127話 歩き出さなければ到達は出来ない

 チャールズからの報告を、全員で検討する。

 チャールズが、俺に確認してきた。


「ご主君、これをどう見ますかね」


「まず、皆さんで可能性を模索してください」


 さすがに慣れてきたのか、みんなで考え始める。

 犬人と虎人は初なので戸惑っていたが、自分の考えを述べることが大事なのは理解したようだ。


 会議で出された可能性は、概ね俺の想定を網羅していた。

 徐々にだが、成果は上がってきている。


 会議で出た結論をまとめるのは、ミルの役目になっている。


「では……まとめるわね。

抜けていたら指摘お願い。

祭りの準備を見て、自分たちが攻められると勘違いしたかもしれない。

砦の建設に危険を感じて、偵察を活発化させたのか?

先制攻撃の事前偵察ではないのか?

あとはたまたま?」


 全員がうなずいた。

 結論が出せるかを確認するのは、キアラの役目だ。


「まだまだ情報が足りないから、まだ結論が出せないですわね」


 キアラが、一同を見渡すと全員がうなずいた。

 それを見たキアラが、せきばらいをする。


「では情報を得るために、今後どうするかを議論しますわね」


 何だか感慨深いものがある。


 黙って会議の行方を注視する。

 

 だがここで俺の誕生日の祭りと、結婚式の話に話題が偏り始めた。

 ここは止めるところだろうな。

 俺が全員を手で制する。


「誕生日はそもそも、どうでもいい話です。

結婚式は大事ですが、そのために死ななくて良い人が死んでは祝えなくなります」


 ミルもうなずいてくれた。

 本心はどこにあるかは分からないが、ここは俺の考えを優先してくれたのだろう。

 そこでさらに方向性を提示する。


 「ですから、それはないものとして検討してください」


 欲を言えば、皆から言ってほしい。

 こればっかりは、まだ時間がかかるかな。

 社会が中世で止まっている。

 いや、転生前の世界ですらこの手の考えは難しい。

 無いものねだりなのかな。


 軍事なので基本チャールズが仕切る。


「手を出すにしても、何を目的にするかによりますな」


 争いことでは、元気になるトウコが身を乗り出す。


「手を出して、情報が得られるのか?」


 オラシオが諦めたように、首を横に振った。


「何もかもが足りないな」


 エイブラハムが意見を述べる。


「出しても分かる保証もないのであれば、手は出さない方向になるのではないですかな」


 全員がうなずいた。


 以前ならそこで終わったが……。

 前に話したことを覚えていたキアラが先導する。


「では……手を出さないにしても、猫人への対策だけは考える必要がありますわね」


 ナイスだ妹よ。

 チャールズが、口を開く。


「警戒態勢だけとっておきますかね。

こちらが警戒していると知れば、うかつに手を出せないでしょう」


 一応の結論が出たようだ。

 全員が俺を見る。


 俺はうなずいて最終決定を下す。


「それで結構です。

警戒についてはロッシ卿を主体として、騎士以外も動員する形を考慮してください。

その方向で、計画の策定をお願いします」


 チャールズが、冗談めかして肩をすくめた。


「できれば猫さんたちには、少し待っていてほしいものですな」


 皆は笑っていた。

 何もないことを、本気で祈る人もいたろうな。


 トウコが疑問を持ったようだ。


「我々と戦ったときもこんな感じだったのか?」


 オラシオが困ったといった感じの顔になった。


「前まではご領主が、一人で作戦を立てた。

だが……ご領主は、我々がその域に達することを望んでいる。

地の底から天の頂を目指せ……と言われている気分だがな」


 俺は軽い感じで笑うことにする。


「たどり着けますよ、ずっと続けていけばね」


 事実、そう思っている。

 機会がなかっただけ。

 だから機会を与えて見守れば到達できる。

 そう確信している。

 歩き出さなければ、到達はできないがな。


 先生がため息交じりに、口を開く。


「坊主が4、5人いたらなぁ。

使徒さえいなければ世界制覇できる気がするよ」


 俺以外全員笑ってお開きとなった。

 笑えないよ、俺がそれなんだからな。

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