492話 特別編 新年の抱負

 報告を待っている日々。

 俺は、元気に引きこもっている。

 別に苦痛では無いけどね。

 オフェリーは、臨時の治癒術教室を開いているので不在だ。

 教えるのが好きらしいので、本人の希望をかなえることにした。


 俺からの話を聞いたベルナルドは少し難しい顔をする。

 で可能な限り護衛しやすいように、俺たちは屋敷から出ない……との話に首を縦に振ってくれた。

 なのでオフェリーには騎士団の護衛がついているわけだ。


 少々暇そうにしていたキアラは気づけば、俺の隣に座っていた。


「お兄さま、ラヴェンナに戻れるのは来年でしょうか?」


「王都に出向く可能性までありますから。

早くても来年でしょうね」


 キアラは少し寂しそうな顔で、外に目を向けた。


「仕方ありませんわ。

でも去年のお祭りは楽しかったですわね」


 結束を高めるために、折を見て祭りなどをするようになった。

 そのせいだろうか……ラヴェンナ住民は、理由をつけて祭りを開催したがる。

 さすがに、クリスマスやお盆祭りは無かったが。

 使徒のお膝元ではやったらしい。

 よそはともかく、ここではそれが開催理由にはならないのだ。


 理由を探す連中にとって、新年とは格好の口実に他ならない。

 今年の新年祭ははじけていたような気がしたなぁ。


                 ◆◇◆◇◆


 俺が、意識不明から目覚めた最初の新年だ。

 転生前は新年を祝う感覚は無いに等しい。

 単に、休みが多くてラッキーと思っていた。


 それに祭りは、市の管轄で領主である俺は関与しない。

 だから好きにやってくれとのスタンスだったのだが……。

 領主の立場で、そうもいかない。


 ミルたちに連行されてしまった。

 抵抗は早々に諦める。

 1対1でも勝ち目が無い。

 今や5対1だ。

 勝てない戦はしないのだよ。


 外は肌寒い。

 それでも町は楽しそうに盛り上がっている。

 俺はそれだけて満足なのだけど。


 そして催しがあると言って連れられた先は広場だ。

 なぜか演台が設置されている。

 来年の抱負を、一人一人が叫ぶようだ。

 俺はミルたちとそれを眺めることにした。


 内容は平凡だが……ほほ笑ましい。

 だが……それだけで済まないのがラヴェンナだ。

 だんだん内容がカオスになる。


「今年こそ虎人が、最優秀肉体美賞を取る!」


 そう叫んで、寒空の中上半身裸になってポージングをするもの。


「花火をより派手にする!」


 そう叫ぶと同時に、花火を空に向かって連射したもの。


「隊員を倍に増やします!」


 と叫んだムキムキの兎人族までいる。

 あれは誰だったかな……。

 うん知らない人だな。


 そして恐れていた事態がやってきた。

 俺が、演台に引きずり出される。

 勘弁してくれ。

 だが……ここで降りては、水を差してしまう。

 だが面白いことなんて言えないぞ。


「え-っと……来年も、同じように楽しめるようにするのが目標です……」


 これが限界だよ!! 迂闊なこと言えないんだから!!


 反応はなぜか笑いとブーイング。

 そんな状況で、演台にシルヴァーナが上がってきた。

 周囲は、やたらと盛り上がる。

 地味にシルヴァーナは、人気あるんだよな。


 シルヴァーナは満面の笑みで、周囲に手を振っている。

 これ幸いと俺は演台を降りて、皆とシルヴァーナの抱負を待つ。

 つーても分かりの切った内容だけどさ。


 シルヴァーナは偉そうに胸を張ってから、大きく息を吸った。


「今年こそ胸を大きくしてぇ! イケメンの彼氏をゲットするわよぉぉぉぉぉ!!」


 お約束なのだろう。

 周囲は盛り上がって、拍手が巻き起こる。

 演台の下からも、声援が巻き起こる。


「姉御、頑張ってください!」


「期待しています!」


 シルヴァーナは上機嫌で、手を振っている。

 声援が一段落して、一瞬の静けさが訪れた。


 直後狙っていたかのように、あちこちから声が上がる。


「来年も同じ抱負期待していますよ!!」


 思わず吹き出してしまった。

 周囲も大爆笑。

 ミルたちも大笑いしている。


 シルヴァーナは、顔を真っ赤にしてひきつった笑い顔になる。


「い、言ったわね! 来年になったらギャフンと言わせてやるわよ!!」


 いや、同じ抱負になるだろ。

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