405話 見えない努力
10分後、シルヴァーナが戻ってきた。
なぜかオフェリーに指を突きつける。
「オフェリーのせいで、すっかり忘れていたわ。
確認したいことがあったのよ」
オフェリーの眉がピクっと動く。
「アルフレードさま、お話の前に、一つ問題を片付けてもよろしいですか?」
「ええ、構いませんけど…穏便にね」
オフェリーがシルヴァーナに、わざとらしく胸を張る。
まあ揺れますわな。
シルヴァーナが、目に見えてたじろぐ
「クッ…嫌みね! アルをたらしこんだ巨乳を強調して…」
いや、胸は関係ない…。
オフェリーはシルヴァーナの、弱々しい反論を鼻で笑った。
「アルフレードさまは胸で、人の判断をするような人ではありません。
それより一つ言いたいことがあります」
「な…なによう…」
「良いですか、胸とは脂肪です。
大きいと言うことは、それだけ体全体にもつきやすいのです。
スレンダーで巨乳のような人は、たまにいます。
ですが多くの人は大きい分だけ、体形維持に気を使っているのです」
「良いじゃない、それでも努力すれば体形維持できるんだし。
アタシは努力しても増えないのよ! 0に何を掛けても0なのよ!
………………アタシをハメたわね! 自虐ネタを言うように!
オフェリー、アンタ…アルのように悪辣になってきたわよ」
いや、アンタが勝手に自爆しただけだろ。
オフェリーは俺に似ていると言われて、ちょっとうれしそうだ。
「それは勿論、愛し合う人たちは仕草も似ると言います。
それはおいておきましょう。
シルヴァーナさんは体形維持の努力をされていますか?
今は使用人が片付けてくれていますが…前尋ねたときのお部屋は散らかり放題でしたよね。
それはもう略奪された部屋のように。
そんな人は、体形の維持だって無頓着でしょう。
つまりお酒だけのんで、無節操に食べても太らない。
そんな邪悪な体質は呪われれば良いのです!」
シルヴァーナが私生活を暴露されて、さらにうろたえる。
「ちょ…なんで人のプライベート暴露するのよ!
もう呪われてるんだから、太らないくらい良いでしょ!」
オフェリーは珍しくムキになっている。
裏では体形維持に、かなり気を使っているのか…。
実は、シルヴァーナの細身がうらやましかったようだ。
オフェリーはシルヴァーナに、ビシっと指を突きつける。
「胸がない人と胸があるけど太っている人…どちらが良いですか?」
俺…この場にいないほうが良い気がしてきた。
シルヴァーナは、いきなり究極の選択を突きつけられて、口をあんぐり開けている。
「ふ、太るって…程度にもよるでしょ。
そりゃ太りすぎるくらいなら、痩せてたほうが良いけどさ…」
オフェリーは首を、横に振る。
「なら胸の大きさを、気にする必要はありません。
もしシルヴァーナさんがモテるために大きいのが良い…と思っているなら無意味です。
胸だけで人を判断するなら、そんな男はその程度です。
シルヴァーナさんが歳をとったら、さっさと若い子に浮気をするか、デリカシーがなくて妻に無関心な主人になるのが、目に見えています。
そんな男のために悩むのはばからしいと思いませんか」
シルヴァーナがあとずさるが、俺を見て何か気がついた顔になる。
あ…これ絶対良くないこと思いついた顔だ。
「アル! アンタね! オフェリーに入れ知恵したのは! なんとかしてよ!」
ほらきた…。
「私は容姿のことで、人に何かを言ったことも、入れ知恵をしたこともありませんよ…」
オフェリーは再び、シルヴァーナに指を突きつける。
「アルフレードさまは胸の話を自分から言われたことはありません。
重くて肩がこるから、私から肩もみをおねだりするくらいです。
それより…我慢している私の前で、甘いものを無節操に食べている。
それが何よりも許しがたいのです! あれは嫌がらせですか!」
あ、あまり食べないのは、そのせいか…。
しかし、このまま放置しても泥仕合だ。
仕事に戻ろう。
俺は、パンパンと両手をたたいた。
「そのくらいにしておきましょう。
隣の芝は、青く見えるものです。
それでシルヴァーナさんは、私に確認したいことがあるのですよね」
シルヴァーナは泥仕合を覚悟していたのだろう。
話題がそれて露骨にほっとした顔になる。
「そ…そうね。
話ってのは自治区の問題でね。
そこで殺人事件が起こったのよ。
犯人はすぐ捕まったけど、処分に迷ってこっちに相談を持ちかけてきたの」
「市民が無関係なら、極刑未満はギルドの判断に委ねています。
極刑の場合は、法務大臣の許可を得ること。
私に判断を求める話ではないと思います」
「まあ、聞いてよ。
そこでね、今までのギルドの掟って使徒が決めたの。
前提として使徒は、正しいことしかしないって認識があったわけよ。
正しい人が決めた掟だから正しいってね。
ところが…その前提が保証されなくなって…色々問題がでたわけよ。
その決まりは本当に正しいのかとね」
これは、もうちょっと他の条件が隠れているな。
「それで、ただの殺人でないわけですね」
「そうそう。
話が早くて助かるわ。
それでギルドは、昔の慣習法だっけ…そんな決まりも参考にすると決めたのよ」
「まあ、妥当なところですね」
「そこで今回の殺人だけどさ…。
殺されたのが両親の敵だったらしいの。
つまり両親を殺された復讐ね。
今までだったら、ギルドの決まりで殺しは有罪よ。
あとは罪の重さだけの判断。
ところが、慣習法では…両親の敵討ちは無罪らしいのよ。
セザールが本部に問い合わせても、その答えが返ってきたの」
「そもそも両親を殺した人は、なんで自治区にいたのですか?」
シルヴァーナがあきれたように、肩をすくめた。
「当時の資料が、なぜかギルド内で紛失していたらしいから…あくまで噂だけどさ。
その犯人が良いところのバカボンだったらしくてね。
貴族の礼儀がなってないから、仕方なく冒険者をしてたみたい。
真相は闇の中だけど、その殺人は事故と処理されて罰金だけで済んだわ。
しかもその貴族が、使徒の子孫の縁者だったらしいのよ。
それで処分が大甘になったんじゃないのって話よ」
ミルに絡んでいた、あのバカボンとは別人だろうな。
あれはモロ子孫だからな。
「それで復讐者は、今までは復讐すると罪になったけど、今なら無罪になるかもしれないと…」
「まあ、そんなところかな。
それでアルに裁いてほしいって、わけじゃなくてね。
ギルドはアルに裁いてほしかったらしいけど、アタシは、ギルドの判決を先に出しなさい。
自治区ではそういう決まりなんだからね。
それを理屈大好きのエイブラハムに、報告しろって言ったのよ
それで良かったよね…って確認」
俺は、シルヴァーナに笑顔を向けた。
「満点ですよ」
シルヴァーナは俺の称賛にない胸を張る。
「アタシでもちゃんと、事務仕事はできるのよ!」
ミルが驚いた顔になった。
「ちょっと驚いたわ…。
ヴァーナがそんな判断できたなんて…」
「ミルもアルの口の悪さ伝染したよね…。
まあ、アタシも初めての仕事で不安だったからさ。
アルに頼んで、特別に仕事のやりかたを教えてもらったからね。
それでやれてるわよ」
ミルの目が細くなる。
いつの間にか、表情は消えていた。
「へぇ…私そんな《特別》なこと教えてもらってないんだけど?」
キアラも無表情のままだ。
「奇遇ですわね。
私もですわ」
オフェリーまで俺を、ジト目で見ている。
「私もですけど…」
いつの間にか俺は、3人に囲まれていた。
この紛らわしい発言をしたシルヴァーナに、文句を言ってやる。
そう思ったのだが…。
いつの間にか姿をくらませていた。
ヤツめ逃げたな…。
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