Ally-23:濃厚なる★ARAI(あるいは、妖かしぃの/キリングインザハート)
護身術……唐突なることをいきなり呈示されるのは出会った最初の頃から分かり過ぎるほど分かっていた僕だけれど、それでも、うぅぅん、という声にならない声がこの薄暗い高架下のコンクリートの橋桁に諸行無常に吸い込まれていくかのようであり……と、
「た、例えば、ナイフを持った暴漢ばが、いきなり襲い掛かってきたとする」
そんな物騒なことを言いつつ、腰に付けていたホルスターらしき物からナイフのような物をさも当然かのようにすらりと抜き出す御大。本物じゃないよね? と一応聞いてみたら、大丈夫たい、とのひとことだけが返ってきたけれど、何がどう大丈夫かまでは分からなかった。
「こ、こう突き出されてきたら、ど、どげんかせんとぉば?
右手に
「お、押忍、相手の刃先が届く前に、この自慢の右拳を顔面に叩き込むでありますッ」
筋肉が喋ったのかと思いまごうほどの
「やってみろ」
何か今日はクールな教官口調で凛々しい御大がそう命ずる。い、いいんですかい? と躊躇する猿人氏であったものの、本気だばで来んかっどメダルは
猿人氏はその見た目のガタイに違わず、何らかの格闘周りの経験はありそうだ。それともこのくらいは普通なのか分からないけど、とにかく結構な速度でのその体重の乗っていそうなパンチが、普段あまり運動とかしていなさそうな御大の傲岸な顔面へとダイレクトで放り込まれたかに見えた。
「!!」
しかして、紙一重でその拳の脇をすり抜けていたアライくんは、大して力も入っていなさそうな所作でその懐に入ると、右手に持ったナイフの先を、肋骨に阻まれないように刃先を水平に寝かせるという冷徹な余裕を見せながら猿人の分厚い左胸板辺りに突き刺していったのである……!!
ついに殺っちまったのか感で背筋がぞわとなった僕だったけど、流石の御大も無益な殺生をやるほどのタマでは決して無かったわけで。
こんばとぅらたい、と抜き出したナイフからはドス黒い血が滴るということもなく、さらにその白銀に光る切っ先の頂点を指で押して見せると、ぬぬぬと柄の方へと引っ込んでいった。ああーそういう「ビックリ
「……『条件反射』っちょばあるあいんよなぁ……目の前にいきなし手ぇとかば突き出されたらち思わず目ぇち瞑っちばうことやら、肩叩かれたばらそっちの方へ顔ば向けちょばることがうら……大脳を通さず、脊髄反射で応対する。そうやらぁ、急な攻撃にも『体で』、体の最速で対応できるっちゅう
ナイフを納め、腕組みしつついいタメを作ったアライくんだけど、しかして今の体捌きは素直に格好良かったと思えるわけで。猿人氏も髪人氏もあまりのことにいつものねちっこい
「……『実戦』を主に構えた『生き残るための戦闘術』、そいがイスラエル軍発祥の『クラヴマガ』。
……何と言うか、亡くなったお母さんに関することを、僕は今はじめて聞いたような気がする。ふんぞり返りながらも、どこか遠い目をした御大……「父親の1985年」と同じく、これもまた……思い出のひとつなのかも知れない。アライくんの奇抜奇怪な行動のひとつひとつは、全部が全部、そういうことのために実は為されているのかも……
「そしてそいつを!! 数々の修行ぎゃによって自分の中で煮詰め昇華し、
ああーいやそれは言い過ぎか!! 慕情に浸るにはギラつきに過ぎる
そもそもいくら
じ、ジロちゃんにはアタイが直々に教えてやるちょこざい感謝すんドめとよッ、との誰に頼まれたわけでもないのに超速で繰り出された濃厚なる
その次はオムライスね……ムライスね……イスね……との、おおお美味しかったよありがとうう、とだけ何とか言えた僕に返してくれたその天上のエルパソのような(また地名か!)言葉だけを記憶野に反芻させつつ、喜色満面の御大のレクチャーを甘んじて真顔で受けるほかは無い自分を感じている。
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