清和の流れを汲む者(一)
その夜。
もうすぐ亥一刻(午後九時)になるというのに。ほの暗い私室にて、私は眠れずにいた。
少しずつ、だが確実に灯芯を燃やしていく火と、自らが火にのまれながらも貴重な油を吸い続ける灯芯。まるで後白河方と崇徳方を表しているようだ。
『保元の乱』……『源為義』……彼女の教養書の文言が、私の内をぐるぐると渦巻く。
押し寄せてくる不安を打ち消すように、だが……と胸の内で呟いた。
……そうだ。何も案ずることはないではないか。ここは〝平安時代〟とは違うのだ。もし戦になったとて、お祖父様がご無事のまま事が収まるはずだ。
灯芯がじりじりと燃える音に、庭の蝉の声が重なる。そこへ、
「……若様」
私を呼ぶ、かすかな低い声がした。この声は……主厨長か。
極限まで抑えた声であるにも関わらず、御簾と几帳を通ってこちらまで聞こえるとは……やはり特殊な訓練を受けた者に相違ない。
入室の許可を出すと、わずかに御簾の動く音がした。瞬く後には、下座に片膝をついて頭を下げる主厨長と、一人の少年の姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます