第五話 どうか心中してください! そして女は落ちた

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「なあ、水島。ドアインザフェイスって知ってるか?」


 悲しいかな昼休み、いつものように食堂にて男二人っきりで、うどんをすすっている。この現状を打開すべく、いつものように俺は作戦を打ち立てた。

 俺の問いかけに、水島は箸を止めて答えた。


「さすがは天才永井様、もう次の作戦を考えたわけか。それで、今度はどんな下らない作戦なんだ?」


「お前ぇ、下らないは無いだろぉ?」


「だが、さすがに前回のは酷かったぜ。あれ以来、帆風委員長だけじゃなく、クラスメイト全員から変な目で見られるし、お前は不能になっちまった」


 それを言われて俺は胃がチクリとした。


 だが、それで止まれない理由が俺にはあるんだ。

 俺は高校生の間に絶対にエッチをして、親父みたいに夜ごと枕に顔を押し付けて叫ぶ未来を回避し、親父を超えなければならないのだ。

 それに健全な青少年は、女の子とエッチしたいという野望を持っているもんだ。


「お前こそ乗り気だったくせに、よく言うぜ。安心しろ、今度はきちんとした学術的根拠があるんだ」


 いつも俺の計算能力は常人離れしているが、特に今回は俺の知的さと教養とに、誰もが恐れおののくだろう。

 まさか、ドアインザフェイスを女の子を口説くのに使う奴は居まい。


「そうか、今度は自信があるわけか」


「ああそうよ。だが、自信は何時だってある。ただ相手や状況が、何故か不自然なほど変な方へ行ってしまうというだけのことよ。それにこうも考えられる。別に、目当ての子と付き合えなくても、事前に相性が悪いということが分かった、つまり付き合ってから苦労するのを防げたとな」


「まあ物は言いようだな。で、何を知ってるって聞いたんだっけ?」


 俺はため息をついた。最初からかよ。


「だから、ドアインザフェイスを知っているかって」


「ああ、あれね――」


 おお、さすがは俺のパートナー。それくらいは知っていてくれたか。


「知ったこっちゃねえぜ!」


 水島は腕を組んで格好をつけた。駄目だこいつ。


「自称硬派の、頭カチンカチンのお前にも分かりやすく説明するとだな、本命の要求の前にでぇっかい要求をしておくと、本命が通りやすいって心理学のお話よ」


「へえ、面白いな。どういう理屈だ?」


「一つ目を断った罪悪感で、二つ目は応えなきゃって思ってしまうわけ。それより、そのドアインザフェイスを、どうやって作戦に組み込むかを説明させなさいよ」


「ならどうぞ」


 水島は肩をすくめた。俺は説明を開始する。


「ズバリ、第一声で『俺と心中して欲しい』と言う」


「おい待て」


「これは当然、断られる。お次が本命『俺とエッチを前提に付き合ってほしい』これだ」


 エッチより大きな要求といえば心中、これ以外にはないだろう。

 愛に関して、心中を超える要求はないと断言できる。

 例えば結婚なんかより断然ハードルが高い。


 しかし、水島は何故か不満ありげだ。


「罪悪感でエッチしてくれる女なんて、居るわけないだろ」


「居るよ? 『私のせいで大きくなったんだね』って、よくあるだろ?」


「エロ漫画の読み過ぎだ!」


 うるせえ!

 そんな女の子が、この世のどこかに居るって考えた方が、夢があるだろうが!


「それにだな、なるほど、エッチより大きな要求は心中がふさわしいかもしれん。だが、それは重すぎて相手にしてもらえないんじゃないか? ここは第一をエッチ、第二をお付き合いにしてだな――」


「そぉんな悠長なことが言っていられますか!? お前の敗北主義的思想には、ほとほと呆れるぜ。俺は今すぐエッチがしたいの!」


 これに水島はピクリと眉を動かした。


「ほうほう、そうまで言うならやってみろ。今回は俺の手助けが無くても、一人で出来るだろう?」


 水島は語気を強めていった。

 なにも、この程度で機嫌を損ねることはないでしょう。


「分かったよ。一人でやる。上手く行ったら、お前も使っていいぜ」


「じゃあ、俺は向こうからお前の手際を、見学させてもらおうか」




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