178話 閑話 童貞博士探検隊 2

 川沿いではなく、森の奥に向かったのでけげんに思ったが付いていくしかない。

 荷物を担いでいるので、休憩を取りながらゆっくりと進むことになる。

 猫人に情報を聞こうとしたが取り付く島もなかった。


「話すことを禁じられている」


 残念だが情報は聞けずじまいだった。


 獣道を案内されて黙々と付いていく。

 進むにつれ森は深くなっていくが、なだらかな上り道を延々と歩いている感覚。

 37歳には結構キツイ。


 都合半日ほど歩いただろうか。

 急に森が開けて、目の前の光景に驚いた。

 盆地に城壁で囲まれた街が見えた。

 街の周囲にたくさんの集落が有る。


 猫人は町を指さして言った。


「あそこに首領がおられる」


 有翼族はそこまで高くは飛べないから、丘陵と高い木で見えなかったようだ。

 あたりは広々とした平地が広がっていた。


 町まで案内される途中の集落を遠めに見たが、荒廃とまではいかないが貧しい生活をしていることは理解できた。

 外の集落だけでもかなりの数が有る。

 こりゃ概算で人口1万はいそうだな……。


 城壁は高くしっかりとした石組みで、周囲には掘りが巡らされているが水はない。


 跳ね橋ではなく、道がそのまま伸びている。

 こんな辺境でこの規模が有るのは予想外だった。


 門は開いているが、門番は2人いる。

 猫人が門番に何か話すと、門番がこちらに寄ってきた。

 チェインメイルでがっちり武装した人間。

 かなり鍛えているようだ。

 ぶっきらぼうに俺たちに向かって言った。


「しばし待たれよ。

取り次ぎがじきに来る」


 余計なことしゃべってもロクなことがないからな。


「承知した」


 黙って少し待っていると、高価そうなローブを着た人間がこちらに来た。


「ラヴェンナからのご使者ですな。

首領がお会いになりますのでご案内いたします」


 猫人と何か遠距離での意思疎通方法が有るのか……。

 ラヴェンナの名前がもう伝わっていた。

 ともかく付いていくしかない。


「よろしくお願いします」


 俺たちが入ろうとすると、ローブを来た男が振り向いた。


「門の先は人間のみが立ち入れる場所です。

お供の亜人たちは、別のところに案内しますのでそこでお休みを」


 ちょっと不快になったのは坊主の影響だな。


 言い争っても仕方ないので言われた通りにしよう。

 同行してきた仲間に振り返った。


「すまんが言う通りにしてくれ」


 人間だけだと8名だ。

 残りは黙ってうなずいた。

 そして犬人の案内人が来たので人間以外は付いていった。


 直近ではないが、未来に一悶着確定だな……。

 旅立つときに坊主から、贈り物の酒が通用しないときはこっちを……とこっそり黄金の首飾りをあずかっている。


 まあ、酒壺は虎人に持ってもらっていた。

 重すぎて人間では持てないのだ。


 道はとても奇麗に整備されており、人間しかいなかった。

 大理石のような白い石で舗装されている。

 人口はそこまで多くはない印象だ。


 しっかし、下手な町より立派だぞ……。

 そのまま真っすぐ大通りを抜けると、壮麗な宮殿が見えた。

 そのまま中に入る。

 内装は、華美でなく質実剛健といった感じだ。

 宮殿の別室に通された。

 退出しようとする役人を呼び止める。

 いきなり贈り物を差し出すのはマズい。


「首領殿にわれわれの領主からの贈り物を持参しております。

どのようにお渡しすればよいですかな?」


 使者はうなずいた。


「礼儀正しい方ですな。

担当の者を呼びますのでしばしお待ちを」


 しばし待っていると、丸坊主の小太りの人間がやってきた。

 身に着けている服は派手だな。


「贈り物はこちらで検分して、首領に献上いたしましょう」


 俺は木箱に入った黄金の首飾りを渡した。


「中身を改めても?」


 俺はうなずいた。


「結構です」


 箱を開けると丸坊主は驚いたようだがすぐ表情を消した。


「では、検分してから献上いたします」


「よろしくお願いいたします」


 そのあとで待合室まで案内された。


「しばし、ここでお待ちください。

謁見の時間が来たらお呼びいたします」


 俺がうなずくと、役人は出ていった。


 部屋は豪奢ではないが豪華だ。

 この地方は一体何なのだ……? 実はヤバイところじゃないのか?

 一体こんな辺境のどこにそんな金が? 謎は尽きなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る