第46話 瓦解するプロバイダル王国王弟軍

 プロバイダル王国の王と宰相の身柄を拘束して開戦の理由を聴取する。

 今回のプロバイダル王国が真正カンザク王国に攻め入ったのはやはり、俺の国、真正カンザク王国が効率が良い農業先進国になったこと。

 プロバイダル王国の高い税制から村々から逃散し流民となった農民が真正カンザク王国の開拓開墾地に定住するようになったこと。

 さらには農業だけでなく工業も発達して今後も高い生産力を誇るようになった真正カンザク王国から経済的な圧迫とを受け続ける恐れがあったことからだ。


 特に、その経済的圧迫を武力で解消するための出兵であり、大義名分としては一人息子の王太子が15歳になったので、その初陣を飾る場所としてでもあった。

 王太子が率いる魔術師軍団を中心としたプロバイダル王国軍が領土拡大の為、魔の森に侵攻した。

 自国の魔法が使える男女の貴族達四千名の魔術師軍団に加えて、魔王国の強力な魔術師が千人も応援に来てもらっているのだ。

 この世界の歴史の中でも、これだけの数をそろえた魔法部隊はなかった。


 魔の森は、魔の森の帝王を中心に円形状に囲むように出来あがった3千メートルを超える山岳地帯で、このカンザク山岳地帯が魔の森への侵入を阻んでいたのだ。

 プロバイダル王国の魔術師軍団は魔法でその山岳地帯に穴を開け、魔の森に侵攻して魔獣や魔獣植物を焼き払っていった。

 王太子軍を迎撃するために出撃した真正カンザク王国軍に対しては魔の森の魔獣や魔獣植物が抵抗して進軍速度を抑える役割してくれ、別働の王弟部隊の勝敗が決するまでの間、魔の森で留まっていられると思っていたのだ。


 プロバイダル王国王弟が率いた南カンザク地方侵攻軍は練度の高い、王弟自らが率いる子飼いの3千人、そして王城の守護者たる守備兵や王を守る近衛部隊が加わり必勝の構えで侵攻していた。

 それらの事から王太子が初陣を飾るには、魔の森の侵攻部隊が安全で勝利を上げやすいと思われていたのだ。

 ところが陽動的に魔の森に侵攻し王弟軍勝敗が決するまで魔の森に留まるはずの王太子軍が最初に壊滅してしまったのだ。

 俺は王太子軍を壊滅し、プロバイダル王城を落としたいま残った課題は南カンザク地方に侵攻しているプロバイダル王弟軍の対応のみである。


 王弟は現国王とプロバイダル国王の地位を巡って争ったことがある。

 プロバイダル国王の直系の血縁が少ないため、反目している王弟を処分できないままにしていた。

 その王弟は王が優柔不断であることから、真正カンザク王国侵攻に際して魔王の仲介によりヤマト帝国との間で両面作戦の闇取引が行われたのだ。

 王弟はキャサリンの養い親である公爵、宰相を篭絡ろうらくして仲間に引き入れ、あわよくば侵攻している南カンザク地方を手に入れプロバイダル王国から独立しようとしていた。


 王弟は戦いもしないうちに、プロバイダル国王から停戦の知らせとプロバイダル王国が真正カンザク王国に降伏したことを知らせる使者が送られた。

 王弟はその使者を切り棄てて停戦の知らせや、プロバイダル王国が降伏したことを無視して侵攻軍を止めることはなかった。

 王弟は無傷で精強なプロバイダル王国軍の一個師団、約1万人の将兵を率いており、上手くすれば王弟は目論見通り、南カンザク地方を侵攻して手中に治めることができるか、場合によってはそのままヤマト帝国に逃げ込もうというものだ。


 プロバイダル王国の王城に真正カンザク王国の臨時政府の代表として第二師団長である近衛の団長さんと共にユリアナとセーラを残す。

 特に魔の森の侵攻作戦とプロバイダル王国王城付近に対する戦後の処理をしてもらう事にした。

 また、近郊の領主や村々の村長に対して、税率を下げて4公6民とするという臨時政府の通達を出す。

 プロバイダル王国の王城の守備などに第二師団の半数を残した。


 俺は残った第二師団の半数を率いてプロバイダル王国王城から南カンザク地方に侵攻する王弟の率いる侵攻軍を挟撃するために出撃する。

 俺は王弟の顔を知らないので、首実検の為に不本意だが宰相を拘束して連れて行くことにした。


 宰相の義理娘であるキャサリンでも良いのではないかと思って、キャサリンに問いただすが、どうも宰相の義理の娘のキャサリンは、武道馬鹿というか・・・!

 キャサリンも王弟の顔を知らないのだ。


 貴族の子女も15歳で正式にプロバイダル王国の王城で社交界デビューを果たすのだ。

 キャサリンのその時の服装が女性騎士の鎧姿で顔全面が覆われた兜まで付けて現れたのだ。

 キャサリンが宰相の館を出る時はきちんとしたドレス姿で、頭には公爵の身分を示すティアラを頭につけていたはずなのに。

 当然、王城の社交界の場に、顔も見えない兜を被り、騎士の鎧を着けた者が乱入してくるはずもないが、王城の王の守護者である近衛達が秩序を乱すものとして、彼女に剣をむけたのだ。


 社交の場がキャサリンの華麗な剣術のお披露目の場になってしまった。

 キャサリンの振るう剣が近衛の持つ剣を払い飛ばしていく。

 実はその時、キャサリンが近衛の持つ剣を払い飛ばした一本が折り悪く王弟の方に飛んで、もう少しで股間を突き裂くところであった。

 王弟は失禁して股間を濡らしてしまった。

 それ以後王弟は今回の失態の謝意を述べるために来所するキャサリンの顔を見るのは嫌だと面会を拒絶していたため顔を知らないのだ。


 その後も普通の貴族の娘なら社交界に出て顔を売るのだが、社交界デビューが強烈すぎたので貴族は誰も社交界を開いてもキャサリンを呼ばなかった。

 その前にキャサリンは社交界に出入り禁止になっていたのだが、義理の娘とはいえ宰相の娘なので誰もキャサリンに告げることができなかったのだ。

 そのうえキャサリン自身も社交界に出るくらいなら武道場で剣を握って振るほうを好んだために王弟の顔を知らないままであった。


 囚われた宰相は馬車の中で、その横をキャサリンが馬に乗って歩く。

 この世界の馬車はサスペンションもなく、タイヤもない木の車輪で荷車に椅子を付けただけの簡素なものであった。

 俺はその馬車を劇的に乗りやすいものに変えたのだ。

 魔の森の湖畔の館で、試験的に板バネのサスペンションと、魔の森に群生していたゴムの木を見つけたので木の車輪にゴムを張り付けたのだ。

 馬車の内部も板の椅子から革張りの椅子へと変えて居住性をあげたのだ。

 ただ道の悪さでほんの少し乗り心地が良くなっただけなのだが!


 馬も荷車を曳くぐらいで、馬に乗る装備、馬具も無かったことから、今までは裸馬に乗って鬣を握っていたのだ。

 当然安全に乗れる代物ではなく、街や村などを一周する乗馬競技は荒くれ者どもの肝試し、度胸の場として行われていた。

 プロバイダル王国の王城を一周する乗馬競技も毎年行われており、最近三連覇しているのが謎の騎士・・・キャサリンだった。

 彼女は優勝賞金を空にばら撒いて、群衆がそちらに気を取られている隙に姿を消していたのだ。

 それでこれも俺が魔の森の湖畔の館で開発した馬具を使って乗っているのを見てそれを使っているのだった。

 本当に騎士の姿が良く似合う。


 俺は第二師団の半分と捕虜にしていた一般兵達や王城に守備兵として招集されていた若い女の子達の一部も連れて行く。

 この捕虜にしていた一般兵達や王城に守備兵として招集されていた若い女の子達は、プロバイダル王国の王城から南カンザク地方に向かって行軍の進路上に出身者で、出身地を通るたびに食糧と共に開放していくのだ。


 プロバイダル王国の王城で解放しても良いが、少なくない額の日当を渡してあり夜盗や盗賊にあったり、人さらいに捕まって奴隷の身分に落とされるのを防ぐためだ。

 それに、個別に食糧を渡すよりもこの方が効率的なのだ。

 戻って来た捕虜にしていた一般兵達や王城に守備兵として徴兵されていた若い女の子達よりも、食糧をもらったほうが村の人々には嬉しそうだ。

 それで心が傷ついたのか、捕虜にしていた一般兵達や王城に守備兵として徴兵されていた若い女の子達の中には、このまま真正カンザク王国軍に雇って欲しいと言うものも多かった。

 補充兵というかたちで連れて行く事にした。

 そのおかげで、ほぼ第二師団の人員数に達することが出来た。


 俺の素早いプロバイダル王国の王城からの挟撃の為の出陣と、俺の善政の噂話を聞いてプロバイダル王国南カンザク地方侵攻軍の内部に動揺が走る。

 進軍の土煙と真正カンザク王国の旗をあげてプロバイダル王国を南カンザク地方に向かって進撃する。

 途中の町や村に徴兵されていた王太子軍の一般兵や女性達を戻して、領主や町長や村長にも臨時政府の通達通り税率を下げて4公6民の税制にするように命じた。


 俺の進軍より早く、俺が徴兵された一般兵や女性達に日当を支払い、元の出身地の農村に戻し、食糧まで分け与え、領主や町長や村長に税率を下げるようにしているとの善政の噂がプロバイダル王弟軍内に激震のように走った。

 プロバイダル王国の王太子軍に徴兵されていた兵や王城の守りで徴兵されていた女性兵が、こぞって真正カンザク王国軍の補充兵になっているという噂話も雪崩のように流れ込んでくる。


 プロバイダル王弟の率いる精鋭の軍の中にも、真正カンザク王国の善政に期待する兵士達が現れて内部から瓦解を始める。

 プロバイダル王弟軍の兵士達が一人、二人と真正カンザク王国側に逃げ出し亡命を求めてきた。

 その数が段々と増え始めついには雪崩を打って押し寄せるように逃げ込み始めた。

 極端に数が減ったプロバイダル王弟軍は後背から進撃してくる俺達第二師団の幻の軍靴の音に怯え、挟撃される恐怖心で逃げ場を求めて雲散霧消する。

 雲散霧消する兵士達を利用して王弟がヤマト帝国へ逃走しようとした。


 中央に陣取った王弟の直属の軍3千以外の軍隊は烏合の集で、軍隊の態をなしていなかった。

 真正カンザク王国軍に降伏をする兵士達に紛れて、王弟の軍が動き始める。

 王弟の軍はプロバイダル王国軍の旗指物やプロバイダル王国を表す徽章をかなぐり捨てて進軍を開始した。

 王弟の軍3千は真正カンザク王国の第三師団に亡命を求めて雪崩れ込んできたプロバイダル王国軍の逃散兵の対応で、防備が薄くなった右翼を目指して、そこを突破してヤマト帝国に逃げ込もうと速度をあげる。


 その王弟の軍に真正カンザク王国に亡命降伏しようとしていたプロバイダル王国軍が襲いかかり壊滅させてしまった。

 高い税金と無理な出兵で不満がたまっていたのだ。

 王弟の軍が動き始めたところで俺は第二師団を率いて挟撃を開始するが、プロバイダル王国軍が同士討ちを始めたので高みの見物と洒落込んだ。


 派手な服装をしたプロバイダル王弟の乗る無蓋の三頭立ての馬車が間隙をついてヤマト帝国に逃げ込もうと走り始めた。

 その無蓋の三頭立ての馬車に同乗しているのはプロバイダル王弟の護衛のために魔王から派遣された魔法使いだ。

 俺はそれを見て、最終的には首実検が必要なため、縄で縛った宰相を抱えてプロバイダル王弟を風魔法を使って上空から追いかけていく。


 充分近づいたところで木魔法の蔦でプロバイダル王弟の乗る無蓋の三頭立ての馬車の馬の足元を絡み取り行動不能にする。

 魔法使いが、衆寡敵せず!

 このままではいずれ王弟が捕まり、魔王国の秘密や今回の密約がばらされて魔王国やヤマト帝国に多額の戦争賠償金を求められると思ったことから、無蓋の馬車から投げ出されプロバイダル王弟の口封じのために火魔法で燃やそうとする。

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