第9話ニシノ3

砲撃は、地面を揺さぶり、真昼の空を、雷のように引き裂いていく。


...ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...バラバラバラ...


...パラパラ....


...ユッサ、ユッサ....


...ドーーーーン!ドンドーーーーン!...


————————————————————————————————————————————————-


モニターや壁はひび割れ、残骸が天井から落ちて来る。


「施設が!あぁぁ...。やめて...やめて...」


「おい!クミちゃん!逃げろ!逃げろ!何してる!。」


「でも、で、でも...。」


「クミちゃん。諦めなさい。執着したらいかん。生きていたらやり直せる。コマチの秘密路を行きなさい。みんなもう行ってる。」


...バギィッ!...


「あぁぁ...。子供達の家が...学校が...。」


「行きなさい。また作ったらいい。秘密路。避難訓練覚えてるか?。」


「私もここに一緒に...」


「バカを言うな!。ここで死んで、誰のためになる!。行きなさい!。ワシも後で行くから。ほら早く。」


「ウソ...!」


「早く行け!。あんたの家族が悲しむでしょうが。行きなさい!。ワシを勝手に殺さんといてくれ!。」


「に、ニシノさん!。」


キョイが来た。


入れ替わりで...。


血相を変えて...。


キョイも放心状態。


動揺してる。ただただ動揺してる。


...ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...バラバラバラ...


...パラパラ....


...ユッサ、ユッサ....


...ドーーーーン。ドンドーーーーン...


「もうここはダメ!逃げなさい。」


「ここを、ここを捨てるんですか?!。」


「仕方ない。歯が立たん。相手があれでは...。」


「あの子達の居場所。ここ以外どこにあるんです!。」


「もうここはダメだ。諦めろ。辛いだろうが、大変だろうが、また探せ。また作れ。一から。クミちゃん達もいる。力を借りて。心配するな。何とかなる。狙いはこの施設と、ワシだけ。地下から行け。コマチの秘密路を....。一番遠い地上に出て散れ。できるだけバラバラに....あの子らを連れて逃げてくれ!。もうここはもたん。ワシとコマチが時間を稼ぐ。急げ!。」


...バラバラバラ...


...パラパラ....


...ユッサ、ユッサ....


「しかし....。」


「何をしてる!。早く行け!。あと数分で出られんようになる!。急げ!。」


...ドーーーーン!...ドンドーーーーン!...


「おまえが今日からワシの変わりだ。お父さんだ!。」


「私に出来るでしょうか...私なんかについて来てく...。」


「バカたれ!。」


時間が無い。


...バラバラバラ...


...パラパラ....


...ユッサ、ユッサ....


分かってくれ。


「そんな弱気でどうする!。おまえの強い思いで、強い愛であいつらを護ったらんかい!。」


「....」


キョイ。自信だけ。おまえに無いのは自信。


おまえは、全部持っているんだよ。


本当は。


何でも出来る。


おまえが思っているよりずっとな。


自分で気づかないだけだ。


自信持て。


こいつまた直立不動になっとる。


「世界一強くて温かいおまえの愛で護ったらんかい!。こら!。」


「に、に...ニシノさん...。」


「自信を持て。キョイ。俺の言うことを信じて見ろ。いつも言っとるだろうが。おまえなら出来る。おまえは出来る!。だからワシが目をかけた。分からんか?。」


...ドーーーーン...ドンドーーーーン...


...パラパラ....


...ユッサ、ユッサ...


キョイ。


行け。


「はよ行かんかバカタレ!自信を持て。やっていける。もう、ワシを超えとる。」


「そ、そんな...。泣」


「こら!。はよ行かんか!。手遅れになる!。」


「...。」


「はよせい!。」


「...。」


「頼むぞ。ワシらの宝物。頼んだぞ。守ってくれ。ワシの代わりに。」


「...。」


あられもなく涙も鼻水を流しとる。


そんなに悲しむな。


ここは無くなるが、ワシはいつもおまえらの側にいる。


死んでも生きとっても。


同じことだ。笑


子供のように咽びながら、唇を噛み締めてる。


おまえは若い。


若いから迷う。


若いから自信が無い。


若いが立派な大人。


だが、いかんぞ!。


ここで止まっていては。


出来るからおまえに任せる。


出来るからおまえに託す。


希望の襷(タスキ)を。


いかん。ちょっとカッコつけ過ぎか?。


「キョイ!。」


「は...はい!。」


「笑え!キョイ。笑え!。あの子らのために。みんなのために!。」


そして、おまえ自身のためにな...。


あれ。混乱して変な事言っとるか?。ワシ...。


「泣。はいっ!」


まぁいい。


「...ど..どうかご無事で!どうか...。今まで!今まで!どうも、どうもありがとうございましたっ!泣...」


走って行く。


やっと。


やっと行った。


骨が折れる。


どいつもこいつも頑固者ばかり。


だが、わき目を振らず全力で走って行った。


丁寧なお辞儀。


初めて会った時。


あれは初夏のネオヤマト。


7年前。


確か、EXPOの時だった。


おまえ変わらんな。


しつこかったなぁ。笑。


でも、あの時も同じお辞儀...。


必死のお辞儀。


ひたむきな男の。


言われていたような傲慢な天才ではない。


おまえは。


不器用だが誰よりも温かい。


心の温かい男。


変わらない。


おまえも、ハセガワも。


子供のようなもんだ。


ワシの。


...カチッカチッカチッ...


...ガチャ...


えーと。


これは。


古いから接触が悪いなぁ...。


字が細かいし、ボタンのライトがチカチカする。


あぁ!見にくい。


老人には。


えぇと。


受話器を取ってパネルを押す...と。


...カッチッ...


警報は解除...と。


いつもクミコにやらせてたからな。


えーと。


どれが...。


...ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...バラバラバラ...


...パラパラ....


...ユッサ、ユッサ....


...ドーーーーン...ドンドーーーーン...


攻撃は益々激しくなってる。


天井から、落ちてくる破片が大きくなって来た。


館内放送...。


『.....みなさん。SIT所員のみなさん。私です。ニシノです。さっきからの爆発で分かるだろうが、ここは今アトラの兵曹に攻撃をされてますぅ。コマチとSITは、第一級戦闘態勢を取っております。みなさんは、大急ぎで退避しなさい。恐らく皆さんのような小物は狙われてません。ガハハ!。でも、用心には用心を重ね、地下通路から、逃げて下さい。ワシも後で行くから、ガハハハ!それから、施設にある備品は何でも持って行きなさい。...』


!?


「所長!。」


「ニシノ所長!。」


「所長ーーっ!。」


おお?


カトウ、タナカくん、ニコライ、ジュリ、チエちゃん。


来おった。


ゆるキャラ5人組が...。


こうやって見ると。


歳とったなぁ。


アンタ達も。


今日は言うのやめとこう。


流石に。


長い間良く働いてくれた。


さあ、こいつらは脅かさんと。


こいつらはやり易い。笑。


思いっきり脅かしてやろ。


「バカタレ!。早よ逃げろ!。ワシが逃げ遅れるだろうが!。殺す気か!。コラァ!。」


ごめんよ。


「ひいぃ。」


「うわぁぁ。」


「キャアァァァァーーー!大きな声出さないでぇ!。」


「えぇぇ。」


「ガッハッハッハッハ!ガッハッハッハッハ!ウハ!ウハ!」


おまえの方がデカイ声だろが。


皆ずっこけながら、走って行く。


地震、雷、火事、親父と言うからなぁ。笑。


ありがとう...。


みんな。


最後まで。


感謝。


『...ガハハハ!ガハ!ウハハ。最後になった人はお給料でません!ガハハハ。....』


ワシの笑い声、こんなに下品だったか。


館内に響き渡る。


下品な笑い声が...。


粒子砲撃の度に、施設が激しく揺れる。


ハリケーンの中の木々のように。


いつかはこうなる運命。


早いか遅いか...。


なぁ。ナミちゃん。ユキナ...。


おまえ達の写真。


これだけになってしもた。


このカードケースも、変色し色褪せた。


長い間に。


ボロボロになってしもた。


ナミちゃん。


最高の嫁さん。


ユキナ。


パパももうすぐそっちへ行く。


あんたに貰ったカードケース。


写真は、ビニールに包んでるが。


クシャクシャ。


どこに行くにも肌身離さず持ってるから。


おまえ達との約束は果たせなかった...。


すまん...。


おっさんが禿げ頭に写真ぴったり着けてすすり泣く姿。


人には見せられない。


...ブウーーーーーーーーーーーーーーー!...ブーーーーーーーーーーーーーーーー!...ブーーーーーーーーーーーーーーーー!...ヒュルルルルルルルルルルルルル......ヒュルルルルルルルルルルルルル......ヒュルルルルルルルルルルルルル......ブーーーーーーーーーーーーーーーー!...ブーーーーーーーーーーーーーーーー!...ブーーーーーーーーーーーーーーーー!...ヒュルルルルルルルルルルルルル......ヒュルルルルルルルルルルルルル......ヒュルルルルルルルルルルルルル......ブーーーーーーーーーーーーーーーー!...ブーーーーーーーーーーーーーーーー!...ブーーーーーーーーーーーーーーーー!...ヒュルルルルルルルルルルルルル......ヒュルルルルルルルルルルルルル......ヒュルルルルルルルルルルルルル...


警告音がけたたましく鳴り響く。


切ったはずの警報機が...。


!?


28番?。


何で?。


制御パネルが。


28番ゲートのボタンが点滅している。


正面に一番近いゲート。


開き始めたゲートがモニターに映る。


!?


「なんだ!?。」


子供が...。


飛び出していく。


誰だ?。


少年が映っている。


そんなはずは。


一気に兵曹の方角に走っていく。


人の速度じゃない...。


ハッ!。


ハッ!?。


!?。


あ、アカン!。


「おお!?あ、あいつ...。バ、バカが...。」


!?。


どうした!。


「何番?。どれクミちゃん。どの...。」


タイガーの作業着、何番?。何番だ?。汗。


通信機能がついている。


「バカたれ!戻れっ!あ、あ?おい。タイガー!タイガーッ!何をしてる!?。何をしてる!。」


...ピーーーー...カチッ...カチッ...カチッ...カチッ....


『...父さん。いつもゴメン。僕が時間稼ぐから逃げて!。父さん。...大好き!。...』

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