第291話 星より授かりしもの

 ステラはこちらをジッと見つめて、なるほどと呟いてから話を続けた。


『君たちは、母様達によって魂だけ転移させられて、この世界に元々存在した者達を使って創りかえられた特異な存在だ。この世界にいた元々の人間はその瞬間に存在ごと消滅して、君達という存在に置き換えられているんだ。だから、異世界から来た人々であり、この世界の住人でもある』


「やはりそうなのか。俺の元となった、に聞いたがこの体は元々この世界の人々の者だったんだな」


『そうだよ。だから肉体の構造はこの世界の人々と一緒だよ。それと、この世界で完全に死んでしまった場合は、この世界の土となり、魂はこの世界の中で新しく生まれ変わるからね』


「じゃあ、俺達はもう元の世界には帰れないのか?」


『帰っても、肉体は別にあるから意味ないんじゃないかな?母様達に魂だけ送り帰して貰えるなら可能かもしれないけどね。あのルキデウスは、そうやってこの星に来たみたいだし』


「情報生命体というのは実体を持たないのか?だとしたらルキデウスは、今も実体を持たないのか?」


 女神の話や、クロノスの話からすると実体を持っているように思える。

 自在に切り替える事が可能なんだろうか?


『うーん、彼はボクが生まれてくる前にやって来たからね。母様達から与えられた情報以外には、この星で観測した彼しかわからないけど…。今は実体を持っている筈だよ。だけど、元がそうだからその肉体を滅ぼしても、元の情報生命体に戻るだけなんだろうなぁ』


「そんなのどうやって倒すんだよ…。女神様も無茶な事をお願いするよな…」


 思わずぼやいてしまう。

 女神からのお願いは大まかに言うと3つある。


 1つ目は、大精霊に会って加護を受けてくる事。

 2つ目は、女神が封印されている場所へ来て女神の封印を解く事。

 3つ目は、この世界の侵略者であるルキデウスを排除する事。


 これらを達成するために、俺は呼ばれたのだと言う。


 それにしてもステラに会ってなかったら分からない事多かったと思うんだが?

 最初から星の大精霊に会って来いとなぜ言わないんだろう?


 それも光の神殿に行って白の女神に会えば分かる事だろう。

 そもそも、光の精霊と光の神殿はどこにあるんだ?


 あの白の女神、肝心な場所を詳しく教えてくれなかったよな?

 いや、あの光の精霊が居た場所になんか覚えがあるような…。

 何処だっただろうか?


「そういえば、光の神殿はどこにあるんだ?」


『あれ?君はその資格を手に入れた筈だけど気が付いてなかったのかい?光の神殿は天使が棲む場所にあるんだよ。あそこの最上階に神殿があるんだ。でも、そこに行くには守護者たちを倒さないといけないんだけど、最初の守護者は既に倒しただろう?』


 そう言いながら俺の装備している腕輪を見るステラ。

 そう言えばこの腕輪を鑑定した時に確かこう書かれていた。


『この腕輪を持つものは、塔の主への挑戦権を得る。これを持つものは、さらに上層階へと繋がる扉が開くことが出来るであろう』


 なるほど、この腕輪は光の大精霊の守護者への鍵だったわけか。


 なるほど、女神が居た場所、あれは『天使の塔』だったのか。

 今まで何で気が付かなかったんだろうか。

 あの時の熾天使が言ってた主というのは、『光の大精霊』だっただったという事だろう。

 段々と霞み掛かっていた記憶が鮮明になっていく感じがする。


 しかし、またあの天使達と戦うのかと思うと少し憂鬱だな。

 まぁ、あの時よりもかなり強くなっている筈だし少しは楽になっているだろう。

 それにあの時手に入れたこの腕輪のおかげで階層から再開出来るから、そこまで攻略に時間が掛からないと思いたい。


 しかし、忘れてはいけない事がある。

 そう、俺の大事な相棒を殺した『アイツ』だ。


 あの戦闘狂の事だ、王都を襲ってきたヘラから情報を聞いて待ち構えている可能性は否定出来ない。

 奴ならやりかねないからな。


 だがもし万が一、『アイツ』が現れたとしても次は無様に負けるような事は無い。

 何故なら、俺達はあの時よりも格段に強くなったからだ。

 『アイツ』も強くなっているかもしれないが、だとしても負ける気にならない。


「主よ、もし奴がもう一度現れたとしても今度は負けませぬ。だから、安心してください」


「そうです、彼が次に現れた時は必ず勝利に導いて見せますから。あの時私達は誓ったのです、二度と主様にあのような思いを抱かせぬと!」


 どうやら、俺が何を考えているかを見抜いたようだ。

 なんとも優秀過ぎるふたりだよ。


「ああ、もちろんさ。俺も今度は尻尾を巻いて逃げるような事はしないからな?」


「「承知」」


 もう迷いはない。

 次の目的地は、あの『天使の塔』だ。


『場所は分かったみたいだね。じゃあ、折角来た君達にボクの祝福を渡そう。──ボクはこの星を司る精霊ステラ!ボクが与える祝福は天に昇る大きな光、そして夜空を照らす神秘の光。この二つの祝福を覇王たるユートに与える!』


 ステラがそう唱えると、彼から金色の光と銀色の光が俺に降り注いだ。

 うぐぐぐぐぐ!?

 な、なんだ?!

 祝福ってわりになんだか少し苦しい感じかするんですが!


【スキル『サンライト』を獲得しました】

【スキル『ムーンライト』を獲得しました】


『サンライト』:天にある星より降り注ぐ光により、パーティーメンバー全員の肉体を活性化させてすべてのステータスを向上させる。

『ムーンライト』:夜に地を照らす星の光により、パーティーメンバー全員の傷を癒しHPおよびすべての状態異常を回復する。


 スキルの内容はこんな感じだった。

 スキルを覚えたら、さっきの苦しい感じは嘘のようになくなっていた。


「…あれ、加護じゃなくて祝福?」


『祝福というのは、加護の上位版だと思ってくれていいよ。並みの人間に授けると肉体が弾け飛んじゃうんだけど、今の君なら大丈夫だからね』


 さらっとなんて怖いもん渡してきたんだ。

 だからあんな苦しい感じがしたのか。

 弾け飛ばなくて良かったわ俺の体。


「覇王のスキルはもうこれ以上覚醒しないのかな?」


『うん、覇王のスキルは全て解放されているよ。後は母様が最後の解放をすれば完了だよ』


「なるほどな。じゃあ、ここには本当に女神の情報を貰いに来ただけか」


『さて、もちろん聖女には加護を授けるよ。滅多に人が来ないから人間の聖女でここの加護を受けるのは初めてじゃないかな?さあ、いくよ~』


 キラキラと輝く光がアリア、リン、サナティに降り注いだ。

 すると、同じく3人が光り輝いていく。


「わあ、綺麗な光だね」


「これが星の大精霊様の加護なのですね、凄い力を感じますわ」


「凄いですね。これが星の大精霊様のチカラ」


 リンがアリアがサナティが同時に加護のチカラを発動した。

 すると、3人の周りに金色に輝くドームが出来上がる。


「これは…、バリアか?」


『ああ、君の居た世界ではそう言うのかな?そう、星属性で張られた障壁だね。それは『星の盾』というスキルで、あらゆる事象から身を護る事が出来るよ。意識をすれば大きさを変えれるから、仲間を守ったりも出来るよ』


「ん?俺の貰った祝福にはそんな機能ないぞ?」


『君は『覇王の盾』があるだろう?あれを持っていると、なぜかこのスキル習得出来ないんだよ~』


「ええー、じゃあ俺には使えないスキルなのか…」


 かなりガッカリだ。

 あらゆる事象から身を護るとか、『アイツ』が使う次元を裂く攻撃を防げそうだったのになぁ。


 …試して失敗したら死ぬから基本は躱すけどね。


『どっちにしろ聖女と覇王は一緒にいなければならないし、お互い協力しあってよ』


「しかしさ。…こんな地底の底まで来てこれだけ?」


『これだけとは?』


「確かに知りたい情報は手に入れたし、新しいスキルも手に入れたけどさ、ここに来るまで結構大変だった割に得られるものが少ない無いと」


『ユートは中々に強欲だね。そんな事を憚らずに言う人間は初めて会ったよ。人が知りえない情報を得た事と人間では通常得られないスキルを獲得ってだけでも、かなりの偉業なんだよ?それでも他に何か欲しいの?』


「もちろんだ!」


 ステラは少し考え込んでから、『あっ!』みたいな顔をした。

 少し演技掛かっていた気がするから、元から用意していたんじゃないだろうか?


『それなら、いいモノがあるよ?』


 すると何処からか一対の小剣を取り出したのだった。

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