第91話 ブラッドベリー来訪
俺はオキクから執事の何たるかを習っていた。
ルナの執事となったからには、ある程度の仕事は出来なければならない。
というのも、俺はルナの執事として帝都学園に入学するからだ。
それで今、オキクから料理を教えてもらっているところである。
「さすが坊ちゃま。筋が良いです」
ジャガイモの皮を剥く俺に向かってオキクが言ってくる。
……本当に? オキクはすぐに「さすが坊ちゃま」と言うからな……。
疑いの目を向けると、オキクは真顔で答える。
「本当のことです。坊ちゃまは色々なことに才能がおありです。恐らくそれは、努力の仕方を知っているからでしょう」
……ああ、なるほど。そう言われると納得出来る部分があった。
俺は努力を続ける内に、「どうすればもっと上手くなれるのか」を考える癖がついた。それが料理にも活きているに違いない。
「ルナに美味しい物を作ってやれるようになれるかな?」
「坊ちゃまなら必ず」
「そうか」
「しかし、坊ちゃまに美味しい物を作って差し上げるのはわたしの役目ですので」
「……メイドに尽くされる執事ってどうなんだろうな……?」
「どうであろうと、わたしは坊ちゃまの専属メイドですので」
きっぱりと言い放つオキクに心が温かくなる。この子はこういう子だったな。
ちなみにオキクはいつの間にかちゃっかりとスカイフィールドの家に戻っていた。
別に誰かに何を言うでもなく、気付けば戻っていたという感じだ。
家の者たちも誰もオキクにツッコめないという……。何故なら彼女は出奔する前からそういう立ち位置だったからだ。
――なんかよく分からないけど、絶対逆らってはいけない人。それがオキクの立ち位置だった。
そういえばこの屋敷に戻ってからというもの、嫡男という立場ではなくなった俺に対し、家人の中には以前にも増して蔑んだ目を向けてくる者もいる。
しかし、そういった者たちは片っ端からルナに目を付けられるので、表立って何かしてくることはない。それどころか日に日に家人の数が減っていっている気さえする。……ルナちゃん?
そんなわけで、俺が執事としての仕事を覚えるのは割と急務だった。
――ただ、そうやって執事の仕事をこなしていた時だ。来客の報せが入ったのは。
俺の客だというので俺自らが出迎えに向かうと、玄関で一人の少女が待っていた。
桃色の髪を二つにくくった、ピンクツインテールの女の子。
その恰好はどこか前世の学校の女子の制服を彷彿とさせる。
だが、その顔は見覚えがある。
「ね、姉さん……?」
恰好こそいつもとまるで違うが、その顔立ちは紛れもなくストロベリー・ラム・パトリオトその人だった。
しかし彼女は首を横に振る。
「違うわよ」
「え?」
俺が訊き返すと、彼女は、くるっと回転し、その際ふわりとスカートがひらめく。
彼女は回転を止めると、きゃるんっ、と両手の人差し指を頬に当てたあざといポーズを取った。
「あたしはブラッドベリー・レム・パトリオトよ。よろしくね? エイビーくん。……なのじゃ」
………。
これが二十歳前の女性なのかと思うと、辛い……。
彼女はブラッドベリーという女の子などではない。間違いなく姉さんだ。だって語尾に「なのじゃ」って付いちゃってるし……。
あざといポーズで固まったまま、姉さんの顔がどんどん赤くなっていく。
ど、どうすればいいんだ……。
そんな時、後ろから、ずざっ、と後ずさるような音が聞こえてくる。
見ればちょうど通りかかったルナが、姉さんを見てどん引いていた。
「い、いちごちゃん……? な、なんですか、それ……」
姉さんの顔がさらに真っ赤になっていく。
そして、耐え切れなくなったのか、遂に叫んだ。
「ち、ちがうのじゃああああああああああああああああああっ!!」
姉さんはそのまま玄関から出て行ってしまった。
しばらく待っても姉さんが帰ってくることはなかった。
……というか、何しに来たんだ?
――もしかして、制服姿を見せに来てくれたのか?
だとしたら、少し悪い事しちゃったかな?
……だけど、次、どんな顔して会えばいいのだろうか……。
【ゼロの賢者】の逆転無双!! ~魔力がないので追放されたけど、魔力なしで魔術が使える最強賢者になりました~ よーみ @mariauesugi777
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