194話 戦勝報告は大げさになる
戦闘開始の報告は受けた。
俺に今できることはない。
戦争が終わったあとに出番がくる。
都度の連絡は不要とも前もって言ってある。
どうしても、戦闘になるとため息がでる。
ゲームでは好きだったけど、それはただのゲームで兵士は本当に数値だからだ。
現実は便宜上数値になっているにすぎない…。
とはいえ、これで悩み過ぎるなと周りから言われている。
どうにも、落ち着かない。
相談事にはちゃんと答えられるが、自分から課題を探す気にならない。
仕事が手に付かないとはこのことだな。
それに比べて、女性陣は落ち着き払っている。
何とも情けない話である。
そんな時期を数日間過ごしたが、ようやく報告が来た。
伝令の獣人が報告をもってきたのだ。
伝令は興奮を抑えきれない様子で口を開いた。
「御主君に報告します、戦闘は大勝利です。
我が方の損害は軽微、敵の被害は大多数です!」
ミルとキアラはぱっとうれしそうな顔をした。
高揚している、そうなると大げさに伝達をしたくなるのも心理ではある。
周りが戸惑うほど、俺は淡々としていたようだ。
「御苦労さまです。
具体的なこちらの損害と敵の被害を教えてください」
伝令は俺も大げさに喜ぶと思ってたのか、肩透かしを食らった表情になった。
だがすぐに気を取り直して報告を続けた。
「こちらの死者39名、負傷者181名。
敵の損害は、獣人の死者約1800名、捕虜約160名。
人間の死者約120名、捕虜約400名となっております!」
5分の1の損害はとても軽微とは言えないのだが。
そのあたりの伝達も今後ルールを決めよう。
「分かりました。
ロッシ卿は何と?」
「はっ!今後の方針について、御主君の指示を仰ぎたいとのことです」
どうしても、そうなるか。
予想はしていた。
引き出しに入れてあった紙を折りたたんで封をして伝令に手渡す。
「到着して早々で済みませんが、これをロッシ卿に。
私からの指示が書いてあります」
伝令は一礼して出ていった。
キアラが驚いた顔になった。
「お兄さま、既に結果とその後の処置まで考えていらしたのですか?」
わざとらしく、俺は肩をすくめた。
「どうでしょうかね。
ともかく、負傷者の治療に療養町で受け入れ準備を。
その家族も滞在できるようにしてあげてください」
キアラがはっとしたように言った。
「はい、捕虜のけが人はどうしましょうか」
「それは別の場所になるでしょうね。
監視が必要ですから。
何にせよ、ロッシ卿に任せますよ」
俺の考えを聞きたそうなミルの表情。
「アル、これからどうするの?」
さすがにこの時点では何も計画は立てられない。
俺は首を横に振る。
「まだ何とも。
ですが、今日明日の命の心配はしなくても良いってことだけは言えます」
「さらなる情報を待つのね」
「ええ、あと商会に医薬品で不足しそうなものを発注してください。
最悪、治療に女性の手を借りる必要がでると思います」
「じゃあ、アーデルヘイトに伝えておくわ」
2人が慌ただしくでてったのを見て深いため息をついた。
護衛も2人についていったから、部屋に残ってるのは俺1人。
このあたりの組織も徐々に拡充する必要がある。
死者39人。
怪我をした181人も怪我が悪化して命を落としたり、以後の生活に支障がでるものは何人になるのか。
考えるにつれ、ため息がもれる。
勝つことは当然大事だが、勝ったあとを誤るとそのまま自滅コースになる。
そして、今後敵がどうでるか。
疫病で壊滅している猫人もノーマークとはいかない。
悩みは尽きないな。
下手をしたら、魔族とも戦争になりかねない。
どちらにしても、俺たちの国力は脆弱そのものだ。
今回の戦いで力を出し切っている。
皆、勝利の高揚感で今は気が付いてないがな…。
一緒に騒げる立場なら楽で良かったのだけどね。
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