126話 何でもいいほど難しい

「キアラ。

式には家族を呼ばなくても良いのですかね?」


 気になったので確認をする必要がある。

 結婚する話は既に伝えてある。


「ラヴェンナ式なので、スカラ家としての結婚は別途やればよろしいと思いますわ」


「なるほど」


 ちょっと、ミルは不安げだ。


「アルの家族か……。

会うのが怖いような楽しみなような……」


 確かにそうか…でも心配などさせたくない。

 文句も言わせないし、異論も認めない。


「大丈夫ですよ」


 キアラも、笑顔で勇気づける。


「ええ、私も保証しますわ」


 ミルも、うれしそうにうなずいた。


「ありがとう。

それは心配しないことにするわ」


                  ◆◇◆◇◆


 基本蚊帳の外だったが……。

 花婿が何もしないとは考えられなかったので、確認をしよう。


「式の前に、私がすることはありますか?」


「ええ。

お兄さまは、お姉さまに花嫁に贈るネックレスを手配してください」


「ネックレスですか? 指輪でなく」


 キアラは、当然ですと言わんばかりの顔になった。


「他の種族によっては指輪だったら……はめにくいでしょう?」


 全種族用の形式だからな。


「なるほどね」


「アレンスキーさまに話は通してあります。

素材の手配も済んでいますので、お兄さまはデザインだけ決めてください」


 手回しが良いな……。


「では、会ってきますよ」


 デザインと言われても不安になる。


「しかし、ミルの審美眼はとても優秀です。

大丈夫ですかね……お気に召さないとか怖いのですが」


「アルからの贈り物なら私は何でも嬉しいわよ」


 何でもいいこれはかなりの難題。


「う、プレッシャーが……」


 ネックレスのデザインに、頭を悩ませながらオニーシムのところに向かった。


                  ◆◇◆◇◆


「ご領主。

待っていたぞ、早うデザインを決めてくれ」


 歩きながらどのデザインが似合うか考え込んで、何とか思いついた。

 できるだけシンプルで派手にならないようにする。

 ミルは元々美人だからな……。

 へんな自己主張するより美しさを引き立てるものがいい。


「こんなデザインで……お願いできますかね」


「ほうほう……任せろ。

でないとワシの命も危うい」


 またキアラか。

 方々で脅して歩いてないだろうな。


「では、お願いします」


                  ◆◇◆◇◆


 親衛隊で俺の護衛をしているラミロ・リオが、興味深そうに聞いてくる。


「ご主君は大賢者のような知謀があるに、この手のことは人並みなのですね」


 賢者じゃないし。


「戦略ってまた別種の読みが必要なだけです。

この手の話は、そんなものが通用しないのですよ……」


「大勢より1人の方が難しいのですか」


「勿論ですよ。

それに……大事な人にはそんな形式的なもので当てはめて考えたくないのですよ」


 その言葉に、ラミロ・リオは感銘を受けたようだ。


「なるほど、これからご主君の思考を学んでいきたいですね」


 1点だけ、注意を与えておくか。


「丸写しでなく……自分で考えて、私の考えは参考にする程度。

それが1番ですよ」


「そんなものなのですかね」


 生兵法は怪我のもと。

 兵法はあくまで基本原理さ。


「ええ。

私の思考を、しっかり読み解けたらさっきの回答にたどり着きますよ」


                  ◆◇◆◇◆


 そのまま黙って、マノラの見舞いにいく。

 マノラが俺に気が付いて、小さく手を振る


「あ、領主さま~」


 いつものように、椅子に腰かける。

 元気になってきて、暇を持て余しているようだ。


「やあ、マノラ。

体調はどうですか?」


「すっかり元気だよ。

でも、先生が寝てなさいって……退屈だよー」


「本でも読んではどうですか?」


 マノラは頰を膨らませた。


「字なんて読めないもん……」


「なら、読めるようにしましょうか。

マノラに先生をつけましょう」


 マノラは急に目を輝かせた。


「いいの?」


「ええ。

先生に来てもらいますよ」


 元気に跳ねたそうだが我慢している。

 いい子だな。

 こんな子は、幸せな子供時代が約束されていいはずだ。


「わーい」


「じゃ、また来ます。

大人しくしてくださいね」


「はーい」


 彼女に読み書きを覚えてもらって、親衛隊予備軍の教師になってもらうのがいいか。


                  ◆◇◆◇◆


 屋敷に戻って、デルフィーヌを呼んでもらう。


「領主さま。

お呼びですか?」


「ええ。

一つお仕事を頼みたいのです」


 マノラへの読み書きを、ついでに教えてもらうことをお願いする。

 デルフィーヌは気になったようで、悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「随分、その子を気に掛けられるのですね」


 ピタっと……秘書2人の手がとまる。


「いえ。

彼女は子供ながら町の防衛に参加したのですよ。

そして他の子をかばって、怪我をしたのです。

なのでできるだけ、目を掛けてあげたいのです」


 デルフィーヌに怪訝な顔で見られた。


「子供が防衛にですか?」


 これは言い訳のしようがない。

 俺は肩をすくめた。


「非難は受け入れますよ。

言い訳のしようもないですしね」


 デルフィーヌが慌てて首を横に振った。


「いえ。

領主さまが好き好んで、子供を駆り出すとは思えませんので」


「お願いできますか?」


「では合間に彼女も教えることにします」


「お願いします」


                  ◆◇◆◇◆


 彼女と、入れ替わりに、厄介な報告がチャールズから伝えられた。

 猫人の姿を、最近、巡回でも見るようになったと。


 結婚式は延期かなぁ……そう思うと、残念な気がした。

 俺も結構、楽しみにしていたのだなと。

 ミルは今とても幸せそうな顔をしている。

 いや……結婚式を楽しみにしている婚約者を見ていると嬉しいのだったな。

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