第二話 男なら

1 閑話

「ほれ、調整してやったぞ」

「……あんがとよ」


 俺はしぶしぶ親父に礼を言った。

 今、俺は研究所の調整ルームに居る。

 文字通り、この部屋では俺のあらゆる能力の調整が可能だ。

 調整には色々な方法が用いられる。薬物投与だったり、手術だったりだ。


 今回は感情面を強化しにわざわざ休日を使って、電車で二時間もかけてやってきた。

 というのも先週、ついつい喋られるリムジンに絆されてしまって、ヘマをやらかしてしまったからだ。

 先週の俺が獲得したのは、城ケ崎のおっぱいの感触の情報と、罪状だけだ。

 二度と本懐を見失わないよう、俺は今日、情を捨てた。


「まあ、完全には捨てとらんぞ。お前が将来仕事を請け負うときに、邪魔になりそうな感情だけを弱めてやった」


「ああ、それで十分だ」


 仕事。それもまた俺には避けがたい重要な事柄だった。

 将来的には俺はどこかの軍事組織にでも買われるのだろう。

 今は、それが高校卒業後であることを願うのみだ。

 でないと、放課後夕方の教室で彼女と、イチャイチャラブラブ制服エッチが出来なくなる。


「あと、ついでだからお前の右腕のアレ、強化しておいたわ」

「そうか」


 右腕のアレ、それは強化人間である俺に秘められた、伝家の宝刀的なアレ。

 全ての武装が尽きたときでも戦えるように、用意された秘密兵器。

 見た目は普通と変わらないが、なんと俺の右腕にはナノマシンが少量、組み込まれている。そして、普通より強いパンチが撃てる。


 具体的に言うと、広辞苑(完全に固定されているものとして計算)を、拳が貫通する程の拳エネルギーを発生させることが出来る。

 あと、神経伝達速度が通常の三倍なので、右腕右手をメッチャ早く動かせる。

 具体的に言うと、じゃんけんは必勝。見てから余裕。

 ちなみにこのナノマシンは、予算不足で右腕にしか使われていない。


 だが、こんなものが実戦で役に立つのか甚だ疑問だった。

 高価な強化人間に肉弾戦をやらせるな。

 視力と集中力も強化してるんだから、スナイパーやらせろ。

 右腕はあくまで奥の手だと分かってるが、そんなことしてないで、他の所強化するのに金を使え。

 まあ、俺は何でもこなせるがな。

 と、俺は射撃であることを思い付いた。


「なあ、俺の股間のマグナムも強化してくれよ」


 俺の股間のマグナム。

 それはもはや説明不要のアレ。

 男の象徴。


 女は大きい方が好きだと、研究所のテキストにも書かれていた。

 これでゴールに近づけるぜ。先っぽ一つで、ダウンさ。


「ああ、それは無理じゃ。むしろお前のデリンジャーは、人並以下になるよう強化しておる。そんなところに血液回すなんて、非効率じゃからの」


「な、なにしてくれてんだこのじじぃぃぃぃッ!!!」


 お、俺は世界最高の強化人間じゃなかったのか……?

 俺のあそこが、そんな手のひらサイズだなんて……。

 俺はアイデンティティ崩壊の危機に陥った。


「まあいいじゃないか。別に女性はデカいのそんなに好きじゃ、ないらしいぞ?」


 しかし、さすがは強化人間の頭脳。

 そんな窮地に陥ってもなお、諦めることを知らない。

 なんとか親父と交渉して、俺のマグナムを対戦車ライフルに強化してもらえないか、試してみる。


「なあ、俺は最高の強化人間になる素質をもった肉体だったから、今でもこうして強化人間として生きている。そんな俺の遺伝子をもった子供が出来たら、そいつも強化人間の素質を持ってるんじゃないか? 作りたくはないのか? 最高の、いや俺以上の強化人間を!」


 ま、いくら俺の子供でも俺以上は無理だろうがな。

 が、ここは親父を説得するために何でも言っておけ。

 研究者として、これはそそられる文句だろ?


「いや、お前、チンコのために自分の子供を強化人間にって、倫理的にどうなの? 親失格じゃない?」


「孤児を無理やり強化してるてめえが言うな!」


「え、だって、血は繋がってないし……」


「ていうかアレだもんな。親父、童貞だから子供はおろか、奥さんも居ないもんな」


 そりゃ血の繋がりとか関係ないわ。


 「ハハハハハッ」と俺は盛大に笑い飛ばした。

 すると親父は、かなり怒った様子で俺を睨みつけた。

 目を細めすぎて、瞼でクルミを割れそうなくらいに力強く目を細めている。


「悪かった悪かった。そんなに気にするなよ」


「いつか勝手にお前のアレが完全に立たんように強化しておくわ」


「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」


 ガチで怖いからそういうこと言うの止めろ!

 二度と眠れなくなるわ……!




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