※ 蜘蛛の毒(二)

「このことは、『後白河方は、有力姓の長ですら〝謀反人〟とする力がある』と世に知らしめた、大きな事件となりました」

「大きな事件……か。これまで知らずにいられたのは、皆のおかげだな。常盤の義母上や宗寿丸たちと同じく、私も守られていたのだと、先日わかったところだが」

「若様……」

「そなたも、世間知らずの嫡男を教育するのは大変かと思うが、よろしく頼む」

「承知いたしました」


 頭を下げた小助の〝気〟が、少し和らいだ。


「話を戻しますね」

「うむ」

「頼長卿の件ですが──」


 藤原氏の長である頼長卿は、権力を笠に着て慣例を無視するまつりごとを行っていた。また苛烈な性格と横暴なふるまいは、人々を苦しめてきた。そのつけ・・を、まずは邸を押収されるという形で、払うこととなった。


 計略をここまで進めた信西殿。その後は、ただ待てばよかった。

 刻一刻と、過ぎていく時間。

 もともと己の利しか考えていない者の集まりだ。ひとりでも不穏な空気を感じてしまえば、一度落ち始めたら止まらぬ砂時計と同じだった。

 ひとり、またひとりと、崇徳方から兵が減っていく。そればかりか、出世を捨てきれなかった者は後白河方に寝返った。

 そして──


「たった一日で、四面楚歌のごとく周囲を固められた崇徳方は、身動きが取れなくなりました」

「……蜘蛛のようだな」

「は?」

「信西殿のことだ。頭の良い御仁ということはわかるが、手段がな……蜘蛛が毒を注入し、獲物の体に回る様子を眺めているように思えたのだ」

「それは……言い得て妙ですね」


 ……その毒は、我が家にも及んだのだ。


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