112話 真面目な領主程苦労する

 翌日、俺は、ウンベルト・オレンゴの決意に満ちた報告を聞いていた。


「800名、半年もたせる前提でしたら受け入れ可能です」


 ああ……やっぱり、そう来たか。

 先生が謎解きを要求するするように、俺を見た。


「坊主。

半年後に、どんな手を使って食い物を調達するんだ?」


 俺は、ビッグウエーブ作戦の内容を説明した。


 一同ぼうぜん。

 チャールズが感心したように言った。


「よくイノシシの習性なんて知っていますなぁ」


 元々は、江戸時代の獣害を知っていたからだけどな。

 先生が、ニヤニヤ笑っていた。


「坊主の知識に、いちいち驚いていたらきりがないぞ。

ロッシ卿。

アルフレード現象ってことにしておけ」


 また変な造語をつくるな。

 銅像に宝石を埋め込むぞ。


 オラシオが小さくため息をついて腕組みをした。


「では、旧農地は放置するのだな」


 イノシシにあまり良い思い出がないのかもしれないな。


「ええ。

そうしてください」


 チャールズは人ごとといったように笑う。


「しかし、この地方は大混乱しそうですな」


「仕方ありません。

生きるためです」


 チャールズが、ご苦労さまといった目で俺を見ていた。


「こんな苦労をするとは、領主なんて頼まれてもやりたくないですな」


 先生はニヤニヤ笑いをしながら俺を見ている。


「不真面目にやれば楽だがな。

坊主はこうだからな」


 皆、好き勝手なこと言ってやがる。


 俺はせきばらいをして、真顔になって一同を見渡す。


「それはともかく、受け入れの際に徹底しなければいけないことがあります」


 チャールズは俺の顔を見て、気軽な話題でないことを悟ったようだ。


「それは何ですかな?」


「ここに住む以上、種族に差はないということです。

人間であることを盾に、優位を主張するなら追放か処罰します。

これはこの町の基本事項です。

いかなる事情も考慮しません」


 エイブラハムが眉をひそめた。


「それでは領主殿の立場が悪くなりませんか?」


 そんな理由は通らない。

 俺は首を振る。


「この基本理念を言い出して守れないくらいなら、最初から領主なんてしませんよ。

懸念は不要です」


 即座にトウコがうなずく。


「領主の決定だ。

われわれに否はない」


「人数が多く、最初はテント暮らしでしょう。

そこであなたたちが、家屋に住んでいたら文句を言う輩も当然出ると思います」


 先生が皮肉な笑いを浮かべる。


「坊主の言う通りだな。

人生やり直せると思っても、本当に0からと考えるヤツは少ない」


 厳しいが、手を打たないといけない。


「なので苦情を申し立てた段階で警告します。

さらに言うなら追放します。

そして、子供たちの接触も原則禁止します。

心ない移民の親に罵倒される可能性もありますので」


 オラシオが難しい顔で腕組みをする。


「子供は好奇心旺盛だ、どうしても会うとかあるかもしれないぞ。

それこそ……この町の方針で、人間に警戒をもたない子供も多くなっている」


 ため息が出てしまった。


「さすがに監視は無理ですし、余裕もありません。

なので、子供を罵倒した人間は処罰の対象でしょうね」


 チャールズが渋い顔でうなずいた。


「厳しいが仕方ありませんな」


 トウコが身を乗り出してきた。


「いっそ別の開発予定の町をつくらせたらどうだ?」


 確かに、その手もありはする……。

 だが、それはマズいのだ。


「考えました。

そうなると、その町だけが別の町になります。

人間だけの論理で生きるね」


 エイブラハムが珍しく苦笑している。

 どう考えても、厄介事でしかないからな。


「なるほど……ではどうします?」


「将来的には、方針を受け入れられた人たちで町をつくります」


 チャールズが確認をする。


「あくまで、この町の方針を守れと」


「その通りです」


 先生が真顔になった。

 真顔になるのは珍しいな。


「坊主、それは良いのだけどよ。

植物に名前をつけるのは……個人の自由だよな?」


 どうして、そこで要らない爆弾を投げ込むのだね……君は。

 ミルが、目だけ笑ってない笑顔で威圧する。


「ファビオ博士? ちょっと、私としませんか?」


 先生……しどろもどろになった。


「あ……いや……別にそれが変だってことはない……。

けどな……俺はそんな変な趣味もって……グハッッ!!!」


 あ……ミルが魔法をぶっぱなした。

 自業自得だな。

 死ななきゃいいだろ。


 ミルが能面のような表情で俺を見つめた。


「アル。

私にもアレ殺人光線教えてくれる? 気が変わったわ」


 おい……動機が物騒だろ! こうして会議はまたグダグダに終わった。

 最近、ずっとこんなパターンでね?

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