第300話 呆気ない結末
「殺(と)った!!」
グラムが降ろした剣に沿って、真っ二つに切り裂かれる俺。
そこからは血しぶきが溢れ…はしなかった。
「こんな簡単にひっかかるなんてな!〈
真っ二つにされた俺は、形を崩しそのまま土くれに変化する。
そう、グラムが俺だと思っていたのはノームより授かった『土の形代』で作り出した身代わりだ。
切られる少し前に発動し、俺自身は幻術により消えてこの形代と入れ替わったというわけだ。
思ったよりも再現力が高くて、ぱっと見では見分けがつかない程そっくりに作られる。
しかも、動きまで再現出来るので本当に俺を斬ったと思った事だろう。
だが現実は、斬られたのは俺ではなくグラムの方だ。
しかし、グラムもスキルを発動しているので手ごたえが浅かった。
「ぐああっ!!くそ、一体どういうことだ!?ニンジャでもないクセに、なんで変わり身なんてつかえるんだ!?」
流石のグラムも、今の状態の俺からの攻撃をはじき返す事は出来なかったらしい。
威力は半減されてしまったが、一撃でかなりの重傷になったようだ。
すぐさま治療ポーションを斬られた場所に降り掛けるグラム。
流石に目の前で飲むほどの隙は見せられないと判断したらしい。
「わざわざ敵に手の内を晒す奴がいるのか?」
いくらこちらが優勢とはいえ、手を緩めれるほど弱い相手では無い。
…正直に言えば、殺すつもりなら既に終わっているが、俺はコイツを殺す程の恨みがあるわけではない。
まぁ、かなり迷惑なので今後一切会いたくないと思っているがね。
それにトドメを刺すなら、セツナがいいだろう。
もはや恨みや怒りしか感じないだろうし。
なので、ボコボコに出来るようにしてやろう。
「くそ、フウマは何をしているんだ!?他の奴らは!?」
「他の奴らは、俺の仲間が相手をしてやっているよ。お前の右腕のニンジャは、うちのカルマが相手をしているみたいだぜ?」
フウマというニンジャは、幻術に近いような忍術を得意とするプレイヤーだ。
他の仲間でも、実力では負けないであろうが忍術は幻術以上に厄介なのだ。
なにせ、分身は本物と同じ能力を有するし、身代わりは本当に本人のダメージを肩代わりするものだから、真正面から戦いを挑めば足元を掬われかねない。
カイトとかだと真正直な攻撃しか出来ないから、すぐに術中にハマりやられている事だろう。
そう言う点では、一枚も二枚も上手であるカルマが相手をするなら単純なチカラ比べと同じ事になるのだ。
なんせ、誤魔化しなど効かないし、身代わりなど発動したところで意味を成さない攻撃を持っているからだ。
その証拠に…。
「主よ、既にフウマなる男は捕らえ済みです。今はスキルにより恐怖のどん底に陥れましたので、暫くは動く事も出来ないでしょう」
SSランクのニンジャが、動けない程の恐怖とか…。
何をしたのか想像もしたくないので、詳細は敢えて聞かない事にしよう。
体は無傷なのに、目から血の涙を流しているとか、口から泡を吹いているとか気にしてはいけないのだ。
「なっ!?フウマがこんな一瞬で!?他の奴らは…」
フウマ以外のグラムの仲間は、丁度ヘカティアとディアナが力でねじ伏せたところだったみたいだ。
なんか、いい汗かいたわ~みたいな顔をしているけど、汗は一切掻いてない。
ますます、化け物じみた能力を発揮するようになってきた。
そして、それ以外の兵士たちも遠くの方ではニクスがその炎で黒焦げにし、ニケが嵐で吹き飛ばし、雷でやはり真っ黒こげにしていた。
「くそっ、こんな筈じゃねーのに!次は、当てる!一刀両断、〈ジ・エンド〉!」
やっぱり、この技。
あの男…、アモンと同じ空間を切り裂くスキルに違いない。
防御力を一切無視して、問答無用で切り裂く攻撃。
一直線で回避しやすいけど、放つグラムの技量がそれを許さない。
つまり、初見じゃなくても回避するのが難しい最高位の剣技だ。
「うわー、やーらーれーたー」
なので、俺も斬られてしまい、その場で
「は?」
「「って、学習能力無いのか?〈
グラムの左右から、俺が二人現れた。
そして、同時にグラムを切り裂いたのだ。
その瞬間、グラムの両手足が吹き飛んだ。
「ガアハァアッ!!?なんだよこれ、なんなんだよ!!」
グラムの体から、金色の光がすうっと消える。
また纏っていた黒いオーラも霧散して無くなり、ドタンと大きな音を響かせ前のめりに倒れて地面に伏した。
あたりに真っ赤な血だまりをつくり、それがどんどん広がっていく。
まるでグラムの生命力が散っていくのを表現しているかのようだ。
どうやら、今の一撃がトドメになったようだな。
…さて、これからが問題だな。
「カルマ、他の連中はどうだ?」
「主よ、問題なく捕えております。悪魔の固有スキル、〈魂の契約〉で誓約させておりますので、余程の事が無い限り逃げる事すら不可能です」
「おおう…。そういや、お前は悪魔でもあるんだったな。すっかり忘れてたよ」
「それよりも、このグラムはどうするのですか?このまま命を奪うのであれば、我が魂を吸収してすぐに復活出来なく出来ますが?」
こいつは、放っておいても死ぬだろうな。
しかし、治療してしまえばまた悪さを仕掛けてくるだろうし…。
「こんな簡単に命を奪っても、あの世でも後悔しなさそうなんだよなぁ。なんというか、もっと懲らしめたいというか…」
「なるほど。それで手を抜いて戦っていたんですね?それであればこういうのはどうでしょうか?───してから、───するんです。そうすれば──」
「─なるほどなぁ、そう言う手があったか。うわー、ちょっと同情しちゃうかも。でも、元はと言えばコイツが悪いんだから、恨まれる筋合いもないな」
「その通りです、主」
流石は悪魔。
いや、闇の精霊でもあるんだけど、どっちでも黒いか、ややこしいね。
それよりも、今教えて貰った内容を実行する前に仲間には説明しておく必要があるな。
言っておかないと色んな誤解を招きかねないので。
「───と言うわけなんだ」
「パパ、良い事だとは思わないけど、それでも最終的に助かるんだしいいと私は思うよ」
「なるほど、そういう手があるのか。だが、完全に失敗する事もあるんじゃないのか?」
「ユートさんが決めるなら、私も反対しませんよ」
「ええと、そもそもユートさんは何でそんな事出来るんですか!?私、聞いてないんですけど!?」
そういや、アリアには俺がこれが出来る事を教えていなかったな。
まぁ、王族に伝えると色々と拙くなりそうな気がしたし、そもそも聖女だったから言わなかったのだけどね。
取り敢えず、リンとサナティに反対されなかったから良しとしよう。
ああそうだ、セツナの疑問は尤もだな。
「俺の場合は、既にスキル的にはカンストしているんだ。だから完全な失敗は起こらないんだよ。ただ、前の世界の時はって話なんだけどね…」
LBOの時に、カンストさせていたのは数人しかいない。
だから、その人達の話だと無いらしいという事なんだけど。
まぁ、本当に失敗しちゃったら笑って誤魔化そう。
誤魔化せるような問題じゃないとしてもだ。
───その時だった。
「あ、主様。この者の命が尽きたようです」
「「「えええーっ!?」」」
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