184話 バニーさんは働きたい
イノシシ一斉駆逐作戦開始、チャールズに全てを託した。
先生に情報収集も兼ねて同行してもらった。
本来なら俺自身がいって情報収集したかったが、戦争前の事前準備などやることが多い。
来るべき闘いに向けて、幾つかの砦を作って、そこに物資を蓄積している。
その一つは狼人族の集落跡地だ。
道路を直線で敷設してあるので、以前は成人で1日掛かったが現在は5分の3程度に短縮できるようになっている。
それとともに、狼人の老人から『死ぬときは生まれた場所で迎えたい』との希望があった。
砦は宿営地で小さな町のような形にしてあるので、簡単な砦の運営も手伝ってもらうことにする。
アーロンさんに連れられて、20名程度の老人または老人手前の狼人たちが砦に向かっていった。
それを見送ったあとで、オラシオに深く一礼された。
「ご領主、老人たちの願いを聞き届けてくれて感謝する」
「将来戦争が確定しています。
だから悩んだのですがね」
「説明した上でそれでもなお願ったのだ。
争いは経験しているし覚悟の上だ」
「とはいえ、そこまで攻め込まれないようにしますよ」
オラシオがうなずいてから去っていった。
たまっている仕事があるのだろう。
護衛のラミロ・リオも俺に感謝を伝えたが、手を振って感謝は不要とだけ伝えた。
安全は最優先なのだが……。
老人たちの切実な願いを、俺は断れなかった。
転生前の俺は子供の頃、おばあちゃん子だったので老人の真剣な願いには弱い。
防疫対策のときと違って、そこまで攻められない算段もあったので許可した。
本当は戦争が終わってからにしたかったのだが……。
だが、1人の老人がある日突然亡くなってしまった。
それが老人たちを焦燥に駆りたてたのだろう。
俺も首尾一貫しないなと自嘲をしてしまった。
とても偉そうなことは言えない。
気分を切り替えて、外に出たついでにオニーシムの工房に向かう。
好奇心旺盛な子供たちのたまり場その2にもなっている。
楽しんでいるならいいのだ。
ただ、子供をウオッカ漬けにしないよう厳重に釘はさしてある。
「おう、ご領主」
オニーシムが手をあげたが……すぐに開発中の武器に意識を戻した。
依頼したのは「連弩」。
中世ヨーロッパでクロスボウはあるが、連弩はなかった。
だが古代中国では存在したので、この時代の技術でも実現可能である。
そして何より、ロングボウと違って訓練が容易であること。
身もふたもない話をすれば、ロングボウの射手が戦死や怪我をすると戦力は激減する。
だが、連弩はすぐに代わりが効くので、戦力の低下が起こりにくい。
第2次世界大戦で日本は名人芸に頼ったが、アメリカは自動化することによって戦力の低下を防いでいる。
パクリだろうと犠牲が減らせるなら何にでも習うさ。
「難航しているようですね」
「ああ、連射の仕組みがな……そこはもう少しで何とかなる。
だが、実現するにしても一つ問題がある」
「何でしょうか」
「矢のサイズは全て均一にする必要がある。
そこまでは手が回らん。
何か手はあるか?」
お見事、共通規格までたどり着いたか。
オニーシムが優秀なのもあるが、何も考えずに受け入れることをやめれば、誰でも可能性があるのではないか……。
「手先が器用でいろいろ作れる兎人族に当たって見ましょう。
きっと張り切ってやってくれますよ」
「任せたぞ。
さすがに、これは危ないから子供には任せられなくてな……」
「矢ではなく、丸い粘土のようなものを、連射できるような仕組みでも考えさせては?
何かいいアイデアを思いつくかもしれません」
オニーシムは盲点に気がついた顔をした。
「ほうほう確かにな……やはり行き詰まったら領主に話を聞くべきか」
「あと、別のエンジニアに頼みたいことがあるのです」
「何だね」
「今の長槍は2メートルですよね。
4メートルのものが欲しいのです。
600本くらい」
オニーシムが吹き出した。
「いきなりとんでもないことを言い出すな。
話しておくが……。
ともかく人手が足りんぞ」
「そこも、暇で情緒不安定になっている兎人族を手配しますよ」
「分かった、頼んだぞ」
兎人族に頼む場合、他の部族なら族長なのだが……。
何か変な縄張りがあって、最初に来たアデライダさんに話をしないともめるのだ……。
今は無駄にもめる気がないので、慣習に従うことにする。
その足で農林省に向かう。
ちょうど、書類とウサウサしているアデライダさんを見つけた。
アデライダさんは読み書きが最初できなかった。
だが行政の書式はできるだけ簡略化させて、不明点があれば口頭での確認を合わせる形にしている。
覚えて間もないアデライダさんの読み書きレベルでも、何とかなっている。
猛勉強して上達が早いのもあるが……。
先生には絶対向かない。
子供に合わせた柔軟な変更は苦手だろう。
この辺りのシステムは、一般人から大臣にさせられたウンベルト・オレンゴが苦心して作ったモデルケースである。
「アデライダさん、お願いがあります」
書類とウサウサしていたが、俺の声を聴くと耳がピンと跳ねた。
仕事を頼むとうれしそうにする。
頼みすぎると……きっと過労死するまで働くぞ。
「領主さま、何でしょうか!」
「ええ、手先が器用な兎人族を見込んで、科学技術省の武器開発の手伝いをしてほしいのですよ」
「何人ほどでしょうか!」
「今って何人くらい手が空いていますか?」
「30人ほどです!」
30人の情緒不安定な兎人族……早く解消しよう。
人口が多いため、きっちりと決まった仕事に回しきれていなかった。
人手不足の所に助っ人で一時的に投入だと、兎人族にとってはストレスらしい。
決まった仕事に打ち込まないと落ち着かないようだ。
確かにこれは、他の部族とやってくのは難しいだろう。
中には平気な人もいるだろうが……そんな人は冒険者になって出ていくのだろうな。
「では、その人を全員アレンスキー殿の科学技術部に回してください。
本人の希望と適正があれば正式に所属になります」
「はい! 早速伝えてきます!」
いうが早いか走り去っていた……。
辺境だからだろうか……女性ってみんなパワフルだな。
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