第13話 最強への道
彼女――ストロベリー師匠と話し合った結果、俺は身体強化の魔術を直に習うことになった。
彼女曰く、俺の歳で身体強化の魔術が使えている時点で異常らしいが、彼女に比べるとまだまだ技術の粗が荒い。その点を彼女から直に習って少しでも距離を詰めたいと思う。
しかしまずは素の肉体を強くしないと意味が無いというのが彼女の持論だったので、まずは基礎訓練と剣術の指南を先に受けることになった。
そして――翌日から早速訓練が始まる。
場所は昨日と同じく見晴らしの丘。
ただ、彼女の特訓は思った以上のスパルタだった。
丘をぐるっと一周走らされてからの腕立て百回、腹筋百回、背筋百回。それらを身体強化の魔術を禁止された上で三セットずつやらされるという。
そのとんでもないメニューの数々に俺は驚愕するしかなかった。
――そもそも普通の六歳児が腕立てを百回も出来るわけないだろ!?
丘の一周だって一周どれだけ距離があると思ってんだよ!?
これまで魔術の勉強ばかりで体を鍛えて来なかった俺にとって、それは紛れもなく地獄だった。
本当に死にそうな表情をしている俺に向かって、ストロベリー師匠が言ってくる。
「ほら、どうした? そんなものか? 根性見せんか!」
「し、師匠……冗談抜きで血を吐きそうなんですが……」
「血を吐いてもやらんかい! 今日は回復薬を沢山持ってきたからな。上級ポーションもあるゆえ筋繊維が切れても最悪回復出来るぞ」
……鬼だった。この少女は紛れもなく鬼だ。
特訓の内容は六歳児に課すようなものでも、ましてや十二歳の少女が課してくるようなものでもない。
「というか、ワシは最初に何と言った? 弱音を吐いたら訓練をやめるとそう言ったはずじゃな? 今のは聞かなかったことにしてやるからとっととやらんかい!」
弱音を吐くことすら禁止された。
というかさっきのは弱音というよりは本音だったのだが……。
実際さっきから胃からせり上がって来たものの中に血の味がする……。
前世で弱音を吐きまくって来た俺にとってまさしく初めての経験だった。
くそ……せめて何か癒しがないとやってられない!
そんなことを思いながら腹筋していると、ある物が目に入ってくる。
それはストロベリー師匠の太ももの付け根だった。
彼女は鎧を着用しているが下は何も着けておらず、鎧の前垂れと白い布の前垂れはあるが、まるでスリッドのようになっていて太ももの付け根辺りがちらちらと見えるのだ。
太ももの付け根付近の筋が見えるということは、もしかしてこの子、何も穿いていない……?
バカな……そんなことがあり得るのか!?
精神的にはこんな幼い子のそんな場所に釘づけになることはまずいと理解しているが、肉体的には目の前にいるのは年上の可愛いお姉さんであるためか目が離せない……とか思っていたら突如、腹に鋭い衝撃が走る。
「ぐふぇっ!?」
「……貴様、さっきからどこを見ておる?」
気付けば彼女の足が俺の腹に埋まっていた。
やべえ、息が出来ねえ……。
いくら何でも六歳の子に対して本気過ぎでしょ……!?
「乙女の秘所を覗き見ようなどとは、まったくけしからんやつじゃ!」
普通の乙女はそもそもこんな重い一撃を放ってこないんだけど……。
ダメだこの子、すぐに手が出るタイプだ……。実害がある分、オキクよりタチが悪い……。
そう思いつつ俺の意識はあっさりと闇に飲み込まれた。
と思ったら顔に水をかけられて強制的に意識を戻される。
「寝ている暇はないぞ。さっさと続きをやるがよい」
本当に鬼かな?
「よいか? 筋繊維はダメージを受けると超回復する。その際に体内の魔力を吸着しながらより強い筋繊維になるのじゃ。じゃからぎりぎりまで追い込まなければならぬ。もし本当に強くなりたいのならこれくらいはやってみせよ」
……超回復。それは前世でも聞いたことがある。筋繊維がダメージを受けて回復する際の超回復と呼ばれる現象は、筋肉をより強くする。それは前世でもあった。
しかし……魔力を吸着しながら回復するだって? ということは前世よりもさらに効率よく、さらに強くなれるということか?
……ああ、なるほど。それで納得がいった。彼女は身体強化の魔術を使わず、自分よりも巨大な戟を背負っていた。いくら何でもおかしいと思っていた。普通の少女だったらとっくに押しつぶされているはずだ。
だから彼女は自分が説明した通り、魔力を吸着しながら筋肉を強くしていったのだろう。それで身体強化の魔術を使わない状態でも強い肉体を手に入れたに違いない。
だが……今の説明だと俺にとって一つ懸念点がある。
彼女は体内魔力を吸着させると言った。しかし俺にはその体内魔力がないのだ。
すると彼女は見透かしたように、
「もし体内に魔力がなかったとしても、空気中の魔力を吸い込めば何とかなるのではないか? まあ、もしもの話じゃがな」
……この子、もしかして全部見抜いてる?
「ちなみに筋繊維を壊す時は魔力を取り込む必要はない。要は超回復を起こす時に魔力を取り込めばよいのじゃ。その時は筋繊維に魔力を定着させるように意識しながら魔力を全身に届かせるようコントロールするとさらに効果は高まるぞ。まあ、もしもの話じゃがな」
この子、絶対俺が何をしたか気付いているよね?
しかし……やはり彼女に師事を請うたのは間違いではなかったと思う。今説明してくれたことのような内容は、俺が一人でやっていたとしたら気付くとしてもかなり時間がかかったことだろう。
特に魔力を筋繊維に定着させるなどという発想に辿り着けたかどうかは分からない。
「ちなみに今説明したやり方はワシが自分で発見したことじゃ。どうじゃ、すごいじゃろう?」
そう言って彼女は薄い胸(とか言ったらまたぶっ飛ばされそうだから言わないけど)を張った。
確かに凄い……。
というか驚いた。彼女が自分で発見しただって?
だとしたらますます彼女に師事したのは間違いではなかったと言える。
彼女から得る極意の数々をモノにすることが出来れば、恐らくこの世界で相当上位にいけるはずだ。しかも俺には俺にしかないアドバンテージである【流体魔道】すらあるのだから。
これは益々楽しくなってきた。
よし、頑張ろう!
「ほう、目に光が戻ったか。(実際のところは初日くらい泣き出してギブアップするかとも思っていたのだが……これは中々根性もあるではないか)」
俺は腹筋の続きに戻る。
ただ、そうすると自然とまた彼女の太ももの付け根が見えてくるわけで、その奥に向かって視線が行ってしまい、そして――ストロベリー師匠の足が俺の腹にめり込んでいた。
「ごっはぁッ!?」
「まったく……懲りぬ奴じゃな」
彼女の白い目が俺を見下ろしていた。
というかあんたが俺の目の前に立ってるのが悪いんじゃん!? 俺が腹筋したら丁度目の前に花園への扉があるんだもん! そりゃ目が行くよ!?
師匠は俺の腹を足でふみふみしながら、
「それともこうやってワシの足で直接、筋繊維を壊して欲しいのか? そんな変態じゃとさすがのワシも引くぞ……」
そんなわけないだろ!?
しかし俺は何も言い返すことも出来ず、再び意識を手離すしかなかった。
次に目を覚ました後、俺は目を瞑りながら腹筋しましたとさ。
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