消えるインクを紋章に使うようにするそうだ。

 そのうえ今後真正カンザク王国とプロバイダル王国の王と女王が結婚する場合は二つの国の紋章を描いて重ね合わせると新たな紋章が浮かび上がり、より強力な護符となるそうなのだ。


 それで土産の陶器は、真正カンザク王国とプロバイダル王国の二つの国の紋章が重ね合わさってできた新たな紋章と、その紋章を支えるように左右から両国の守護龍である黒龍と赤龍が縁どられ、中央に俺とセレスの姿が描かれているデザインになった。

 チョット恥ずかしいが、何があっても壊れない品物になったことから、今後もこの土産品同様に夫婦仲良くありたいものだ。・・・等と思っていたら背中から殺気を感じた。

 セレス以外の妻達がジッと俺を見つめていたのだ。それで急いでそれぞれの妻と俺の姿を描いた陶器を造って皆に分け与えた。・・・アア怖‼


 そんなことをしているうちにクリスとモンが産気づいたのだ。

 産室前をウロウロと歩きまわる俺を、今度も前回同様に

「魚釣りに行け!」

と皇后様や宰相夫人に怒られて魚釣りにだされた。


 クリスは宇宙エルフ族で子供が出来にくい特異な体質であり、モンにあっては世界樹から生まれて青龍と融合しているとはいえ、子供が出来ないだろうと言っていたが子供を宿したのだ。

 それで二人とも子供が出来る事自体が奇跡であり、心配で魚釣りどころでは無かった。

 湖畔の館から子供が産まれたという合図の花火が上がった時は直ぐに転移で湖畔の館に戻った。・・・気もそぞろで今回の釣果は坊主だった。


 転移で湖畔の館に着くと直ぐに二人のもとに駆け付けた。

 二人の無事な顔と横で眠る赤子を見て胸を撫で下ろした。

 二人とも安産で元気な男の子を産んだのだった。

 クリスの子にクリストファーと名付け、モンの子をリュウセイ(龍聖)と名付けたのだ。

 俺にとってはクリストファーは次男、リュウセイは三男である。


 次男のクリストファーは宇宙エルフ族特有の長い尖った耳を持ち、三男のリュウセイは背中に竜種の鱗を持っていたが、これは成人する前に背中の竜種の鱗は体内に取り込まれるそうだ。

 この鱗一つ一つが防御の魔法が付与された魔石で成人するまでの間、リュウセイを守ってくれると言うものだった。


 紋章に護符の役割があると聞いたので、二人の赤子には紋章の着いた産着を送った。

 お宮参りならぬ世界樹参りという事で子供達四人にそれぞれ紋章の入った産着を着せて世界樹の元に豪華貨客船で向かった。


 世界樹の新たな門番さが

「私も子供が欲しい!」

等と言ってリュウセイを抱き上げたり、世界樹の中で住んでいた宇宙エルフ族の女性が羨ましそうにクリストファーを見に来たりして大変だった。・・・後日真正カンザク王国とプロバイダル王国の二つの国では世界樹参りが流行り始めた。


 お宮参りならぬ世界樹参りを終えたので、大量に焼き上がった陶器類を魔法の袋に入れてプロバイダル王国に転移で向かおうとしたところ、異変を感じたのか、生まれたばかりの赤子を含めて子供達4人に泣かれた。

『泣く子と地頭には勝てぬ。』

という。

 転移で行く事をあきらめた俺は、湖畔の館から船旅でプロバイダル王国の王城まで向かう事にした。


 真正カンザク王国の皇后と宰相夫婦も戴冠式に出席するのだと船に乗り込んできた。

 当然、俺の奥さんや子供達もだ。

 船は真正カンザク王国とプロバイダル王国への航路拡充等に伴い内航海運業が発展して、貨客船の大型化が進んでいる。

 以前乗船したことのある豪華貨客船をさらに大きく豪華にした貨客船が造船された。


 真正カンザク王国とプロバイダル王国両国の紋章が付けられた豪華貨客船には防音装置の付いたカラオケ用の部屋が数室設備されている。

 この防音装置の付いたカラオケルームの一部屋を俺の専用の寝室にした。

 これで俺は、四人の子供、赤ん坊が夜泣きしていても寝れる・・・甘い考えだった⁉

 赤ん坊二人がニコニコとハイハイをしながら俺の後ろからついてくる。

 産まれたばかりの赤ん坊達も愚図って俺にしがみつく、俺は一人でカラオケルームで寝ようとしていたが子供達もついて来て、寝不足だ!・・・他の人達はぐっすりと眠っている。


 かなり暖かい地域に入ってきたので、豪華貨客船に浅いプールを造って、昼間は子供達と遊んでいた。・・・赤ん坊が溺れないほどの浅いプールを造って遊ばせていたのだが、妻達もそれを見ていて以前、湖畔の館の温水プールを思い出したのかプールを造らされて泳いでいるのだ。

 妻達はビキニやハイレグの水着などを着て楽しんでいた。


 子供隊はプールで体力を使い果たしたのか、そのおかげで夜泣きもしないで良く寝るようになった。

 俺も良く寝れた。・・・子供達と遊べたので転移で行くより、船旅のこの一時はとても充実していた。


 プロバイダル王国の王城の近くに造った港に船を止めて王城に入城する。

 俺が世界樹の枝から造った紋章を付けた馬車が並べられる。

 この紋章自体が護符となっている為、俺が作った護符が付いた馬車を壊すのは大変なのだ。

 そのうえ紋章が付いているといつも以上に振動も軽減されるようなのだ。

 やはり長時間乗っていると振動は辛いものがあるので、軽減されることは良い事だ。


 馬車がプロバイダル王国王城の城門を通り王城の馬車寄せに馬車を止めた。

 戦禍で焼けこげた王城もすっかり修復された。

 新女王セレスの戴冠式ように謁見の間を広げて中央に権威の象徴である玉座をつくり設置してある。

 王城の焼け焦げた紋章に手を置いて聖魔法で紋章をなぞると護符の輝きが起きてプロバイダル王国王城を包む。

 これで低級の火魔法程度では王城を燃やすことはできないのだ。


 戴冠式は、この世界では初めての試みである。

 通常は、かなり豪華な土産を持たせた使者が他国に行って

「○○が新たに王(女王)になった。」

と知らせるぐらいなのだ。

 使者が相手国から土産を持って戻ってくれば良いが、使者が死者になって戻ってくるという悪い冗談のような場合は、良くて国交断絶、悪くすれば宣戦布告になる。


 王位継承は、それだけその国の世情の悪化を招くものであり、早いうちに王位継承を行う等の措置を講じているのが現状だ。

 他国からの訪問使節団が国を通過する際に、国の発展や安定を見せつけ、スムーズな政権交代劇を見せるためにも戴冠式を行うことにした。

 戴冠式のために城内の大幅な改装もおこなわれた。


 他国からくる訪問使節団は出された料理に暗殺を恐れて手を出さないことが予想されるので、謁見の間の隣には幾つもの他国の訪問使節団の料理人用の調理場が並ぶ通路が造られた。

 料理人の中には火魔法を操って料理する者も多いが出来ないものは火魔法の付与された料理器具が備え付けられている。


 地下資源の天然ガスなど探せばありそうなものだが、手近な魔法で何でも出来る事が文明の発展を阻害してもいるようだ。

 ただ・・・今度は魔法が不要になって、この世界の魔法文明が滅びてしまうかも?


 プロバイダル王国の王城内は戴冠式の謁見の間のみならず、幾つもの大会議室や客間を造り、外交の場としてもつくりあげていった。

 王城の隣には、幾つもの古城を模した小さなホテルを建築して訪問使節団を待ち構えた。


 北カンザク地方山岳警戒所からヤマト帝国からの訪問使節団がプロバイダル王国の戴冠式出席のために出発したとの連絡が入った。

 ヤマト帝国の訪問使節団の団長は豚皇太子で総勢1千名ほどの大隊を率いてくるようだ。

 これだけの人数のヤマト帝国の訪問使節団の宿舎にしたのは、王城かと思われるほど大きくて優雅な建物であるプロバイダル王国の元の宰相邸だ。

 この元の宰相邸は元宰相の財産没収に伴い王国の財産にしたもので、壮大で優雅な建築物であることから迎賓館として利用することにしたのだ。

 この迎賓館に最初に迎える使節団が、ヤマト帝国の訪問使節団である。


 俺は不思議に思うのだが、巨大な城や、この壮大で優雅な迎賓館を建てる知識を誰がもたらしたのだろうかということだ。

 時代は中世初期の教育水準で、識字率が異常に低いこの世界において、これほどの建築技術を有しているのはなぜかということだ。

 それに、なぜか成人するにつれて個体差はあるが、記憶や知識がいきなり低下して退しているのだ。


 記憶や知識の低下、退化をさせるものといえば山岳エルフを救出する際に発見した知能を低下させる毒苔がある。

 これが原因だとすると、まだ真正カンザク王国やプロバイダル王国は勿論の事、他国にも大量に何処かに群生したり、栽培されているのではないだろうか?

 まずは足元の真正カンザク王国やプロバイダル王国内に知能を低下させる毒苔の発見、駆除処理を巡検士部隊に命令としてだしたのだった。


 プロバイダル王国王女セレスの戴冠式で各国の訪問使節団が来訪してくる。

 一年間の短い期間であるが、開拓開墾した四角く区切られた農地が青々と続いている。

 また、二台の馬車がゆったりと走ることが出来る、道路両脇に魔獣植物や果物が実る植物が生え、所々に休息所や関所が造られ、人々が馬車で行き交う直線の石畳の道路網が続いてもいるのだ。

 各国の訪問使節団が、戦後これほどの短期間でプロバイダル王国が復興した姿を驚愕の目でみているのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る