381話 俺の体の所有者

 覚悟はできたけど……。

 どうしたものか。

 3人まとめて話すのも、変な気がする。

 だからといって次々と回るのも変だ……。

 どないせいっちゅうねん。


 俺が執務中もうなっているのを見て、ミルとキアラは笑うだけだった。

 オフェリーは首をかしげていたが、2人の意味ありげな顔を見て、何かを理解したようだ。

 無表情のまま、オフェリーは俺の横に歩いてきた。


「アルフレードさま」


「何ですか?」


 いきなり、顔をつかまれて口にキスされた。

 ミルとキアラの笑顔が固まる。

 10秒くらいつかまれていた。


 やっと、顔を離してくれた。


「い、いきなり何ですか……」


 オフェリーは首をかしげていた。


「私をもらってくれるのですよね。

なので実感が欲しくなりました」


 何と言えば良いのだ……。

 補佐官たちはチラチラと、こっちを見ている。


 ミルがわざとらしくせきばらいした。


「オフェリーさん、執務中は止めて頂戴……」


 オフェリーは、少し考えていたがうなずいた。


「あ、すみません。

うれしくなってつい……」


 表情を変えないまま言われても……。

 まずいな、なし崩し的だ。

 

 キアラは、硬い笑顔のままだった。


「私も良いですか?」


 俺は、強く首を振った。


「ダメです!」


 キアラが口をとがらせる。


「いけず……認めるんじゃなかったかな……」



 話が変な方向に流れていきかねない。


「はあ……仕方ありません。

アーデルヘイトさんとクリームヒルトさんを、応接室に呼んでください。

オフェリーさんはついてきてください」


 オフェリーは、ぎこちないながらうれしそうにうなずいた。


「はい」


 2人が来るまでは、応接室でオフェリーと2人きりだ。

 オフェリーは向かいに座ったまま、俺を凝視している。

 居心地が悪い。

 本当に良かったのか……?

 腕組みをして考え込む。


 将来が思いやられる。

 俺が首をひねって考え込んでいると、オフェリーが口を開いた。


「アルフレードさま」


「はい?」


「有り難うございます」


 そう言って、頭を下げた。

 最近ようやく普通になってきたのに、また不思議ちゃんに逆戻りした気がする。


「いえ、礼を言われる筋合いのものではありません。

私が決めたことですから」


「それでも……とてもうれしいですし、安心しました」


 ほんとどうして、俺にこんな奇麗どころが集まるのか。

 兄貴2人、まだ独身だぞ!

 あっちも、そろそろ申し込みが殺到しそうだが。


「失望されないように努力します。

そういえば、マリー=アンジュさんから手紙は来ているのですか?」


「アルフレードさまが回復するまでは、返事を出さないと伝えてあります」


 なるほど、それどころではなかったのか。


「一体マリー=アンジュさんは、何と言ってきているのですか?」


「この前の事件の謝罪ですね」


「彼女のせいではないでしょう。

彼女の影響力は強いけど、制御しきっていたらあの事件は起こさないでしょう」


 オフェリーは、少し目をつむった。


「はい。

ですが、やはり後ろめたいのかもしれません。

マリーは決して悪い女ではありません。

ただ、そう育てられただけですから」


 そこは、姉妹の間柄があるのだろう。


「私も別に、彼女を恨んではいません。

むしろ、これからが……ずっと大変ですから」


 オフェリーが、下を向いた。


「そうですね……」


 彼女たちには、すぐに死なれては困る。

 悪霊に力をつけてしまう。

 問題はどうやって生かすかだが……。

 生きる希望を切って、絶望させるのは得策ではないな。


「彼女への返事は、私に断らなくても良いですよ」


 オフェリーが、目を細めた。


「どうしてですか? いくらアルフレードさまの女になったとしても、相手はある意味……敵方です。

目を通してもらわないと困ります」


 そのあたりは、妙に気が利くんだな。


「ただの世間話なら良いでしょう。

こちらの情報を渡す段階だと、オフェリーさんから聞いてくるでしょう」


「オフェリーです」


 いきなりまた話が飛んだな。

 もしかして……呼び名の話か?


「えっと? そう呼んでほしいのですか?」


「はい」


「ではオフェリー。

マリー=アンジュさんへの手紙の内容はお任せします」


「有り難うございます。

ですが、目は通してください」


 こだわりがあるのか。

 まあ、大した手間じゃないし良いか。


「分かりました、それもオフェリーの判断に任せます」


 何かの視線を感じて振り向くと、扉が少し開いている。

 隙間からアーデルヘイトとクリームヒルトがのぞいていた。


「お2人とも、何をのぞき見しているのですか……」


 アーデルヘイトは舌を出しながら入ってきた。


「お邪魔して良いのか……。

悩んでしまいました」


 クリームヒルトは照れ笑いだ。


「ええ……。

何か良いムードだったので……」


 あれのどこが良いムードだ。

 手紙の内容を話していただけだぞ。


「ではアーデルヘイトさん、クリームヒルトさん」


 2人は、ビシっと指を突きつけてきた。


「アーデルヘイト」


「クリームヒルト」


 2人の様子を見て、オフェリーもまねをして指を突きつけてきた。


「オフェリー」


 いや、あんたは、もうそう呼んでいるだろう。


「分かりました。

では、アーデルヘイト、クリームヒルト、オフェリー。

本当は個別に話したほうが良いかと思いましたが……。

ちょっとしたトラブルで、一度に話します」


 アーデルヘイトは、目を輝かせている。

 クリームヒルトは上目遣いに、俺を見ている。

 オフェリーはいつもの無表情。

 俺はせきばらいした。


「3名を私の側室としてお迎えします。

正式な発表は、早めにします」


 アーデルヘイトは、突然涙ぐんで握りこぶしを握った。


「苦節3年……ようやくアルフレードさま陥落です。

女としての自信が揺らいでいましたが……。

やっとです! 有り難う、筋肉の神さま!」


 どんな神さまだよ……。

 いや待て、そんな信仰したら神が生まれかねないぞ!

 クリームヒルトは苦笑していた。


「私は1年程度しかたっていませんが……。

とにかくうれしいです。

本当にアルフレードさまの魔力はとんでもないですよ……」


 オフェリーは2人を、優しい笑顔で見ていた。


「2人とも良かったですね。

私もやっと安心して寝られます……。

あ、そうなったら、アル君は作らなくて良いですよね」


 おい、量産する気だったのか……。


「頼むから止めてください」


 オフェリーがうなずいた。


「分かりました。

生身が一番ですからね」


「夜にどうやって、皆さんの部屋を回るかは考えます……」


 アーデルヘイトが挙手した。


「旦那様!」


 呼び名を変えたのか。


「何でしょう」


 アーデルヘイトは俺が拒否しなかったのでニコニコ顔だ。


「そこは女性特有の生理現象もあります。

ミルヴァさまと相談して決めても良いでしょうか」


 そこまで任せて良いのか?

 俺が、ただの種馬のような気がした。


 俺の渋い顔を見て、クリームヒルトが笑いだした。


「アルフレードさまは他のことに、頭を使ってください。

これから大変なのですよね」


「ま、まあ確かに……」


 オフェリーもクリームヒルトを見てうなづいた。


「ハーレムの管理方法を、私は学んでいます。

ミルヴァさまを助けられます。

抱く女性を、使徒のように好き勝手に選ぶのもありですが……。

女性からは……来るか来ないか待っているのも悲しいのです」


 ああ、そんな見方もあるのか……。


「分かりました、ミルと相談してください……」


 確かに、3人は喜んでいる。

 

 だが俺自身は、どこかにわだかまりがある。

 これは、わがままなのだろうか。

 それともこの世界になじみきっていないのだろうか。

 考えても仕方ない……とは思えない。

 

 3人の前に、ため息をつくわけにもいかないが……。

 3年前の俺が、今の俺を見たら何と言うのだろうな。

 死なないと分かっていたら、もっと手は打てた。

 だがそんな可能性を考えていたら、あそこまで心血は注げない。

 

 死にかけて戻ってきたら、俺の体は俺自身のものでなくなっていた。

 そんな感じすらする。


 俺が考え込んでいると、頰をつつかれた。

 オフェリーだった。


「アルフレードさまが使徒に襲われる前には、皆はアルフレードさまに借りだけがありました。

だから、アルフレードさまはアルフレードさまのものでした。

でも、生還してからは、相互関係になったと思います。

だから、皆のために生きていく必要がある……そう思います」


 なんとなく言いたいことは分かる。

 これから、俺の中でこの感情を整理していくしかないのか。

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