第16話 【戦場の黒い死神】
「いやー、死ぬかと思ったぜ……」
ようやく回復したショットが青ざめた顔で言った。
というか上級ポーションを使わなければならないくらいのダメージを負っていたのだが、師匠は本当に手加減というものを知らないんだな……。
ショットが小声で耳打ちしてくる。
「お前よくこの人の元で弟子をやり続けられてるな……」
まったくだ。思えば俺も何度死にかけたか分からない。
「おい、聞こえ取るぞショット。もう一発欲しいのか? それとエイビーよ、お前も何か言いたげな顔じゃな?」
「「い、いやいやいや」」
俺とショットは同時に首を横に振っていた。
「しかしショットよ。お前も相変わらずじゃな。誰彼かまわずケンカを売る【悪童】……その悪名はワシの領地にまで響いておるぞ?」
「はっは! 普通の冒険者だともう相手にならなくてよ。そこでアネキが稽古つけているガキがいるっていうからこうして見に来たってわけだ」
……何やってんのこいつ? ケンカを売られた方は普通にたまったもんじゃないよ。
それに伯爵の嫡男が冒険者相手に喧嘩を売りまくってるのかよ……滅茶苦茶だな。
「だが、来て正解だったな。まさか年下でこの俺と対等に戦える奴がいるなんて思いもしなかったぜ」
「ふんっ、このワシの弟子じゃ。当然じゃろ?」
師匠が薄い胸を張って得意げに言った。
彼女にそのように言ってもらえるのはちょっと……いや、かなり嬉しかったりする。
「ただよぉ、お前、【魔力ゼロ】なんだろ? どうして身体強化の魔術を使えんだよ?」
……しまった……。先程はついカッとなって身体強化の魔術を使ってしまったからな……。
俺がどのように言い訳したものかと悩んでいると、
「まあいいさ。お前が話したくなったら話してくれよ、ダチ公」
そう言ってまた肩をバシッと叩いてくる。
敢えてこちらの事情を探ってこないか……こいつ、意外といい奴かもしれない。
「あ、そうだ。エイビー、お前、俺の弟分になれよ?」
「……え?」
「そんな嫌そうな顔すんなって。俺はお前がマジで気に入ったんだ。特に他人のために怒れるところなんてな」
どうやら本当に気に入ってもらえたらしいが、俺がどうしたものか悩んでいると、ストロベリー師匠が口を挟んでくる。
「ショットはこう見えて中々見どころのある奴じゃぞ。前に会った時に少し稽古を付けてやったことがあるのじゃ。そういった意味ではお前の兄弟子じゃな。まあ先程の動きを見る限り、ほとんど我流で昇華させてしまったようじゃが……」
師匠は説明を続ける。
「ショットの才能は帝国でも上から数えた方が早いじゃろう。この歳で身体強化を使える時点で分かるとは思うが……。それに近接戦闘に関してはショットの方がお主より幼い時から修練を積んでいた分、一日の長がある。恐らく同年代でショットに敵う者はおらぬじゃろうて。まあ、お主とはまた別のタイプのてんさ……いや、才能を潰すようなことを言うのはよそう」
彼女は何かを言い躊躇ったが、そのまま続ける。
「まあワシが何を言いたいかというと、この話はお主にとっても悪い話ではないということじゃ。ショットは役に立つ男じゃぞ。仲良くしておけば、きっと将来助け合える仲間になれるじゃろう」
へえ、師匠がここまで言うとは。
彼女がここまで言うのなら、俺に断る理由なんてない。
「分かりました。……よろしく、ショット」
「へえ、お前随分とアネキのこと信頼してんだな。アネキが言ったら即オーケーとはね」
あ、しまった。ちょっと失礼だったかな?
「気にすんな。俺もめちゃくちゃを言っていた自覚ぐらいはある。それにアネキのことを信頼してんなら、それに越したことはねえよ」
そう言ってショットはニッと笑う。
……へえ、見かけによらず意外と考えているんだな。
確かに師匠の言う通り見どころのある男なのかもしれない。
俺は気持ちをあらためると、彼に向かって手を差しだす。
「じゃあ、あらためてよろしく頼む、ショット」
「ああ、よろしくされたぜ。それと俺のことはアニキと呼べ」
「はは……本当に強引なんだな。でも分かったよアニキ」
俺は苦笑しながらもショットとギュッと握手を交わす。
その手を握りながら思った。……あれ? もしかしたら前世から含めて俺にとって初めての友達ではなかろうか?
そう思ったらちょっと感慨深かった。
その様子を見ていたストロベリー師匠が「あ、そうじゃ」と声を上げる。
「そう言えば、実はこやつの実戦相手に同格の相手が欲しかったところじゃ。ショットよ、お主たまにこやつの相手になってやってくれぬか? それはお主にとっても悪い話ではあるまい?」
「ああ、別に構わねえぜ。俺も強い奴と戦うのは望むところだし、何よりこいつは面白れえ」
「ほう……ショットよ、お主もそう思うか?」
「ああ。アネキが弟子にした理由が分かったぜ」
二人は何やら分かり合っているようだが、当の俺は何の事だか分からず狼狽えるしかない。
とにかく、こうして将来の【帝都六英才】の一人、【戦場の黒い死神】と呼ばれることになるショット・ロウ・ブルッフェが仲間になったのだった。
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