第297話 しつこい奴ら
─来たか。
辺りの土が一気に盛り上がる。
その勢いで、倒れている兵士たちは宙を舞っていた。
おいおい、相変わらず仲間の命は無視かよ。
だがそれを工程するかの様な存在が地面の下から現れる。
ヴォォォ…ヴォォォ…
苦しそうな呻き声しかあげれなくなった無残な姿で現れたのは、既に命が無い屍の人形と化した兵士達だ。
あの時とは違う装備をしているのを見ると、新たに用意していたんだろう。
こうなってしまえば、もはや元に戻す事も出来ない。
そもそも、いやは魂さえ無いはずなのにどうやって?
『クックック。我がスキル、〈
なるほど、ご丁寧に自分で説明してくれるとか余程頭が悪いのか、それかかなりの自信家なのか?
しかし、そんな事を考えていたら土の中から現れた屍兵士達が一斉にこちらを向ってきた。
その手に持つギラギラと光を放つ武器が俺を狙って次々に襲いかかってきた。
カルマでは無く、主人である俺を狙うのは正しい判断だな。
いくら強化されてるとはいえ、所詮はゾンビだ。
一瞬で灰にしてしまうだろうからな。
しかし、俺を狙われると俺を巻き込むような大規模な魔法は使いにくい。
なので俺が自力で解決するか、もしくは…
『私の事を忘れてもらっては困ります。主様、ここは私にお任せを!』
ニケがファルコニアの姿のまま魔法陣を展開する。
俺を守るように魔法障壁を張ったあとに、辺りの屍兵士に風魔法を展開した。
『吹き飛びなさい、アークウィンドブラスト!!』
圧縮された風が一気に膨れ上がり、一気に弾け飛ぶ。
たちまちに、風圧に負けて弾かれていく屍兵士達。
しかし、次から次に現れるので数が減った感じがしない。
『まだまた行きますよ!〈
ニケの周りに強烈な嵐がまき起こり、範囲内の敵を風の刃で斬り刻んで風属性の大ダメージを与えていく。
その威力は、装備している鎧が粉々になるほどだ。
うわぁ、また威力上がってるな。
てか、範囲でこの威力とかニケも中々にエグいよな。
おおよそ数百の屍兵士がこの一瞬でHPが尽きたらしく、灰と化していた。
その場に装備していた武具だけがガランと転がる。
その転がった物を気にせずに踏み潰し、わらわらと湧いてくる新たな兵士たち。
『ククク、いくら潰しても無駄です。こちらの駒はいくらでもいるのですカラね!すべての兵士を倒す前に魔力が尽きるダロう?』
『この程度の雑兵などに使う魔力など、微々たるものですよ?この程度なら、万居ても尽きる事はないですわ』
『!!?』
その言葉を聞いて、一瞬驚く雰囲気が伝わってくる。
しかし、そのあとあの調子の声が再び聞こえる。
『フンッ!その程度の嘘を見抜けぬワタシクだと思っているのカッ?いつまで、その虚勢を張れるのか見ものだナ!』
いやいや、そう言いつつも明らかにきょどっているぞ?
しかし、それも仕方ない事だろう。
ロペは見た目こそふざけた格好をしているが、その実力は本物だ。
だから、今のニケがどのくらいの強さであるか、かなり正確に把握したようだ。
『そうまで言うなら、見せてあげましょう!』
ニケはそう宣言すると、バサッと大きく羽を広げた。
その勢いで舞う沢山の羽根。
それが雷を帯びてチリチリと小さな雷を放っていた。
『さあ、舞え!〈ライトニングフェザー〉!』
ニケが命ずるままに放たれた雷を帯びた羽根たちは、辺りを取り囲む屍兵士を次々に貫いていく。
それだけではない。
その羽根に触れた瞬間にスパークし、その全身を黒焦げにし、通り過ぎる頃には屍兵士たちは灰と化した。
あれは凄いな。
<フェザーバレット>よりもかなりMPの消費が多いけど、放たれた羽根は次々に獲物を見付けて貫いていっている。
たった1枚の羽根で数十体の敵を倒せるなら、効率は格段にいいな。
手を緩めずに、さらに数度の〈ライトニングフェザー〉を放つニケ。
屍兵士たちは、ニケに近づく事すら出来ずに武具を遺して灰となって消えていっている。
まるで大きな雷の輪が広がっていくかのように、放物線を描いて広がり飛んでいく雷の羽根が外側まで到達する頃には約半数の屍兵士が灰となって消えたのだった。
その間、ロペも黙って見ていたわけではない。
魔法を使う屍兵士や自身の魔法でニケの羽根を撃ち落としていたが、その数は数えるのが不可能に思える程に多く、処理しきれていない様だった。
『こ、こんな鳥の羽根でワタクシの兵達が・・っ!』
ここに居たっても、まだ姿を隠しているロペ。
しかし、自ら攻撃に加わっている時点でどこにいるかはバレバレだ。
いや、そうじゃなくてもどこにいるかは俺からは視えているんだけどね。
だけど、俺が指示するまでもないようだ。
一瞬だったが、
『こ、こうなれば仕方ない!アイツらをここで呼ぶしか!』
「ふむ、早く呼ぶがいい。しかし、もう手遅れだがな」
陽炎のように揺らめく空間から、カルマが現れた。
そして手に黒い炎を纏わせて、何もない空間をそのまま掴む。
「が、がああああああっ!!なぜ、バレたのデスカっ!」
カルマの固有スキルである〈黒炎〉で全身を焼かれつつ、何もない空間からロペが現れた。
「高位の悪魔でもある我には、その姿を看過するのは容易い事だ。まぁ、お前は我を見つけることが出来ていなかったようだがな」
「くそー、このままやれて堪るものデスカ!」
しかしロペもそのまま黙って捕まりはしなかった。
ポワンと煙を発して、一瞬にして消えてしまう。
そして、少し離れた場所に現れたのだった。
「ハー、ハーッ!危ないところデシタ!こうなったら迷っている場合じゃないですネ。…<サモン・コール>!!」
ロペの地面に大きな魔法陣が浮かび上がる。
スキルなのに、魔法陣とかややこしいがどうやら何かを召喚するみたいだな。
厄介なのは、スキルであるという事。
魔法と違い、スキルは発動すれば中断される事はない。
つまり、今からロペを倒しても無意味という事だ。
まぁ、だからって黙って見ているほどマヌケでも無いがね。
…俺の仲間達はね!
『好機!そのまま、逝きなさい!〈天嵐〉!!』
「何が来ようと、討ち滅ぼすだけだ。グラビティフィールド!」
ニケが嵐と雷を呼び、そこから逃げれぬように強力な磁場を作り上げる。
ロペはもちろん、召喚される何かもその場から逃げる事が出来ず力尽きるだろう。
これで勝利は確定したようなものだな。
「アークディスペル!」
「グランドクロス!!」
キィーーーンと甲高い音が響き渡り、強力な磁場を形成していた結界が打ち破られた。
更に眩い光を放ち地面を十字に切り裂く巨大な剣閃がニケの〈天嵐〉を打ち破った。
ええっ!?まじかよッ!
こんなん出来るの、魔王くらいなんじゃ…?
いや、違うな。
というか、やっぱり来たのか。
出来るなら、もう二度と会いたくないと思ってたんだがなぁ。
もうもうと立ちこめる煙の中から、薄っすらと人の形が見える。
その数はざっと見て5人程ではあるが、その誰もが最高ランクを表すステータスを示していた。
「はーっはっはっ!この時を待ってたぜユート!」
「俺は御免だったが、グラムが戦うって言うから仕方なくだぞ…」
グラムとフウマの二人を中心に、あの荒くれ共のクランメンバーがそこに現れたのだった。
「俺もお前たちには会いたくなかったよ…」
うん、色んな意味でね。
しかし、出てきてしまった以上仕方ない。
もう一度お灸を据える必要があるだろう。
但し、グラムにお灸を据えるのは俺ではない。
後から来る彼女にやってもらおう。
「さぁっ、ユート!楽しい戦いのお時間だぜええええっ!!」
こうして、再びおっさん同士の戦いが始まったのだった。
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