第29話 オアシス城壁都市攻防記

 オアシス城壁都市まで来た。

 俺とモン、クリス以外はオアシス城壁都市の虜囚りょしゅうの身になってしまった。これまでの旅で近衛見習いの2人、女官見習いの1人が帰らぬ人になってしまった。

 オアシス城壁都市のオアシスに面するあたりは、オアシスの中に大量に繁殖した水スライムが天然の障壁となっており、その中を突破してくる者は居ない。

 それでオアシス側の防衛の要員は誰も配置されていないのだ。

 その水スライムを湖竜が捕食している、その湖竜を元青龍のモンが呼び集める。これから俺達の反撃だ!


 俺達は一頭のオアシスの主である大きな湖竜の背中に乗ってオアシスを進む。

 オアシス城壁都市に近づくと湖竜が首を伸ばす。さすがは首長竜、城壁の上にまで頭が出る。俺はクリスを背負うと湖竜の首を駆け上がり、城壁の上に立つ。

 クリスの横に、魔法の袋からオアシス城壁都市から射かけられた矢を大量に積み上げる。モンが湖竜の頭を撫でて、

「また後で。」

と言って湖に帰す。湖竜は小さく

「キュウイ」

と鳴いて湖の中に戻っていった。


 ステータス画面の付近地図でオアシス城壁都市の中に連れ込まれた王太子達の状況を確認する。

 ステータス画面に反応する魔石のペンダントを渡してあるので位置がわかるのだ。

 一人だけ城壁都市の5階にある貴賓室にいる、これが王太子のいる位置だ。

 他の皆は地下2階にある地下牢に入れられているようだ。一所に魔法のペンダントが集められている。何かあったのか?行けば解る。


 侵入したこの場所を拠点とする為に大量に風魔法で捕まえた弓矢をクリスに渡して、この場所に残す。

 地下牢への侵入経路をステータス画面で検討する。俺が先に立って、俺とモンとで地下室を目指す。

 城壁都市は地上5階、地下2階で地下牢はその最下層にある。

 ステータス画面で敵兵の動きがわかる、出来るだけ戦闘などで騒ぎを起こさないようにして降りていく、それでも敵兵がたむろしている場所を通らなければならない。


 地上1階で地下への階段がそこしかない場所に敵兵がたむろしている。

 その部屋の天井に張り付いて移動を開始した。

 地下への階段まで、あと少しというところで、何気なく天井を見上げた身なりの良い敵兵と目が合った。

 俺は雷神を手に取り、飛び降りると雷神の力を開放する。

『バリ』『バリ』『バリ』

と雷光が煌めき稲妻が走る。たむろしている敵兵達の頭から煙を出して、白目をむいて倒れる。

 モンと二人で倒れた敵兵を拘束し、武装解除する。

 俺と目が合った身なりの良い敵兵の腰には鍵束を下げていた。それを取り上げて地下への階段を降りる。


 地下牢への階段の前にも敵兵がたむろしている。

 その敵兵達が地上1階の雷光に気が付き階段をあがってきた。

 階段を上がって来た敵兵を蹴落として、地下牢前にたむろしていた敵兵達も雷神を使って敵兵達を昏倒させる。

 敵兵達を倒したところで、地下牢のある地下2階部分で

『ガッコン』

という何か仕掛けを動かしたような音が聞こえた。

 俺はその音に嫌な予感を感じたので、地下2階への階段を飛ぶように駆け降りる、最下層の地下2階から敵兵が後ろを気にしながら、慌てたように階段を駆け上がってくる。

 敵兵は前を見ていない、俺はそいつを殴り倒して階段を駆け降りる。

 水がゴウゴウと地下牢へ流れ込んでくる。


 最下層の地下2階の地下牢には流れ込んでくる濁流が、もう膝までの水の深さになっている。

 取り上げた鍵を使っている暇がない、魔法の袋から日本刀を抜き出して、牢の鉄格子を切っていく。

 近衛見習いの13人、女官見習いの17人を牢の中から引きずり出す。

 その中でも前回の冒険者予備校の試験で頑張っていた、汚水三人組やシズルの顔が人相が変わるほど殴られ、足や腕の骨が折られていた。

 近衛見習いの子や女官見習いの子達が手分けして彼らを地上の階につれていく。


 個室の牢の中にはウコンさんやサコンさん、ジロウさんが裸にされて、十字架に張り付けられており。

 サエコさんカナコさん、ヨウコさんと女官頭のハラさんも裸にされて椅子に縛り付けられていた。魔法のペンダントが集まっていたわけだ。

 牢の鉄格子を切り裂き、7人全員の拘束を切り飛ばしていく。

 7人全員を助け出した頃には水が腰の高さにまで達した。

 慌てて俺達は地下1階へとあがる。俺が殴り倒した男が濁流にのみ込まれようとしている。

 俺が助けようと手を伸ばすと、男は大きな水スライムに食われた。

 もう無理だ。水スライムが紛れ込んできている。俺達は慌てて地下1階に駆けあがる。

『ガッコン』

という音がまたして濁流の流入量が増える。

 地下1階部分もすぐ水没しそうだ。

 そのうえ城壁都市全体が地震のように揺れ動き始めた。


 地下1階の俺の雷神を受けて白目をむいて意識を失っている敵兵も引き摺って上にあがる。

 1階部分で俺が助け出したウコンさんを始めとする7人は敵兵の衣服を剥ぎ取って身づくろいする。

 近衛見習いの13人も、女官見習いの17人も敵兵の武器を装備している。

 ウコンさん達7人が4、5人のグループを作り、大怪我をしている汚水三人組やシズルをまず、クリスの待つオアシス側の屋上に向かわさせる。


 俺とモンの2人で王太子のいる5階部分にある貴賓室に向かった。城壁都市が時々揺れ動く、貴賓室の前には近衛の鎧を着た二人の若者が立っていた。

 貴賓室の前に立つ若者は城壁都市が揺れ動くので不安そうにしている。

 この地方には火山活動をしている山々はない。一層大きな揺れが城塞都市を襲う。若者達が姿勢を正そうとするがもんどりうって倒れる。

 倒れた二人の若者達を、俺とモンの二人で制圧する。


 ステータス画面で確認すると貴賓室内に王太子の他にもう二人いる。

 貴賓室の扉を開ける。

 王太子と服装の紋様から、この城壁都市の市長、そしてカンザク王国から派遣された近衛の隊長だ。隊長の持つ両刃の剣が王太子の首に添えられている。

 俺は近衛の隊長の背後に転移して、隊長の両刃の剣を持つ腕を制しながら、隊長の首を手刀で叩く。

 ぐったりと近衛の隊長が崩れる。俺は近衛の隊長の腕から両刃の剣をもぎ取る。

 その両刃の剣を城壁都市の市長にむける。


 市長の顔を見るなり、その目に意識が持って行かれそうになる。その目は黒い、あくまで黒く深淵の縁に立っているような気分になって来る。

 不味い、その黒い目に意識がまた持って行かれそうになる。

 俺の異変を感じたモンが敵兵から奪った両刃の剣の平で市長の頭を殴る。

 いや殴れなかった。実体のない影のように両刃の剣が通り過ぎる。

 俺にとっては剣が影を通り過ぎる揺らぎだけで十分だった。その揺らぎで自分を取り戻せた。奴の黒い両目に向けて水魔法で作った氷の槍をぶつける。

 初級ダンジョン攻略の際、条件で物理的攻撃が効かず、魔法攻撃のみが効果があるダンジョンが存在した。

 このダンジョンのように奴自身が何か条件付けで物理攻撃を無効にしていると思ったからだ、咄嗟とっさに氷の槍を両目にぶつけたのだ。この咄嗟の判断が功を奏した。

 市長は両目を押さえてもだえ苦しむ、断末魔の痙攣けいれんが市長を襲う。

 市長の動きが止まると、市長の身体が崩れ始める。

 黒い泡のようにブクブクと音をたてながら崩れていく、その後には黒く変色した水スライムが現れた。


 その黒く変色した水スライムは市長の衣服から這い出てきて、次の得物、横に倒れている近衛の隊長へと這い進んできた。

 俺は火魔法で黒く変色した水スライムを炎の牢獄に入れて、燃やし尽くそうとする。

 炎の牢獄の火の中で黒く変色した水スライムが体の周りを火で溶かしながら小さくなっていき最後には小さな小さな禍々しい気を放つ真黒な魔石が燃えないで残った。

 とうとう手に入れた!魔王がいかなる者も服従させるアイテムだ。

 しかしこれを直接手にする事が出来ない。

 この魔石から負の禍々まがまがしい黒い気のようなものが立ちのぼり、それが周りのものを腐らせ服従させていくようだ。

 これをそのまま魔法の袋に入れると周りのものまで呪われそうだ。


 呪い?呪い!そうだ呪われた小手で黒い魔石を包み込んでみよう、どうせ死蔵していた呪いの小手だ試す価値はある。

 魔法の袋から呪いの小手を出して黒い魔石を包み込む。

 お互いが何か闘っているように小刻みに動いている。

 魔法の袋の中に入れて何かあると不味いので、近衛の隊長の両刃の剣の先に引っ掛けて持って行く。

 俺が近衛の隊長をモンが王太子を抱えてクリスの待つ屋上に向かって走る。


 上の様子をステータス画面で見る。敵兵が屋上に集まり弓を構えて放っている。

 まだまだ敵兵が集まってくるようだ。

 俺は敵兵の後背に回って、後背を突く作戦に出る。

 モンに両刃の剣の先に呪いの小手で包んだ黒い魔石を渡しながら、その旨を伝える、モンは腕の王太子を見て

「仕方ない。」

というと両刃の剣を受け取りクリスの待つ屋上へのルートを走り出した。


 俺は近衛の隊長を抱えて敵兵の後背に出るルートで階段をのぼって屋上に出る。

 しまった、近衛の隊長を何処かに置いてくれば良かった。まあいいか、屋上に出ると偉そうな城壁都市の守備隊長が後方から指揮をしている所だ。

 俺は近衛の隊長を指揮をしている城壁都市の守備隊長に向かって投げつけた。

『ゴン』

という鈍い音と共に二人の頭がぶつかった。二人の兜がひしゃげてしまった!

 不味い、やり過ぎたか、二人とも死んでいなければいいが。

 俺は勢いそのままに後方から弓を構える敵兵を殴り倒し、蹴り倒していく。

 敵兵も城壁都市の守備隊長が倒され、守備隊長の指揮命令の代りに俺が暴風雨のように襲いかかって来たのだ。

 すぐ攻撃の意思を放棄し、武器を捨てて降伏してくる者があらわれる。


 クリスの待つ屋上に王太子を抱えたモンがあらわれて、ウコンさんに王太子、サコンさんに両刃の剣の先に呪いの小手で包んだ黒い魔石を渡しす。

 モンは両手を上空に伸ばすと、俺の打った刃渡り3尺9寸6分(約120センチ)の炎の魔法を付与した日本刀、二本を引きずり出して両手で構える。

 雨あられと降ってくる敵の弓矢の中を何事もないように悠然ゆうぜんと歩いて行く。

 ただ、モンの肩から先が見えないのだ!どれほどの弓矢が飛んできても全て両手の日本刀で切り飛ばしていくのだ。

 敵兵が恐れてさがる。だが後ろからは俺が嵐のように敵兵を殴り倒して進んでくる。前門の虎後門の狼だ!


 全部の守備隊の敵兵が武器を捨てて降伏するまでさほどの時間はかからなかった。

 モンが地震の原因の湖竜を呼び、体当たりを止めさせた。

 いつもは湖竜は水の中で過ごしており滅多に見ることが出来ない。その湖竜の姿を、まだ見たことのない俺達の同行者も敵兵も驚いて腰を抜かしていた。

 敵兵を集めて何処かに幽閉しておく場所を探す。

 地下牢は水の中なので、城壁都市の中央の大きな塔が牢屋代りになりそうだ、その大きな塔の中にはすでに何人かの人間が幽閉されている。

 中央の大きな塔に幽閉されたいた人々を解放して、代わりに捕まえた敵兵を全て幽閉する。

 解放した人々の中には城壁都市の市長夫婦がいた?俺が倒した市長は何者だろう?そのうえ近衛の隊長の服装をした男性までもがいる?


 まずは解放した人々の事情聴取だ、俺が捕まえた近衛の隊長と幽閉されていた近衛の隊長とを尋問する。

 俺が捕まえた近衛の隊長は守備隊長と頭をお互いにぶつけさせてしまったので、知能が二人とも赤子のようになってしまっていた。

 王太子の横に護衛隊長のウコンさんが立ち、俺とクリスとモンが脇に控える。

 サコンさん達が二人を連れてきた。すぐ幽閉されていた人が本当の近衛の隊長だと判明した。

 何せ幽閉されていたのが、ウコンさんやサコンさんの叔父にあたる人で、ウコンさんの副官で許婚の元近衛女性部隊隊長だったサエコさんの実父だ。

 偽物の近衛の隊長は副官だった男で旧南カンザク王国に縁があり、隠れて独立運動に手を貸していたのだという。

 この城壁都市の住民の大半が旧南カンザク王国の出身者が多く、兵士の中にも出身者がいたことからクーデターが成功したのだ。


 今度は助け出した近衛の隊長を交えてオアシス城壁都市市長の事情聴取を行った。

 市長を名乗った男は城壁都市の助役が近衛の副官のクーデターに乗じて市長を幽閉したものだった。

 助役の性格が変わったのは城壁都市に魔王と名乗る男が3年程前に来訪した時から、変わったらしいのだ。

 それまでは助役は小物で何処どこかオドオドしていたが、魔王が来てからは近衛の副官をリードして、クーデターに乗じて城壁都市の市長を幽閉して代わりに市長に成り代わっていた。


 そして王太子が婚約のためこの地を通って、元南カンザク王国の来訪するのを知った時から今回の事を計画していたのだ。

 ついでにその助役は、捕まえたウコンさん達男性は奴隷に、サエコさん達女性は性奴隷で売られるところだったらしい。

 いくら何でもこれは犯罪である。城壁都市の中を奴隷商を探す。

 俺達の前に連れられてこられた奴隷商はヤシキさんの義妹の

「ヤシキ アカネ」

さんを性奴隷として俺に5億ギリで売った男だ、奴隷商は俺の顔を見るなり

「金は返すから命だけはお助けを。」

と言って懐から契約書を出してきた。

 この奴隷商やはり心底から腐っている。奴の出したのは契約書の体をした証文で名前を書けば俺が奴の奴隷になるところだった。

 この奴隷商は危険だ中央塔に放り込んで置くようにお願いした。

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