176話 地獄のナンパ師

 女性陣2人の追及と、プチ波乱があった。

 『信じる』って台詞はどこにいったのだ?

 そんなことを口にするのは、火にガソリンをかけるようなものである。

 沈黙は金なり。


 あの信じるといった優しいミルは……。

 風と共に去りぬだ。

 風は吹いていないが…………。

 世の中は理不尽に満ちている。


 あれ以降、アーデルヘイトが、よく執務室に来るようになった。

 友達に会いに来たと宣言する笑顔のアーデルヘイト。

 女性2人のジト目が痛い。


 本当にただの友達よ。

 それ以上はないから! あれ以降、俺は睡眠不足気味(意味深)である。



 そんな中、俺に対する有翼人の態度だが……。

 アーデルヘイトはよほどうれしかったようで、先日のことを盛りに盛って一族にしゃべりまくったらしい。


 そのおかげで、皮肉なことに改善されていた……。

 距離感の原因は超美人のアーデルヘイトに、手を出さないのが理解されないことだ。

 一族の中での最上の美人なら手を出して当然。

 それでいて手を出さないのは、有翼族になにか良くない感情を持っているのではと。


 人並みの欲望は持っているらしいと、変な安心感がでたらしい……。

 だがこのままでは、ただのナンパ師としての評判しか広まらない。

 なぜかと言えば、有翼族の中で俺のあだ名が増えていたのだ。


『地獄のナンパ師』


 いや! 慰めたのがナンパって何だよ! ナンパまでするなら、最後までやってるよ! しかも地獄って何だよ! 訳わかんねーよ。

 それに俺がモテているように見えるのは、領主の地位にいるからだ。

 地味な外見。

 ユーモアのセンスもさしてない。

 誰かを贔屓するわけでもない。

 腕っ節が強いわけでもない。

 魅力的な男性の条件に俺がマッチしているとは、到底思えない。

 唯一ヒットするのは、大貴族のボンボンってくらいだ。


                  ◆◇◆◇◆


 この話は、代表者会議で面白おかしくネタにされた。

 余りに理不尽だったので、訂正の布告を出そうとしたのだが……。


 チャールズにそれを遮られた。


「御主君の親近感が増しているなら、結構なことですな。

いけませんなぁ。

そんなことで、布告を出すのは職権乱用ですよ」


 バッサリ切り捨てられた。

 それだけではない……女性陣の視線が最近痛い。

 誤解だっつーの。


 ふと、気が付いた。

 これは仕事を増やしまくった揚げ句、丸投げしている俺に対しての仕返しだったのだと。


 そんな中、兎人族が到着した。

 族長らしき人が、心配そうにしている。

 男で白い髪の赤目。

 カラーリングは普通の兎さんだけど、年齢は30後半か。

 気苦労のせいか、若干頭頂部の毛が寂しくなってきているような。


 一緒に出迎えてきたアデライダと、しばらく話して安心したようだ。


「シリノ・ラモン・ゲバラ・イニエスタです。

われわれの移住を受け入れていただき、感謝の念に堪えません」


「ようこそ、ラヴェンナへ。

あなたたちを歓迎します」


 型通りの挨拶をした後で、移民省に投げる。

 そろそろ、代表者会議のメンバーは増やすべきだろうな。


                  ◆◇◆◇◆


 夜の代表者会議で、俺が提案する。


「種族間の代表者の数に、差がでています。

そろそろ代表者の増員を検討すべきだと思います」


 オラシオが腕組みする。


「代表が一人では、目が届かないケースもでてきているな」


「どの種族を何人増やすか、皆さんで決めていただきたいのです」


 アデライダが不安そうにしているので、助け船を出すことにする。


「アデライダさん。

兎人族は、私の想定以上に貢献してもらっています。

そんな中で代表者を、新たに推挙することを遠慮しなくてもいいですよ」


 バニーさんにも、気をつかう。

 俺は白髪になるの早いかもしれん……。

 それともあのシリノと頭髪の話で慰め合う仲になるのか。


 まだ不安そうにしているのは……あれか。

 縄張りか……。


「あなたにお任せしている領域を削ったりしませんよ。

別の部分を任せたいのです」


 パッと、笑顔になるアデライダ。

 バニーさんって縄張り意識も強いな……。


 そこに、エイブラハムが挙手をした。


「何名まで増やすおつもりですか?」


 どれだけ増やしていいのか。

 俺が椅子の数を決めて、それを取り合う方が楽ではある。


「とくに決めてないのですよ。

種族をフォローしきれる人数。

各部署で全体の視野を持たせたい人数。

そのあたりを、元に議論するのが適正だと思います」


 適正な人数の算定方法も把握してほしいのだ。

 ミルが納得したようだった。


「これを基準に、皆で考えろってことね」


 その通り。

 俺は上機嫌でうなずく。


「代表者の人数が増えてきたら、私の権限をどんどん委譲していきたいのです」


 アーデルヘイトが挙手する。

 いつものように黙って、発言を促す。


「アルフレードさまは最終的に、代表者の上限を何人までと考えているのですか?」


 いきなり、最終的な数値を聞いてきたか……。

 腕組みをして、ちょっと言葉を探す。

 道筋は示さないとダメか。


「人口にもよるのですよね。

その人数を出してしまうと……比率を、現在の人口に当てはめて答えにしてしまうのですよ」


 キアラは思案顔になった。


「人口によって、最適の数は変わるのですね?」


 惜しいな。

 俺は、肩をすくめる。


「大体あっていますね。

社会の成熟度も、要素の一つになります。

そんな将来は予測ができないので、現時点で必要と思える人数を出してください」


 キアラはちょっと残念な顔をする。

 これも初めてのケースなので、議論百出、後日に持ち越しとなった。


 議論がいろいろでてきたのは、順調に育ってきて成果だ。

 そこは、素直にうれしい。


 だが俺の呼び名が増えていることだけは、納得がいかない。

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