第45話 プロバイダル王国の王城攻略

 俺の率いる第二師団は、最初の村での対応が良かったのとプロバイダル王国の村落から招集された一般兵の犠牲者が少なかったせいか、特に抵抗もなく5日ほどでプロバイダル王国の王城に迫っていた。

 あまりにも早い逆侵攻に南カンザク地方に向かった部隊が反転してもプロバイダル王国の王城に戻ってはこれない。

 また戻ろうとしても南カンザク地方に赴任したクロの率いる精鋭部隊の第三師団が反転後退を許さない構えだ。後方支援している遊軍としての第一師団の存在も大きいのだ。


 プロバイダル王国軍は急遽国力をあげて、魔の森の侵攻部隊や南カンザク地方侵攻部隊の二個師団を編成したため、王城内の王の身辺警護の近衛兵や王城の守備隊の兵士も出陣しており、ほとんどどころか全く兵士が残っていない状況であった。

 また魔の森の侵攻部隊にプロバイダル王国内で魔法を使える貴族は男女を問わず集めて送り出した。  

 プロバイダル王国王太子以下4千名もの魔法使いの部隊が魔の森で灰燼と化したのである。

 王城内の貴族どころか、地方領主もいない地域ができている状況であった。


 俺とユリアナとセーラの二人の風魔法と土魔法で、瞬く間に王城を守る最初の城壁の城門を破る。

 最初の城門内からを携えた、プロバイダル王国の特使が待っていたかのように進み出て俺に面会を申し出てきた。

 プロバイダル王国国王の首が俺達の前に置かれる。

 その時の特使の卑屈な笑みが不審を強める。


 魔の森を侵攻していたプロバイダル王国の王太子は戦場に散り、こちらには王の首実検をする人物がいない。

 王の首の前で降伏の条件を話会う。

 俺が逆侵攻でプロバイダル王国王城にまで攻め入り、プロバイダル王国の喉元に短刀を突き刺した形でプロバイダル王国のほぼ手中に収めているのに、特使は戦争前の元の状態に戻すなどという条件を提示する。

 条件が悪すぎる。


 ヤマト帝国が参戦するまでの時間稼ぎだ!

 後15日もしないうちにヤマト帝国が真正カンザク王国に侵攻を開始する。

 その時を待っているようにしか見えないのだ。

 俺はその条件が当然悪すぎるのでこれを蹴り、座席を立つと王城の再攻略を開始すると特使に告げる。

 特使はそれを聞いて『王の首』を置いて城に逃げ戻った。


 これで『王の首』は偽物だとわかった。

 それでも王と偽ってでも切った人の首を持ってくるとは、人の命を何だと思っているのだ。

 人の命を軽く見すぎる。


 俺達が進撃を再開すると、王城の銃眼(狭間)から弓矢が射かけられてくる。

 俺は風魔法で全ての弓矢を絡め捕る。

 ユリアナとセーラが第二の城門を風魔法と土魔法で崩す。

 崩れた城門の中から守備隊約二千名が槍の穂先を揃えて突撃を開始してきたのだ。

 その守備隊は何と守備兵の鎧を身につけたプロバイダル王国の女性部隊であった。


 最初のうちは二千名の者が構えた槍はそろっていたが、槍を手に突撃を開始すると訓練の練度が低く出遅れる者が出てくる。

 先を走る者の視界から出遅れた者が消える。

 自分だけが突出していると思った瞬間、仲間との信頼感が失せる。

 仲間だと言っても皆よその村からの寄せ集めだ。

 自分の回り二千名もの兵士がいたから気丈に振るまえていたのだ。

 何しろ今まで農家で農業を手伝っていた田舎の娘で、徴兵だと言って集められたが今まで槍などの武器を手にしたことも無い。

 それに今回がはじめての戦い命のやり取りなのだ。


 突撃を開始した時の

『命を投げ出しても国を守る。』

というその心が気持ちがそがれていく、足への力が入らない、突撃の勢いが無くなる。

 気持ちの揺らぎが恐れの気持ちとなり死への恐怖に取って代わる。

 俺は死への恐怖で動きが悪くなった女性部隊員の構える槍を風魔法で取り上げる。

 手元から唯一の武器である槍が無くなり呆然と立ち尽くす女性部隊員を土魔法で作った牢の中に入れ、木魔法の蔦で女性部隊員を拘束していく。


 牢に入れた守備兵の鎧を身につけた女性部隊員は皆年若い女の子で構成されていた。

 女性守備隊員の多くが変に痩せていて槍もやっと持っているような状態だったのだ。

 アカネと白愛虎が、その守備隊の兵士を尋問する。

 プロバイダル王国が国をあげて真正カンザク王国の侵攻軍を作り上げるために、急遽町や村に住む若い男性どころか若い女性を徴兵したのだ。

 若い男性は真正カンザク王国への直接の侵攻軍に配属されて、残った徴兵された若い女性のみで城の守備隊員にしたのだという。


 第二の城門を抜けて城の前庭の中に入る。

 王城と言われるだけに芝に覆われた広い前庭になっている。

 王城の城門が開くと中からまたも、わらわらと近衛兵達二百名程が向かってきた。

 この近衛兵達も近衛の鎧に身につけた女性部隊で、必死の形相で手に刀を持って向かって来るのだ。

 その女性部隊の先頭を走っている騎士の鎧を着た女性が

「プロバイダル王国、プロバイダル公爵家の長女キャサリンが真正カンザク王国国王に闘いを挑む。」

と名乗りをあげる。

 女性部隊が刀を手に持ちながら隊を並べる。


 時間稼ぎは分かっているが一騎討ちで事が済めば無駄な血を流さずに済む。

 名乗りをあげて出てきたのは黒髪の20代位の女性で公爵家というだけあって立派な鎧といかにも業物と思われる細身の両刃の剣を構える。

 俺も魔法の袋から定寸の日本刀、二尺三寸五分(約70センチ)を抜き出して構える。

 俺が構えると同時に、その女性は剣をフェンシングの要領で、黒髪をたなびかせながら鋭い突きを繰り出してきた。


 俺はその鋭い突きを捌いていく、その女性の突きから、長い年月の稽古の日々を伝えるかの如く、外連味けれんみの無い突きから、この世界でも有数の剣の名手の一人だとわかった。

 ただ時折、同じような軌跡の突きを繰り返してしまっている。

 また一本に賭ける本当の意味での意地が無い。

 同じ技を仕掛けた時に、俺は彼女の持つ業物を鍔元から切り飛ばして見せた。

 彼女は業物を切られて一瞬呆然としたが、その場で膝をつき折れた業物を後ろに置いて臣下の礼をとった。


 女性部隊も続くかと思われたが、太った部隊長役の女性が

「突撃じゃ!

 その役立たずともども殺してしまえ!」

と喚きながら向かってきた。

 俺は太った部隊長の首に刀を落とす。峰打ちで気を失わせる。

 業物を切ったのと、峰打ち等と言う刀に負担をかける打ち方をしたので、俺の刀も折れてしまった。


 俺は別の定寸の日本刀二本を取り出して、一本は騎士の鎧を着た黒髪の女性に

「殺すなよ。」

と笑って渡す。

 黒髪をたなびかせて、向かって来る女性近衛部隊員を切り裂いていく。

 ものの見事に得物を持つ利き手の親指を切って行くのだ。

 それも親指の皮一枚を残して切っていくのだ。


 向かって来る女性近衛部隊員は、利き手の親指を切られては得物を持てない。

 彼女が通り過ぎた後には、持っていた刀と切られた親指を抱えてうずくまる女性近衛部隊員がころがっていた。

 俺は、その流れるような動きを真似て女性近衛部隊員の親指を皮一枚残して切って見せる。

 それを見てモンも同じように女性近衛部隊員の親指を切って見せた。


 三つの暴風がプロバイダル王城の前庭を踊り狂う。

 その後には痛みにすすり泣きながら利き手の親指を切られて、その親指を抱えてうずくまる女性近衛部隊員がいるのだ。

 半数の女性近衛部隊員が親指を切られてうずくまると、残った半数が刀を後ろに置いて俺に臣下の礼をとったのだ。


 親指を切られてうずくまる女性近衛部隊員以外は、すべて武装解除のうえ木魔法で拘束して、土魔法を使った石牢にそのまま押し込める。

 親指を切られた女性近衛部隊員の親指を縫合して治療する。

 治療が終わった女性近衛部隊員も土魔法を使った石牢に入れていく。

 この女性近衛部隊員は先程の守備隊員より年嵩な者が多く栄養状態が良かった。


 アカネや白愛虎が尋問すると、この部隊は近衛の正規軍も戦いに出て行ったために城で働く女官のみで編成した近衛兵の部隊であった。

 守備隊の兵と近衛の兵の栄養状態の差は何だろう、過酷な重税を課して城内の者だけ良い食事をしているのだろうと察しがついた。


 俺が王城内部に進もうとすると、俺が渡した定寸の日本刀を捧げて、騎士の鎧を着た公爵の娘を名乗った黒髪の女性が膝をつく

「私めはプロバイダル王国、プロバイダル公爵家の長女キャサリンと名乗りましたが、剣の腕を見込まれた養い子で、プロバイダル王国の血をひくものではありません。

 今後はこの剣を持って貴方に従いたいと思います。」

と言って刀の柄を俺に向ける。


 俺は貸し与えた定寸の日本刀を血ぶるいして刀身をみる。

 少しの刃こぼれも起こさず、わずかに切先付近に人体を切った脂が付いているだけだ。

 見事な使い手だ。

 俺は、その切先の脂を獣の皮でそぎ落とす。

 その刀を鞘に入れてキャサリンに渡した。

 キャサリンはそれを手に持ちにっこりと微笑んだ。


 俺は新たに臣下になったキャサリンを従えて王城の内部に入っていく。

 キャサリンの案内で、王城の内部にある王の部屋に入る。

 王の部屋の真ん中に置いてある玉座の陰に誰かがいる。

 風魔法で玉座を吹き飛ばす。

 そこには、首だけになったはずののだ。


 プロバイダル国王は王位を表す豪華な衣装に身を包み、隠れようとした弾みで斜めになった宝玉で飾られた王冠を被って、玉座に隠れようとうずくまっていたのだった。

 驚いて俺達を見つめる男を見て、キャサリンもプロバイダル国王だと断言する。

 女官頭と以前交渉に来た特使が慌てて王の部屋に入ってくる。


 俺はプロバイダル国王の首に守り刀の雷神を突き付けて

『ピリ』『ピリ』

と放電させる。

 あきらめたような顔で女官頭と特使が膝をつく。

 女官頭に机と椅子を持ってこさせる。


 プロバイダル国王を押さえたのだ。

 この場においてプロバイダル王国の無条件降伏の調印をさせる。

 特使はこの国の宰相でキャサリンの養い親である公爵であった。

 宰相は最初のうちは王弟にそそのかされて魔王とヤマト帝国との間に闇取引を行っていたが。

 この戦いの作戦の立案、実行をさせた張本人らしいのだ。


 今まで連れてきた真正カンザク王国の魔の森に侵攻してきたときに捕虜とした兵や王城攻略時に捕虜とした女性守備兵や女性近衛部隊員を王城の地下牢に放り込む事にした。

 王城の地下牢が満室状態になった。

 いくら何でも、男女を満室な地下牢に入れるわけにはいかない。

 事情徴収もまだなのだから。

 プロバイダル王城の守備兵力は女官や近郊から急遽徴兵された若い女の子達であった。

 この者達は女官頭と共に王城の尖塔の中に幽閉する事にした。

 それでも地下牢も王城の尖塔内も立錐の地が無い状態であった。


 あまり今回の戦争の立案などにかかわっていない近郊から徴兵された王太子軍の一般兵や女の子達を優先的に取り調べた。

 一般兵や女の子達は取り調べ時に、プロバイダル王国の高い税金と食糧難を口々に訴えていた。

 事情聴取を終えた捕虜として連れてきた王太子軍の一般兵全てを開放する。

 また、近郊から徴兵された若い女の子達も身柄を開放してあげた。

 解放した際、プロバイダル王国の王城内にある財宝庫から、王太子軍の一般兵達や徴兵された女の子達の日当を支払ったのだ。

 命あっての物種なのに日当をもらって皆固まっていた。

 第二師団の兵士達が護衛して、それぞれの近郊の村々に一般兵達や女の子達を戻し、プロバイダル王国の王城内にある食糧庫を開放して、食糧を配布してあげたのだった。

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